ICNND報告書に対する市民社会の共同声明「この計画では遅すぎる。前倒して実行せよ」

日豪共同イニシアティブである「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)」の報告書が本日(12/15)発表されました。ケビン・ラッド豪首相とギャレス・エバンズICNND共同議長(豪元外相)が来日し、エバンズ・川口両議長が鳩山・ラッド両首相に報告書を手渡しました。

  外務省のプレスリリースはこちら▼
  http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/21/12/1211_06.html

『核の脅威の除去(Eliminating Nuclear Threats)』と題する報告書は、ICNNDのホームページからダウンロードできます。
  こちら▼
  http://www.icnnd.org/

両首相への報告書手渡しの後、外務省にて、エバンズ・川口両議長と日本のNGOの意見交換会が開催されました。日本のNGOは、豪州をはじめ世界のNGOとともにICNND報告書に対する市民社会の共同声明「この計画では遅すぎる。前倒して実行せよ」を発表しました。

詳細は▼
icnndngojapan.wordpress.com/
この報告書に関する背景資料は▼
icnndngojapan.wordpress.com/2009/12/01/pre-launchalert/

お問い合わせ
川崎哲(ピースボート/ICNND・NGOアドバイザー)
  03-3363-7561 090-8310-5370 kawasaki●peaceboat.gr.jp ●を@に変えて送信ください
ICNND日本NGO連絡会(ピースデポ気付)
  045-563-5101

 


【PDF】

2009年12月15日

ICNND報告書に対する市民社会の共同声明
「この計画では遅すぎる。前倒して実行せよ」

 「核の脅威を除去する(Eliminating Nuclear Threats)」と題して、オーストラリアおよび日本政府の共同イニシアティブである「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)」の報告書がこのたび発表されました。私たちは、ギャレス・エバンズ、川口順子共同議長をはじめとする委員の皆さんによる一年以上にわたる努力に敬意を表します。しかし残念なことに、報告書の内容は、核兵器廃絶を求める市民社会の期待からは大きくかけ離れたものだったと言わざるをえません。報告書が示した核軍縮の行動計画はあまりに遅く、世界的な核廃絶の機運を後押しするよりも、ブレーキをかける危険性をはらんでいます。

 委員会はこれまで、「現実的」で「行動指向型」の報告書をめざすとしてきました。確かにこの報告書には、有益で実際的な勧告が多く盛り込まれています。その多くを私たちは支持します。重要なのは、「現実的」であるということを、行動をしないことや行動を遅らせるための口実にしてはならないということです。世界の大多数の市民ならびに国家が核兵器の早期廃絶を望んでいるということは、もう一つの「現実」です。核兵器が存在する日が一日のびるごとに、核の廃絶は遅れ、核が使用される危険がまた一日のびるということも、重大な現実です。事実、国連加盟国の過半数は非核兵器地帯条約に署名しており、核兵器禁止条約への交渉開始に賛成を表明しています。日本やオーストラリアが主導しアメリカも提案国に加わった「核廃絶国連決議」に賛同した171カ国は、核兵器を削減できたとしても核兵器が永遠に存続することを望んでいるわけではありません。

 各国政府は、この報告書に盛り込まれた勧告を、一歩も二歩も前倒しして実行していかなければなりません。

ゼロへ向かって 核兵器禁止条約をいま

 私たちが落胆した最大の理由は、この報告書が核兵器廃絶を緊急かつ達成可能な目標としてそこへ至る道筋を描けなかったことです。報告書は、「最小化地点(Minimization Point)」として、2025年までに核兵器2000発以下の世界をめざすとしています。その先に核兵器をゼロにするための過程や時間枠は示されていません。このような行動計画では、委員会が示した核兵器のない世界という目標に向けて前進するのではなく、核兵器が削減されるが保持され続けるという世界の永続化に利用されてしまう危険性があります。

 被爆者たちは、自らの体験の証言を通じて、このような惨劇が地球上のどこにおいてもくり返されてはならないと主張してきました。そして、核兵器の使用は「人道に対する罪」であり、核兵器と人類は共存できないと訴えてきました。科学者たちは、現存する核兵器のほんの一部が次に使われただけでも、地球環境の破壊を含む破滅的な影響がもたらされると警告してきました。近年の国際動向は、核を持ちまた核の価値を是認する国がある限り、他の国もこれに続いて核を持とうとするという現実を物語っています。だからこそ市民社会は、核兵器廃絶のための包括的アプローチを求めてきました。世界の市長たちは2020年までの核兵器廃絶を提唱し、広島・長崎市長はその年に「核のない世界」を祝福しようと呼びかけています。これらの声に真摯に耳を傾けるとき、今回の報告書の掲げる行動計画は、緊急性の意識と危機感をあまりにも欠くものであったと言わざるをえません。

 報告書は、核兵器のない世界を達成するためには包括的な核兵器禁止条約が必要になることを示唆しました。私たちは、そのことの言及を評価します。「現在回覧されているモデル核兵器禁止条約の内容をさらに精密にし発展させるための作業をいま開始すべき」というICNNDの勧告は有益です。私たちは、各国政府に対して、2015年よりも前に真の核兵器禁止条約の多国間交渉を開始することをめざしつつ、この勧告を実行するよう促します。しかし報告書は、核兵器禁止条約を起草する作業を「2025年までのどこか」という遠い未来に押しやっています。現実には、すでに10年以上前にNGOによって起草されたモデル核兵器禁止条約がマレーシアとコスタリカ政府によって国連に提出されており、潘基文国連事務総長はそのような条約を真剣に検討するようくり返し呼びかけています。オーストラリア議会の超党派委員会は今年、核兵器禁止条約の支持を同政府に全会一致で勧告しています。求められているのは、各国政府が市民社会と協力して、核兵器禁止条約への作業を「いま」開始することです。

核兵器の価値を否定する

 私たちは、ICNND報告書が「核兵器の価値を否定する」(Delegitimizing Nuclear Weapons)ことを掲げ、安全保障政策における核兵器の役割を限定する提言を行っていることを高く評価します。報告書は、先制不使用の核態勢をめざしつつ、核兵器の「唯一の役割」は核攻撃の抑止であるとの宣言をすべての核武装国に求めています。表現や目標年限はたいへん慎重ですが、方向性としては正しい第一歩です。報告書が勧告しているとおり、とりわけ米国が、来年初めにまとめる「核態勢見直し(NPR)」で、このような宣言を通じて核兵器の役割を大幅に縮減する政策を明確に採択することが重要です。さらに続いて、現在核の先制使用態勢をとっているすべての核兵器国がこのような宣言をおこない、核を使用してはならないという規範が強化されていかなければなりません。
 
 拡大核抑止(いわゆる「核の傘」)に依存しているオーストラリアと日本の両国が主導する委員会において、このような勧告がなされたことの意義は大きいといえます。とりわけ日本は、委員会の中でこのような核の役割限定に抵抗してきたと報道されていましたので、私たちは今後の日本政府の行動に注目したいと思います。核不拡散条約(NPT)に加盟する非核兵器国の政府の役人が核兵器国の軍縮に抵抗したり、核の傘がなくなって非核の抑止力や防衛力に置き換えらるなら自らが核兵器を持つと脅したり暗示したりするようなことを、私たちはまったく容認することができません。

 世界の大多数の国々が核を持たないと約束しているのは、一部の核保有国による核抑止力を信じているからではないのです。人々が、核兵器の使用や保有は許されないものなのだという良識を有しているからなのです。豪日両政府は率先して、核抑止力への依存から脱却し、非核兵器地帯の拡大や新設など、核によらない安全保障を追求すべきです。

核物質と技術に対する管理強化を

 ICNND報告書は、「核テロの脅威」や「原子力の平和利用にともなう危険」に言及しています。しかし、ウランやプルトニウムなど、核兵器に転用可能な物質および技術に対する具体的な規制措置の提案は不十分なものです。この報告書は、おりしも気候変動枠組み条約に関するコペンハーゲン会合(COP15)のさなかに提案されました。地球温暖化によって世界的なエネルギー政策が転機にあるなか、原子力にともなう核拡散の脅威に対処するために、より一層強い措置が必要です。

NPT再検討会議へ行動を

 国際社会は、2010年5月のNPT再検討会議で具体的な前進をつくり、核兵器廃絶が展望できる状態を作らなければなりません。人類の運命を決定するにあたって、圧倒的な多数派の意志を尊重するのか、その多数派を支配しようとする少数の国家等の存在を優先すべきなのかと問われれば、私たちが選択すべき道は明らかです。良識、民主主義そして法の支配を奉じ、人類の未来を担保する道を選ぼうとする限り、多数派の声こそ最優先されなければなりません。そして、核兵器の全面廃絶への願いを明確に表明している者たちこそ、多数派なのです。

 平均年齢75歳を越えた被爆者の何人かがまだ生存している間に核兵器のない世界を実現することは、地球社会共通の責務なのです。私たちは、オーストラリア、日本をはじめとする各国政府が、ICNND報告書に盛り込まれた有意義な勧告を、率先して、より速い時間枠で履行していくことを強く要請します。私たちは、その行動を関心をもって注目していきたいと思います。

署名者

秋葉忠利
(日本)広島市長 平和市長会議会長

田上富久
(日本)長崎市長

森瀧春子
(日本)核兵器廃絶を求めるヒロシマの会 (HANWA)共同代表 ICNND 日本NGO 連絡会共同代表

内藤雅義
(日本)日本反核法律家協会理事 ICNND 日本NGO 連絡会共同代表

田中熙巳
(日本)日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協) ICNND 日本NGO 連絡会共同代表

朝長万左男
(日本)核兵器廃絶ナガサキ市民会議 ICNND 日本NGO 連絡会共同代表

イメ・ジョン
(ナイジェリア)核戦争防止国際医師会議 (IPPNW)共同代表

セルゲイ・コレスニコフ
(ロシア)核戦争防止国際医師会議 (IPPNW)共同代表

バプ・タイパレ
(フィンランド)核戦争防止国際医師会議 (IPPNW)共同代表

レベッカ・ジョンソン
(英国)アクロニム軍縮外交研究所所長

ケイト・ハドソン
(英国)核軍縮キャンペーン(CND)議長

ビル・ウィリアムズ
(オーストラリア)オーストラリア核戦争防止医学協会 (MAPW)代表

ジム・グリーン
(オーストラリア)地球の友オーストラリア 核問題キャンペーナー

中村ひで子
(オーストラリア)ジャパニーズ・フォー・ピース(JfP)代表

アイリーン・ゲイル
(オーストラリア)オーストラリア平和委員会(南オーストラリア)財務部長

ティルマン・ラフ
(オーストラリア)核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)議長 ICNND 共同議長に対するNGO アドバイザー

川崎哲
(日本)ピースボート共同代表 ICNND 共同議長に対するNGO アドバイザー