ICNND広島会合に関するNGO声明

ICNND広島会合に関するNGO声明

2009年11月6日

日豪政府主導で発足した「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)」の第4回会合が10月17日~20日に広島にて開催されました。ICNNDは本年末から来年初頭にかけて報告書をまとめ、発表する予定です。

広島会合終了後の記者会見において、ギャレス・エバンズ、川口順子両共同議長は、会合での議論の概要を示しましたが、残念ながら、その内容はこれまでICNNDへの働きかけを行ってきたNGO・市民として、落胆せざるを得ないものでした。

そこで本日、この間ICNNDの取り組みを注視してきた日豪および国際NGOのメンバーは、両共同議長及びICNND事務局に対し、添付の声明を送付しました。

海外の署名者の関連情報は下記のサイトをご参照ください。

核戦争防止国際医師会議 (IPPNW)
International Physicians for the Prevention of Nuclear War
www.ippnw.org/
オーストラリア核戦争防止医学協会 (MAPW)
Medical Association for Prevention of War
www.mapw.org.au/
核兵器廃絶国際キャンペーン (ICAN)
International Campaign to Abolish Nuclear Weapons
www.icanw.org/


核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)広島会合に関するNGO声明 (仮訳)
2009年11月6日

2009年10月17日から20日にかけ、日豪両政府のイニシアティブによる核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)の第四回会合が広島で開催された。会議終了後の記者会見において、共同議長から会合の概要が説明された。きわめて遺憾なことに、共同議長の発言は、過去1年以上にわたって委員会への関与を続けてきた市民社会の代表の期待を大きく裏切るものであった。

委員会は、「行動指向型の報告書」を作成し、「各国の政治的指導者に働きかけ、実際の核軍縮等を促す」と述べていた1。しかし我々は、近い将来に発表される予定の委員会報告が、「核兵器のない世界」への現在の気運をむしろ失速させかねないとの危惧を抱いている。

様々な市民社会の団体が、2020年から2025年の間に核兵器を廃絶するよう求めている。レーガン・ゴルバチョフ両大統領による一連のレイキャビク・サミットでは、核兵器廃絶の過程に10年を要するとの見通しが示されていた。両共同議長が署名者に名を連ねている「グローバル・ゼロ」キャンペーンは、2030年までに核兵器のない世界を達成することを提唱している。そして、被爆者は、自らが存命のうちに「核兵器のない世界」が実現することを切望している。しかし委員会はゼロに至る目標年を提唱しなかった。「中期」目標として、2025年までに1000発を優に超える核兵器が存在する「最小化地点」が設定し、その後については実施における詳細も、時間枠もまったくなく、示唆さえもされていない。このような報告書を出すことの実際的な結果として、脅威に見合った切迫感が失われてしまうのみならず、委員会の勧告が、核兵器ゼロではなく、核兵器が削減された世界をめざす国々の正当化の口実に使われてしまうという重大な危険性が存在する。1000発を優に超える核兵器が存在する「最小化」地点は、我々が直面している危険を最小化せず、世界的な大惨事に至る危険を継続させ、人類の文明社会を終焉に導く。これが冷厳な現実である。

市民社会は「核兵器禁止条約」(NWC)の早期交渉開始を求めている。しかし委員会は、NWCを遥か彼方の期待という程度にしか受け止めていないようである。広島会合終了後の記者会見を受けたメディアの伝えるところによれば、共同議長はNWCについて中期(2012年?2025年)で取り上げられる課題であると言及したという。しかし、直近の将来において委員会がNWCに直接的かつ明確に取り組むとの意志を示さないことに深い失望を禁じえない。我々は、検証可能かつ段階的なNWCの交渉を遅くとも2015年までに開始し、2020年までに締結することが妥当かつ現実的であると考える。
委員会は、2012年までに、核兵器の役割を核攻撃の抑止に限定する(中核的抑止)との宣言を行うことを提唱した。「中核的抑止」はそれ自体は目標ではないが、このような方法で核兵器の役割を制限することは、核兵器の数や前方配備、警戒態勢の大幅な低下を促進するための重要な措置である。しかし、委員会の2012年という目標年は、きわめて重要な意味を持つ来年の核不拡散条約(NPT)再検討会議までに核兵器国とその同盟国が自国の安全保障政策における核兵器の役割を低下させることを実質的に遅らせかねない危険性を孕んでいる。とりわけ現在においては、米国の核態勢見直し(NPR)ならびにロシアの軍事ドクトリンの見直しが進行中であり、来年早々には完結するとされている。今こそ圧力をかけるべき時である。世界の核兵器の95%以上を保有する米ロは、もし自国の本気度を示そうと思うのであれば、両国がすでに述べている「核兵器のない世界」への誓約を自国の軍事ドクトリンに反映させなければならない。両国がそうした行動を選ぶならば、それは前進の大きな一歩となり、NPT再検討会議成功の可能性を飛躍的に増大させるであろう。もし両国がそのような道を選ばなければ、拡散のなだれ現象を起こす限界点を越えてしまうだろう。

関連した問題が核兵器の「先制不使用」である。10月18日に京都で、岡田克也外務大臣は、かねてからの持論である核兵器の先制不使用支持を再び繰り返し、ICNNDの報告書がこのような政策を支持することに期待を示唆した。しかし委員会は、先制不使用の早期採択を勧告する代わりに、これを2025年を目指した中期目標へと後退させたようである。ICNNDはその定義に混乱を生じさせる要件を導入したが、現在の重要な局面においてこのような遠い目標は間違ったシグナルを送るものである。

伝えられるところによると、日本の委員ならびに諮問委員が、米国の拡大核抑止(核の傘)を弱体化させるとの理由から、これらの勧告の目標年を遅らせる上で重大な影響を与えたとされる。そのような主張は、欺瞞的かつ非建設的な議論である。日本の委員や諮問委員がこれらの問題における妨害的な役割を果たしたことが事実であるとすれば極めて遺憾である。核軍縮の前進に向けて最終的に行動するのは政府である。委員や諮問委員の任命が日米両国での政権交代以前であったこと、さらには、日本の共同議長が(現野党の)高位の現役政治家であることによって委員の独自性がそもそも損なわれていたことを念頭に置きつつ、日豪両政府は政策指導力を発揮しなければならない。また、両政府は、「核兵器のない世界」の実現に向けた具体的措置への必要な支援を現在の重要局面において弱体化させ、あるいは遅延させる動きを容認してはならない。両政府は、核兵器廃絶に向けた不可欠の初期措置として核兵器の役割縮小と先制不使用ドクトリンへの支持を速やかに宣言するべきである。

我々はまた、核兵器の使用あるいは使用の威嚇の禁止に時間枠が定められていないこと、また、広島会合以前の報道で1000発とされていた2025年までの核兵器の目標数が会合後に「2000以下」になっていたことも遺憾に思う。我々は、「最小公分母.」でまとめるというプロセスが委員会の仕事を妥協の産物にしてしまうのみならず、広範な市民社会の支持を獲得し、意識を喚起し、指導力を発揮する上での潜在能力を低下させていると懸念する。我々は、今後委員会が勧告を強化し、「核兵器のない世界」に向けた真の主導性を示し、効果的な政策提言を行うよう望む。
来年の再検討会議に向けて、我々はすべての政府に対し、今年4月のオバマ大統領のプラハ演説や9月の国連安全保障理事会決議を含む、近年の一連の出来事がもたらした「核兵器のない世界」への気運をさらに高めるべく、具体的行動をとるよう要求する。人類が直面する重大な危機を乗り越え、「核兵器のない世界」の実現に向けた現在の歴史的好機を活用してゆくような大胆な指導力が求められている。

署名者:
森瀧 春子
核兵器廃絶を求めるヒロシマの会(HANWA)共同代表
ICNND日本NGO連絡会共同代表
内藤 雅義
日本反核法律家協会理事
ICNND日本NGO連絡会共同代表
田中 煕巳
日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)
ICNND日本NGO連絡会共同代表
イメ・ジョン(Ime John/ナイジェリア)
核戦争防止国際医師会議(IPPNW)共同代表
朝長 万左男
核兵器廃絶ナガサキ市民会議
ICNND日本NGO連絡会共同代表
セルゲー・コレスニコフ(Sergey Kolesnikov/ロシア)
核戦争防止国際医師会議(IPPNW)共同代表
ヴァプ・タイパレ(Vappu Taipale/フィンランド)
核戦争防止国際医師会議(IPPNW)共同代表
ビル・ウィリアムズ(Bill Williams/オーストラリア)
オーストラリア核戦争防止医学協会(MAPW)代表
川崎 哲
ピースボート共同代表
ICNND共同議長に対するNGOアドバイザー
ティルマン・ラフ(Tilman Ruff/オーストラリア)
核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)議長
ICNND共同議長に対するNGOアドバイザー

1 外務省「シドニーにおける第一回会合の結果概要」
www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/icnnd/1meet_gh.html