ほんとにだいじょうぶ?身近な放射線
概要
追加情報
家庭でつくれるラドン温泉、トロン石ブレスレットのように、放射線を浴びることの効能をうたった宣伝が少なくありません。医者に行けば「レントゲンでしらべてみましょう」といわれて、放射線を利用した検査がおこなわれています。放射線治療もおこなわれています。
発芽防止などのために強い放射線をあてた食べ物もあります。一部の工場やオフィスビルでは、火災報知の煙感知器に放射能が入っています。工場では金属の溶接部分などにひびが入っていないかを放射線でしらべています。こうした身のまわりの放射線と放射能をみていくと、ほんとうに多いことにびっくりします。
一九八〇年までは大気圏内で核兵器実験がおこなわれていました。原爆や水爆の爆発で灰のように降ってくる放射能は世界中にひろがり、日本にも降ってきました。このような放射能は「死の灰」とよばれています。一九八六年には、旧ソ連のチェルノブイリ原発(原子力発電所)でおこった事故によって、大量の放射能がひろい地域に散らばり、私たちの食べる食品にまで入ってきました。
運転中の原発からは、いつも放射能が放出されています。青森県六ヶ所村に建設された再処理工場が運転をはじめると「原発一年分の放射能が一日で放出される」といわれています。原発が廃炉になって解体されるとき、鉄などの部品の一部が再利用にまわされ、私たちのつかうフライパンに放射能が入ってこないともかぎりません。さらに、原発の使用済み燃料にふくまれる大量の放射能は、最後は地中深く埋めて捨てられる計画ですが、遠い将来に子孫の住む環境を汚すおそれがあります。こう見てくると、環境中の放射能は増えつづけるいっぽうのようです。
放射能から放射線が出てきます。放射線には味も匂いもなく、耳でも目でも感じることはできず、私たちの五感でとらえることができません。特別な測定装置がなければ、その存在はわからないのです。レントゲン診断を受けるとき、エックス線が身体を通過していくことを感じることはできません。ラドン温泉へ出かけても、どこに放射線が飛んでいるのかわかりません。
放射線は、人間や動植物に悪い影響を与えます。悪さの程度は浴びた放射線の種類や量によって変わります。たくさん浴びれば、造血障害や中枢神経障害などの急性障害をひきおこし、死んでしまう場合もあります。チェルノブイリ原発事故や核燃料加工工場JCOの臨界事故などでの不幸な死もありました。浴びる量が中程度のときは、髪の毛が抜けたり、病気にかかったりします。がんや遺伝的影響など、将来の影響が心配です。浴びる量が少ないときは、すぐに目にみえる症状は出ませんが、長い時間が経った後に、がんなどの影響があらわれることがあります。浴びる量が多いほど、病気にかかる確率が高くなります。少なければ確率は低くなりますが、ゼロにはなりません。
私たちは、このような放射線にかこまれて暮らしています。それをどのように考え、どう対処したらよいのでしょうか。このパンフレットが、放射線が増えるいっぽうの環境の中での暮らしかたについて考えるときに少しでも役立てば幸いです。
もくじ
―― ラドン温泉って体にいいの
―― ほっかほかシャツの効能は?
―― ランタンやレンズにも放射能が?
―― 夜光塗料と煙感知器には人工の放射能
―― 放射線を当てた食品(照射食品)
―― 放射線をつかった「品種改良」
2 自然界からの被曝
―― 空からの自然放射線
―― 大地からの放射線と放射能
―― 自然放射能の多いところも
3 核兵器と原子力発電
―― 核兵器実験と人工放射能
―― 死の灰がもたらしたもの
―― 原子力発電からの放射能
―― 日本でおこった臨界事故
―― 再処理工場からの放射能放出
―― 脱原発を
4 放射能のごみ
―― 放射能のごみはどこから出るか
―― RI廃棄物のゆくえ
―― クリアランスって何?
5 医療における被曝
―― 医療放射線の浴びすぎ
―― エックス線による診断
―― 放射能をもちいる診断
―― 放射線による治療
―― 医療被曝をどう考えるか
[付] 放射線を測るには
―― 環境の放射線量を知るには
―― 環境放射線のモニター
―― 放射能の量を知るには