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ストロンチウム-90(90Sr)

半減期 28.79年

崩壊方式
ベータ線を放出してイットリウム-90(90Y、64.00時間)となり、イットリウム-90もベータ崩壊してジルコニウム-90(90Zr)となる。イットリウム-90は、核分裂直後はほとんど存在しないが、時間の経過とともに量が増す。1ヶ月後には放射平衡が成立して、ストロンチウム-90とイットリウム-90の放射能強度は等しくなる。

生成と存在
よく知られた人工放射能。ウラン鉱の中で、ウラン238(238U)の自発核分裂などによって生じるが、生成量は少ない。
人工的には、核分裂による生成が重要である。1メガトン(TNT換算)の核兵器の爆発で4,000兆ベクレル(4.0×1015Bq)が生成し、ストロンチウム-89(89Sr、50.53日)も80京ベクレル(8.0×1017Bq)が生じる。ストロンチウム-89/ストロンチウム-90放射能強度比は200である。
電気出力100万kWの軽水炉を1年間運転すると、10京ベクレル(1.0×1017Bq)のストロンチウム-90と260京ベクレル(2.6×1018Bq)のストロンチウム-89が蓄積する。上で述べた放射能強度比は26である。

化学的、生物学的性質
ストロンチウムはカルシウムと似た性質をもつ。化合物は水に溶けやすいものが多い。
体内摂取されると、一部はすみやかに排泄されるが、かなりの部分は骨の無機質部分に取り込まれ、長く残留する。
成人の体内にあるストロンチウムの量は320㎎である。

生体に対する影響
イットリウム-90は高エネルギーのベータ線(228万電子ボルト)を放出する。このベータ線は水中で10㎜まで届き、ストロンチウム-90はベータ線を放出する放射能としては健康影響が大きい。10,000ベクレルのストロンチウム-90を経口摂取した時の実効線量は0.28ミリシーベルトになり、10,000ベクレルのストロンチウム-89を経口摂取した時は0.026ミリシーベルトになる。二つの場合で線量が約10倍違うが、その原因はベータ線エネルギーと半減期の差による。
外部被曝が大きくなる恐れがある。皮膚表面の1cm2に100万ベクレルが付着した時には、その近くで1日に100ミリシーベルト以上の被曝を受けると推定される。

環境被曝の経過
主な体内摂取の経路は牧草を経て牛乳に入る過程で、土壌中から野菜や穀物などに入ったものが体内に摂取されることもある。また、大気中に放出された時には葉菜の表面への沈着が問題になる。

核兵器実験の影響
大気圏内核兵器実験では、すべての放射能が大気中に放出され、地球上の広い地域に降下するので、全人類に放射線影響がおよぶといってもよい。
アメリカと旧ソ連による大規模な大気圏内核兵器実験の影響で1960年代前半に大気中濃度が上昇し、食品の汚染がいちじるしかった。当時の日本人は1日に約1ベクレルのストロンチウム-90を取り込んでいたと推定されている。ストロンチウム-89の影響もあり、このような取り込みによる被曝は避けねばならない。
1963年までに、アメリカ、旧ソ連、イギリスとフランスが大気圏内核実験をおこなわなくなった。1964年以後は中国の核実験のみが大気中に放射能を放出していたが、1980年10月以降は中止している。
その後は、地下核実験がおこなわれている。この時に、大部分の放射能が地下に残るが、後に地下水の作用で外に漏れることも考えられ、地下核実験はどこでもできるものではない。また、クリプトンやキセノンのように気体である放射能は外に漏れる恐れがある。核爆発の瞬間にはクリプトン-89(3.2分)、クリプトン-90(32秒)が崩壊を繰り返してストロンチウム-89、ストロンチウム-90になるので、放射性ストロンチウムは他の放射能より放出されやすいと考えられる。

原発事故による放出
発電炉の運転では、ストロンチウムの放射能の放出はほとんどない。問題は重大事故である。炉心が破壊されれば、その中にある大量の放射能が外に放出される。
1986年4月26日に起こった旧ソ連(現、ウクライナ)のチェルノブイリ原発事故では、大量の放射能が放出された。ストロンチウム-90の放出量は、炉内の存在量がほぼ等しいセシウム-137(30.1年)に比べて小さかった。名古屋で採取した大気試料の分析によると、ストロンチウム-90/セシウム-137放射能強度比は0.002~0.02の範囲に分布していた。一方で、発電所周辺または近隣諸国に降下した放射能に含まれるものの放射能強度比は、上の値より高く0.1に達すると報告されている。このようなことは高温の核燃料の中からセシウム-137よりストロンチウム-90が放出されにくいことと放出された放射能の組成が不均一であることを示している。
放出量が少ないとはいえ現在でもその存在は認められ、事故地点の近くでは河川水などのストロンチウム-90による汚染が知られている。

再処理工場からの放出
再処理では、ストロンチウム-90のみが問題となる。ストロンチウムは揮発性化合物をつくりにくく、排気中には含まれない。再処理の工程を考えると排水中の放出量もゼロに近くできるはずである。実際はそうなっていない。フランスのラ・アーグ再処理工場からの2003年の排水中への放出量は、515億ベクレル(5.15×1010Bq)だという。これは必ずしも低い値ではない。
六ヶ所村再処理工場からの予定放出量について議論するより実績を見るべきである。放出量は大きくはないが、海産生物に濃縮される恐れがあり、放出は厳重に監視されねばならない。
再処理後に発生するガラス固化体の中に含まれる放射能としては、挙動に注目すべき放射能の一つである。長期的には、長寿命のアメリシウム-241(241Am、433年)の存在が問題になるが、処分開始から1,000年ほどの間はストロンチウム-90とセシウム-137に注意をはらわねばならない。

放射能の測定
水試料では、ストロンチウムを分離し、1週間以上経過後に生まれてくるイットリウム-90を分離し、ベータ線を測定するのがふつうの方法である。。生物試料では、有機物を分解して溶液にした後に、同様の操作をおこなう。放射線測定には液体シンシレーション計数装置またはバックグラウンドの低いガイガー計数装置を用いる。体内にある量を知るには、排泄物中の放射能を測るバイオアッセイを用いる。

 

放射線エネルギー(100万電子ボルト) ベータ線、0.546(100%)
比放射能(ベクレル/g) 5.0×1012
排気中又は空気中濃度限度(チタン酸ストロンチウム以外の化合物、ベクレル/cm3) 5×10-6
排液中又は排水中濃度限度(チタン酸ストロンチウム以外の化合物、ベクレル/cm3) 3×10-2
吸入摂取した場合の実効線量係数(チタン酸ストロンチウム以外の化合物、ミリシーベルト/ベクレル) 3.0×10-5
吸入摂取した場合の実効線量係数(チタン酸ストロンチウム、ミリシーベルト/ベクレル) 7.7×10-5
経口摂取した場合の実効線量係数(チタン酸ストロンチウム以外の化合物、ミリシーベルト/ベクレル) 2.8×10-5
経口摂取した場合の実効線量係数(チタン酸ストロンチウム、ミリシーベルト/ベクレル) 2.7×10-6