再処理積立金法案についてのメモ(第1稿・2月15日1部修正版)

再処理積立金法案についてのメモ(第1稿・2月15日1部修正版)

西尾漠

 近日中に国会に提出予定という「原子力発電における使用済燃料の再処理等のための積立金の積立て及び管理に関する法律」案の法文を送っていただいた。差出人の名が書かれておらず直接お礼を言うことができないので、この場を借りて感謝の意を表したい。ありがとうございました。
 さて、法文の内容である。これはいつものことだが、「経済産業省令で定める」「政令で定める」と下部の法令に委任する部分が多すぎる。積立金の額の算定方法とか、いわゆる「既発生分」の未回収費用の扱いとかの肝心な点は経済産業省令に委ねられており、法案審議の段階で具体的に検討することができない。

《積立ての対象となる費用》
 積立ての対象となる費用(法文では「再処理等に要する費用」)は、法文の用語を避けて馴染みのある言葉に置き換えれば、次のようなものである。
<1>再処理工場本体の操業費用
<2>高レベル廃棄物のガラス固化費用(処分費用は電力会社等の「拠出金」として別途積立て)
<3>高レベル廃棄物の貯蔵費用
<4>TRU廃棄物の処理・貯蔵費用
<5>TRU廃棄物の処分費用
<6>再処理工場の解体費用
<7>回収ウラン・プルトニウムの貯蔵費用、その他
 このうち、現行の「使用済核燃料再処理引当金に関する省令」により現に引き当てられているのは、既に発生している使用済燃料の<1>再処理工場本体の操業費用のみである(海外再処理分については<2>のガラス固化費用と<4>のTRU廃棄物の処理・貯蔵費用をふくんでいた。<7>の回収ウラン・プルトニウムの貯蔵費用に関しては不明)。
 これら費用は「今後40~70年超の期間において支出」(経済産業省の法案説明資料)されることとなり、総合資源エネルギー調査会電気事業分科会のコスト等検討小委員会に電気事業連合会が提出した試算額によれば、現行引当金対象分(この計算では<1>再処理工場本体の操業費用に加えて<2>のガラス固化費用をふくんでいる)は7.5兆円、新たに対象となる分は5.1兆円(この計算では<7>の回収ウラン・プルトニウムの貯蔵費用はふくまれていない)であるとされる。
 この額は、「合理的な費用見積もりが可能な六ヶ所再処理工場分」(同上資料)である使用済燃料3.2万トンに対応している。
 ここで最大の問題は、六ヶ所再処理工場では処理できないとして「中間貯蔵」される3.4万トン分をどう考えるかということだろう。それにより積立金の額は、将来大きくふくらむ可能性がある。

《積立金の額》
 電力会社は毎年度、経済産業省令で定めるところにより、経済産業大臣が電力会社ごとに算定し通知する額を「資金管理法人」に積み立てる。その額は、「使用済燃料の発生の状況、再処理施設の再処理能力及び稼働状況、再処理等に要する費用その他の事項を基礎とし、経済産業省令で定める基準に従い」算定されるというが、前述のように基準等の詳細は不明である。
 積立て額の算定のもとになる情報は、再処理事業者(日本原燃)と電力会社が届け出る。再処理事業者からは「再処理施設の稼働状況、再処理等の実施に関する計画、再処理等に要する費用その他経済産業省令で定める事項」、電力会社からは「使用済燃料の発生の状況、再処理等の実施に関する計画、再処理等に要する費用その他経済産業省令で定める事項」である。
 これに関し『インサイド原子力』2004年10月11日号に、以下の記述があった。
「エネ庁は、この方針(積立金制度のこと-引用者)の下に、コスト試算の前提となった“40年、3.2万トン”の再処理計画について電力各社が日本原燃と3.2万トン全量の再処理契約を結ぶよう要求。これに対し電力業界は各社毎の再処理数量の配分についてほぼ固めた。電力業界は当初、3.2万トンの全量契約は将来の不確実性の観点から極力避けたい考えを示していたが、制度整備を優先、コスト小委での議論の枠内で(上述の金額の枠内で-引用者)対応することとした」
 国会の審議では、この記述の事実関係を確認する必要がある。

《使用済燃料「既発生分」の扱い》
 すでに引当金として電力会社の内部に留保されている額は、2002年度末で2兆7197億円あるが、実際には各社の自己資本として設備投資に充てられているので、すぐには取り崩せない、と電力各社は主張している。全額即時取崩しも可能とする証券アナリストのコメントもあるが、とまれ法文では15年以内の期間で「資金管理法人」に積み立てられることになる。
 但し、この額が使用済燃料「既発生分」の再処理工場本体の操業費用の額と一致する保証はなさそうだ。なお、この積立ての際に、内部留保でなく外部に積み立てておけば得られたであろう運用利息相当分をどうするのかという問題がある。
 使用済燃料「既発生分」の未回収費用(引当金の対象となっていなかった費用)の回収に際しては、総合資源エネルギー調査会電気事業分科会の2004年6月の報告書では、新規参入事業者に電力供給先を変更した顧客からも、託送料金にふくめて同事業者に代行回収させるとされていた。
 具体的な制度のあり方については十分な検討が必要であるにもかかわらず、法文にはいっさい明文がない。

《資金管理法人》
 積立金を管理する資金管理法人は、「営利を目的としない法人」を「その申請により、全国を通じて一個に限り」指定するとしている。
 前出の『インサイド原子力』では「公益法人案に対しては公益法人改革のなかで自民党が反対することが予想され、中間法人とするなど代替案も検討中」とされていたのだが……

《国の関与の度合い》
 現行の再処理引当金制度と法案の再処理積立金制度の最大の違いは、国の関与の度合いだろう。
 前述のように総合資源エネルギー調査会電気事業分科会のコスト等検討小委員会に電気事業連合会が提出した額が基礎となっているが、過小評価の疑いが濃厚である。現在検討中という高レベル廃棄物とTRU廃棄物の並置処分、海外返還廃棄物の高レベル廃棄物とTRU廃棄物の置換など、さまざまな変更要因もある。高レベル廃棄物処分費用の積立てとの関係も複雑になりうる。
 「40~70年超の期間において」設定された割引率の不確かさも考慮すると、積立金が不足する蓋然性は高い。そのとき、国の関与の度合いが大きい再処理積立金制度では、けっきょく国が対処することになるだろう。使用済燃料の発生者たる電力会社は、当面、小さな額を積み立てることで、責任を免れてしまう。
 いずれにせよ、中間貯蔵後の費用をふくめ、将来の世代に大きくしわ寄せされることは避けられそうにない。

《六ヶ所再処理工場を動かすための制度》
 この制度の導入のために電力会社が使用済燃料3.2万トンの再処理契約を要求されたとの記事を引用したが、そもそもこの制度ができず現行の引当金制度だけだとしたら、六ヶ所再処理工場の操業リスクは余りに大きすぎる。金額だけではなく、上述の国への責任転嫁こそが電力会社にとって最大のメリットだろう。
 そこでこの法案の審議では、何より六ヶ所再処理工場の操業の可否こそが焦点となるべきだ。経済産業省の法案説明資料が言う通り、12月から計画されているアクティブ試験入りは「実質的な操業開始」なのだから、いま私たちはきわめて重大な局面を迎えているのである。

 以上、大急ぎで不十分なメモをつくった。間違いもあるかもしれず、未整理でわかりにくいだろうことも承知の上で公表し、ご意見・ご批判を待ちたい。