放射性の災害廃棄物などをめぐっての私見

『原子力資料情報室通信』第453号(2012/3/1)より

放射性の災害廃棄物などをめぐっての私見

西尾漠

 放射能災害は、解決できない、あるいは解決することが困難な、さまざまな問題を噴出させる。そして、ほんらい責任のない住民・市民に、その解決が押しつけられる理不尽さがある。災害廃棄物の放射能問題は、その一つだ。

 放射能が放出されれば、それによって汚染された廃棄物が放射性廃棄物と化してしまうことは、誰にも容易に想定しうる。大量に発生する災害廃棄物が汚染され、放射性の廃棄物となるのだ。さらに、汚染土壌の除染などにより、放射性廃棄物は増え続ける。

 然るに電力会社も国も、まったく対応を整備せず、事故が起きて初めて、泥縄式に特別措置法が制定された(本誌第449号の藤原寿和論文参照)。

ややこしい「廃棄物」の定義

 もともと廃棄物処理法では、「廃棄物の定義に「放射性物質及びこれによって汚染されたものを除く」と書き、放射性廃棄物は対象外としていた。それを2011年8月公布の放射性物質汚染対処特措法では、上記の「汚染されたもの」から「事故由来放射性物質で汚染されたものを除く」とややこしい二重否定にして対象外から外し、一般廃棄物や産業廃棄物に仲間入りをさせた。

 一般廃棄物は市町村に、産業廃棄物は発生企業に処理の責任がある(廃棄物処理法に言う「処理」には、廃棄物の分別、保管、収集、運搬、再生、処分のすべてが含まれる)。事故由来放射性物質で汚染された廃棄物は、ほんらい、その放射性物質を放出した電力会社が責任を負うはずである。ところが特措法では、抽象的に「誠意をもって必要な措置を講ずる」ことと国や自治体の「施策に協力」することが求められているだけで、電力会社の姿はいっこうに見えない。なんとも不思議な法律である。

 発電所敷地内のものと、そこから敷地外に飛散したコンクリート等については、もちろん電力会社が処理を行なうことになる。しかし、福島県内の避難地域にある高濃度汚染物は「対策地域内廃棄物」、ごみの焼却灰や下水汚泥で1キログラムあたりの放射性セシウム量が8000ベクレルを超えるものは「指定廃棄物」として、国が処理することになっている(この場合の「処理」は収集、運搬、保管および処分で、処分には再生を含む)。それ以外は、自治体まかせだ。

 福島県内の廃棄物については、政府が同県双葉郡内に中間貯蔵施設を設けるよう県と当該8町村に要請している。「最終処分場は県外」と明言しているものの、その保証はない。他方で、福島第一、第二原発敷地内及び周辺の高汚染地域に最終処分するのが合理的との声も聞かれる。

 そもそも中間貯蔵施設でも受け入れたくないとしている中で、難しい問題だ。解決の道は遠い。

岩手、宮城の災害廃棄物

 岩手、宮城の災害廃棄物について、環境省は「広域処理が必須」としている。岩手県では約476万トン(通常の年のおよそ11年分)、宮城県では約1569万トン(同およそ19年分)が発生、「被災地で仮設焼却施設を設けて処理を実施しているが、なお処理能力が不足」しているという。広域処理を希望している量は、岩手が約57万トン、宮城が約338万トンで、大部分は県内で何とかしようと考えているらしいが、それもまた生半可なことではない。

 また、首都圏などでも、一般廃棄物や下水汚泥の焼却灰などの放射性廃棄物が発生、貯蔵されている。事故前には秋田県などに送って処分してもらっていたものだ。処分がすすまないと、下水処理や一般廃棄物の焼却ができなくなる。

 放射性廃棄物を抱えている地域の住民も、搬入されようとしている地域の住民も、どちらも被害者であり、責任を負う立場にない。ところが、廃棄物を抱える住民は、搬出できなければ被曝の不安と復興への支障があり、搬出するということは汚染を他の地域にまで広げようとしているともとられかねない。搬入側の住民は、受け入れれば被曝の不安があり、受け入れないということは被災地の復旧の邪魔をしているともとられかねない。

 まさに答の出せない問題であるが、それが放射能災害だ。不本意ながら放射能は放出されてしまった。ある程度の苦痛は我慢するしかないとすれば、どんな形ならどこまで我慢してもよいと考えるかを皆で意見を出し合って答を探っていくよりないだろう。

 そのためには、実際のところ、どれだけの放射性災害廃棄物があり、その種類ごとにどれだけ切羽詰っているか、処理が遅れればどんな事態が想定されるのか、どれくらい汚染されているのかなどの情報が、明らかにされなくてはならない。また、解決困難な課題を抱えているということ自体が、他人事だと思っている人をふくめて広く知らされる必要がある。

リサイクルは、するな

 その際、留意すべき点がいくつかありそうだ。一つは、再生利用(リサイクル)の考え方である。環境省では「再生利用が可能なものは極力再生利用」という。そこで、放射性セシウムについてキログラムあたり100ベクレルという原子炉施設等における「クリアランスレベル」を援用している。私たちは、再生利用を行なう意義が乏しく危険の大きい放射性廃棄物のクリアランス=規制解除に反対してきた。いまも、変わらない。

 さりながらクリアランス制度は、いわば「平時」の制度であり、事故時には違った考えで我慢することも一般論としてはありうる。言い換えれば、事故時には汚染物を我慢して受け入れざるをえないことがあるとしても、それがクリアランスを正当化するわけではない。

 そのうえで放射性災害廃棄物の再生利用については、やはり不必要であり、レベルを問わず再生利用はすべきでないと思う。

 埋立処分では、100ベクレルの80倍のキログラムあたり8000ベクレルが、ガイドラインとして示されている。「100ベクレルを基準にしたのでは大半の廃棄物が処分できない」と環境省はコメントしているものの、8000ベクレルは余りに高すぎる。

 再生利用についてはクリアランスレベルをそのまま導入したのに、埋立処分については、埋立後の周辺住民の被曝限度は再生利用と同じく年間10マイクロシーベルトとしながら、処理に伴う作業者・住民の被曝限度は100倍の1ミリシーベルトとしていることの説明は、とても十分とは言いがたい。処理に伴う被曝についても、他の被曝が重なることがありうる――というより、この場合は確実に重なるだろう。

安易に焼却してよいのか

 もう一つの問題は、焼却である。焼却を行なうと、廃棄物中の放射性セシウムは焼却灰に濃縮されるとともに、バグフィルターで99.99パーセント、電気集塵機で99.47パーセントを除去して(この除去性能には疑問が呈されているが)排ガスといっしょに環境中に放出される。

 濃縮については、焼却灰での放射性セシウム濃度がキログラムあたり8000ベクレル以下となるよう、ストーカ式焼却炉でキログラムあたり240ベクレル、流動床式焼却炉で同480ベクレル以下をガイドラインとしている。汚染のない廃棄物と混ぜて薄めれば、それ以上でもよいこととなる。そのように指導されてもいる。

 除去性能が仮に信頼できるとしたところで、大量に燃やせば大量の放射性セシウムが放出される。焼却を認めるのであれば、少なくとも原発の廃棄物処理設備と同等の放射能除去の義務付けと総量のガイドラインも必要ではないだろうか。

 基本的には放射性の災害廃棄物について、電力会社の責任で、廃棄物の種類ごとに専用の、飛散・流出防止効果の高い管理施設をつくって保管すべきと思う。

除染とセットの特措法

 最後に別の側面から見ると、放射性物質汚染対処特措法が、除染=避難者の帰還とセットに法制化されていることが問題を複雑にしていると思われる。

 同特措法に基づく「除染特別地域における除染の方針」が1月26日、環境省から発表された。避難が行なわれた区域を対象に除染を実施し、住民が帰還できるようにするというのだが、これは、本来あるべき姿と全く逆ではないか。

 避難地域に指定されなかったところでも、「管理区域」として放射線作業従事者の登録をし適切な装備を身につけた18歳以上の健康な人しか入れない区域と同等、あるいはそれ以上の汚染地域が生まれている。そうした地域から避難させること、避難が難しい事情があるなら、その障害を取り除くこと、それでもなお避難できない人たちがいるとしたら、その人たちの生活空間を除染するのが先だろう。除染の効果が一過性で繰り返しての除染が必要なら、繰り返して行なう必要がある。内部被曝を小さくするために汚染されていない食物を提供したり、休暇時など一時的に地域を出ることができるなら、受け入れ先をつくったりする必要もある。

 将来的に避難地域を除染し住民が帰還できるようにすることを、否定するものではない。しかし、より汚染の小さい地域で除染ができて初めて、高汚染地域の除染を考えるほうがよいのではというのが私見である。

 

 

原子力資料情報室通信とNuke Info Tokyo 原子力資料情報室は、原子力に依存しない社会の実現をめざしてつくられた非営利の調査研究機関です。産業界とは独立した立場から、原子力に関する各種資料の収集や調査研究などを行なっています。
毎年の総会で議決に加わっていただく正会員の方々や、活動の支援をしてくださる賛助会員の方々の会費などに支えられて私たちは活動しています。
どちらの方にも、原子力資料情報室通信(月刊)とパンフレットを発行のつどお届けしています。