今後のエネルギー政策は?脱原発こそ進むべき道

『原子力資料情報室通信』第453号(2012/3/1)より

今後のエネルギー政策は?
脱原発こそ進むべき道

伴英幸

 福島第一原発における爆発事故により、エネルギー基本計画は大きく修正を余儀なくされている。菅直人前内閣総理大臣は脱原発を目指すと発言し、野田佳彦内閣へと代替わりした。野田総理はこれを脱原発依存と修正し、この流れの中で基本計画の見直しが進んでいる。この姿勢はエネルギー・環境会議の基本方針にあるように「原子力発電の依存度をできる限り低減させていくこと」である。しかし、立場によって解釈に幅のある言葉だ。

 筆者の関係する各委員会の1年の議論を振り返り、原子力を支持する人たちの主な主張を?から?に取り上げて、これに対するコメントをまとめた。

①原発が止まり続けると、企業が海外流出する?

 54基中52基が定期検査で止まっている状況(2012.2.20現在)なのでこの状態が長く続くと夏にいっそうの節電要請があるだろう。対処のため自家発電装置や蓄電池の導入でコスト増となり、勤務シフト変更や休日出勤などによる労働者への影響も増え、結果として企業が海外流出する、という意見だ。

 電力不足が一時声高に言われていたが、最近は影を潜めている。消費者の省エネ意識が継続しているからだろう。むしろ上記のような、企業への負担が大きいとの主張が繰り返されている。

 新大綱策定会議では又吉由香委員(モルガン・スタンレーMUFG証券ヴァイスプレジデント)が、基本問題委員会では豊田正和委員(日本エネルギー経済研究所理事長、元経済産業省審議官)が主張している。企業流出による日本経済へのマイナスの影響を指摘して、原発の重要性と早期運転再開の必要性を訴えている。

 しかし、基本問題委員会に榊原定征委員(日本経済団体連合会副会長、東レ社長)が提出した「今夏の電力需給対策に関するアンケート結果について」と題する経団連アンケート結果によれば(152社中87社の回答)、「効果的な対策、今後実施可能な対策」の質問項目に「事業活動の圏外シフト(海外)」という項目があるが、製造業、非製造業とも「効果あり」「最も効果あり」と回答した社数はゼロで、どの企業も電力需給対策として海外展開を考えていないことが示されている。主張は短絡的と言わざるを得ない。

 また、電力料金の高騰を理由に挙げる場合もあるが、基本問題委員会の大島堅一委員(立命館大学国際関係学部教授)は、中途半端に原発を維持していると値上げしなければならなくなると指摘している。つまり、原発を再稼働しようとすれば、停止中も膨大な維持費が必要になる。原発を再稼働しないと決めれば、この部分の経費が削減されることになるわけだ。

②日本の高い原子力技術で国際貢献するべき?

 野田総理が「世界一安全な原子力をめざす」と国連で演説したことに関連しているのだろう。これは、原発輸出をめざす日本からのメッセージと言える。アジアでは原発建設計画が活発で、将来日本はこの地域の100基の原発に囲まれることになるという。この状況から、40年にわたる原子力発電の経験を海外で活かすべきだ、そのために国内で原発を維持しておく必要があるというのである。原発を海外輸出の主力商品の一つにしたいという福島原発事故前の姿勢の残像と言える。

 新大綱策定会議では、羽生正治委員(日本電機工業会原子力政策委員長、日立製作所常務)が、基本問題委員会では槍田松瑩(うつだしょうえい)委員(三井物産会長)が主張している。

 そもそも海外での厳しい競争環境から、日本が契約を獲得できるケースはそれほど多くないだろう。例えば韓国はUAEとの契約で使用済み燃料の引き取りを条件に入れたという。韓国のNGOが政府の密約だったと主張している。日本では飲めない条件だ。頼みの綱のアメリカでは積極的な建設計画が福島事故で大幅に縮小しつつある。原発技術による国際貢献にあまり期待できない。

 また、日本に高い原子力技術はあるのだろうか? 町工場のものつくりの技術は非常に高いと言われる。最近ではイトカワ探査衛星などで称賛されている。要素技術では高いものがあるかもしれないが、原子力システム全体でみると疑問符が付く。「もんじゅ」は国産技術による設計と建設だったが、単純な設計ミスによるナトリウム漏洩火災事故を起こしてしまった。さらに炉内中継装置を落下させるトラブルを起こしている。これも非常に初歩的な設計ミスだった。これらの初歩的な設計ミスはどちらも東芝が担当したところだ。 もうひとつの事例は六ヶ所再処理工場のガラス固化施設だ。国産技術を使ったガラス固化工程がトラブルで中断し竣工が大幅に遅れている。ガラス工業では汎用とされる通電によるガラス溶融システムを採用したが、電気を通しやすい白金族元素のことを十分に把握できていないまま大型化したことが原因といえる。IHI(石川島播磨工業)が担当した。日本原燃は、温度コントロールによる運転はうまくいくと言っているが、難しいだろう。原発が一応の実用技術となったのは輸入品を模倣して国産化していったからだろう。ATR(新型転換炉)という国産原子炉の開発は実用化に至らず、結局1995年に断念された。

 輸入技術から国産化へという流れの欠陥が明らかになったのが福島第一原発1号機で、非常用復水器(IC)を機能させることができなかった。実に危うい日本の原子力技術だ。技術力の高さを誇れるものではない。

③原子力はエネルギー安全保障に役立つ?

 エネルギー安全保障には大きく二つの意味がある。一つは長期間安定したエネルギー供給ができることだ。ウランは100%輸入にもかかわらず、準国産エネルギーと位置づけている。石油は172日分の蓄えしかないが、ウランは供給が止まっても2年程度は継続的に運転できる(止まる時期によるが)。この意味から安定供給に資するという位置づけだ。同時にCO2対策になるという。

 もう一つは供給源の多様化の意味で使われている。あらゆるエネルギー源を持っていることが安定供給に資するという考えだ。

 これは田中知委員(東京大学大学院工学系研究科教授)、豊田正和委員、柏木孝夫委員(東京工業大学大学院教授)らが主張している。
 実際に石油の輸入が止まることによる影響は、電力が占める石油消費の割合は10%程度なので、むしろ他の産業に与える影響の方が大きい。それはともかく、背後にある考えは、再生可能エネルギー(再エネ)は安定供給ができないのでエネルギーの主体となり得ないという頑固な考えである。さらに深く見ると、再エネの導入が著しく進むことを止めたい原子力産業の意図が見えてくる。このことは太陽光発電の買取価格を、制度導入に反対している人を委員に選任して決定させようとする姿勢に象徴される。

 言葉では「原子力も再生可能エネルギーも」積極的に活用したいというが、内実は原子力の推進なのだ。100%国産エネルギーと言えば、自然エネルギーだ。四季の変化、山河の起伏、そして世界でも有数の火山帯、四面は海、さまざまな自然エネルギーをそれぞれの地に合った形で導入することが可能である。2050年自然エネルギー100%は荒唐無稽な話ではない(省エネがもう一つの中心的な柱になる)。

④核抑止力として原子力を維持する必要がある?

 最後の原子力維持理由がこれだ。原子力技術を持っていれば核兵器開発が可能となる。この能力が他国への政治的交渉力となり、また、他国からの攻撃を思いとどまらせる(核兵器での報復があるから)。これが抑止力の意味だ。

 山地憲治委員(地球環境産業技術研究機構理事)や北岡伸一委員(東京大学大学院法学政治学研究科教授)らが基本問題委員会で主張した。山地氏は再処理技術にこだわって抑止力を述べているのではないと、あえて断って発言した。従って、原子力発電の技術を維持することが核抑止力につながっていると主張しているのだ。

 仮に核抑止力を認めるとして、それがどうして民間企業が原子力発電を産業規模で維持していくことに直結するのか? 寺島実郎委員(日本総合研究所理事長)は、原子力の技術基盤なしに「非核政策」の推進は不可能であり、「脱原発」は「非武装中立論」に似ていて、途方もない外交力と指導者の持続的ガバナンスが必要だと述べた。つまり現実性がないとインドの核武装化を引き合いに出した。かれは原子力部門の国営化を主張している。

 アジア各国での積極的な原発導入はすなわちどの国も核抑止力を持つことを意味するが、これが私たちの行くべき方向とはとても考えられない。

 原発事故などなかったかのような議論しか出てこないのは、なんとも情けないことだ。


 今回も新人目線で傍聴の感想をお伝えします。伴が、策定会議委員の3人が原子力業界から寄付を受けていたと記載された新聞記事を意見書に添え、原子力に利害関係のない人を委員として会議を再スタートするべきと主張しました。山口(彰)委員と又吉委員からは「孤立と独立は違う」という発言が相次ぎ、山名委員は産学共同研究が現場を知る技術者の育成に必要だと主張しました。その発言が彼らに対する私の不信感をさらに高めました。
(谷村)


■伴英幸提出の新大綱策定会議奮闘記
(1)脱原発・核燃料サイクル政策の転換を求め続ける
  https://cnic.jp/977
(2)柏崎刈羽原発「再開までにこれだけの時間がかかって問題であると私は受けとめておりません」(清水電気事業連合会会長)
  https://cnic.jp/988
(3)基本問題委員会も設置され、エネルギー政策の見直しへ
  https://cnic.jp/1233
(4)原発の安全文化は根付かない
  https://cnic.jp/1248
(5)形式的やりとり続く各委員会
  https://cnic.jp/1296

■【VIDEO】CNIC伴英幸による委員会報告(2) 2012/2/2
  http://www.ustream.tv/recorded/20164870
 【VIDEO】委員会報告(1) 2011/10/06
  http://www.ustream.tv/recorded/17706995

 

 

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