福島第一原発事故:原子炉、熔融物はどうなっているのか

『原子力資料情報室通信』第453号(2012/3/1)より

福島第一原発事故
原子炉、熔融物はどうなっているのか

上澤千尋

原子炉の様子はまるでわからない

 「3.11東北地方太平洋沖地震」発生から1年になろうとしているが、福島第一原発のそれぞれの原子炉の様子については、わからないことだらけである。

 まだわからないことを書き連ねると、地震によって何が壊れたのか、放射能は漏れなかったか。津波は何度襲来し、どこまで浸水したのか。ステーションブラックアウト(外部電源および非常用電源の喪失)はなぜ起きたのか。原子炉の水位計をはじめ、運転に関わるパラメータはどの程度信頼できるか。炉心の熔融はいつはじまったのか。格納容器ベントは機能したのか。1号炉と3号炉の水素爆発はどのように起きたのか、違いはなぜ生じたのか。2号炉の格納容器はどのように壊れたのか(爆発したのか)。4号炉はどのようにして火災ないしは爆発を起こしたのか。放射能はどのイベント(時刻に)でどれだけ放出されたのか。熔融燃料、圧力容器、格納容器はいまどうなっているのか……。

 東京電力は、昨年12月2日に「福島原子力事故調査(中間報告書)」( www.tepco.co.jp/cc/press/11120203-j.html )を出し、地震の揺れによっては安全上重要な施設は壊れなかったことがわかったと書いているが、そんなことはない。原子炉建屋の内部がとくにそうだが、点検できていない施設がたくさん残っているし、運転時のデータ類が配管の損傷を強く示唆している。

 現段階では、たとえ、原子炉内部にカメラを入れることができても、核燃料の状態まで見るのは相当困難だろう。非常に高い放射線の環境下で、「見る」ための装置を開発するということと、遮蔽を十分に施した放射線に強い装置をつくることとは相反する要求だからである。格納容器の中をきちんと見ることができる
かどうかも疑わしいと思われる。

 実際、1月19日に2号炉の格納容器の中に放射線の遮へいを施された工業用の内視鏡を入れて内部を見る作業を行なったが、熔融物の様子に関しては重要な情報はほとんど得られなかった。

東京電力のMAAP解析のおかしさ

 東京電力は、MAAP(Modular Accident Ana-lysis Program、米国原子力規制委員会開発)というコンピュータプログラムを使って、1・2・3号炉の炉心状態を解析している。しかし、まるで再現できていない。

 一例として、東京電力の中間報告書の添付資料(添付10?1)に載っている1号炉のプラントデータの推移を示すグラフから、MAAP解析のおかしさをみておこう。すこし大きめのグラフだがいろいろなことが1枚に描かれていて便利なのでこの図を使用する。上の方から、原子炉水位、原子炉圧力、格納容器のドライウェル(D/W)とサプレッションチェンバ(S/C)のグラフがあり、その下には各機器の操作実績が書いてある。グラフの横軸は時間で、グラフの範囲は3月11日12時から3月12日24時までである。


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 グラフ内の3月11日18:00のところと19:00のところにうすく縦の線が入っていて、MAAPの解析結果を示している。MAAPによる解析では、18:00のところで原子炉水位が燃料の頂部にまで下がり、19:00には原子炉が空だき状態になり燃料の熔融が始まったことになっている。

 破線の四角い枠で囲ったEの部分では、水位の測定データが少ししかないが、この実際のデータをもとに考えれば、水位は燃料を十分満たしていると読めるし、その後に回復する水位のデータからも燃料頂部にまで下がってはいない。MAAPと実際のデータとの大きな隔たりである。東京電力は水位計の方が壊れていたのだと主張しているが、この時間帯で水位計が壊れたことを示す根拠はいまのところない。また、実際には操作した実績も作動した記録もない主蒸気逃し弁(SRVと書いてある)が解析の条件では何度も作動したことを仮定していたり、やっていることがかなりムチャクチャだ。無理な解析の条件設定をして、地震による配管の損傷がなくても炉心熔融が説明できると言いたいようだが、再現性はよくない。

2号炉で原子炉の温度上昇

 2月2日から2号炉の原子炉圧力容器の温度が上がりだし、13日には摂氏90度を超える値を示し、さらに急上昇を続けた。公表されているグラフをみると400度を超える指示値を示している温度計(熱電対)があることがわかる。東京電力は、圧力容器内への注水量を17.5トンに増やし、さらに注入量を増やしたため再臨界防止措置として注入する水の中にホウ酸を添加していた。

 高い温度を示しているのは、「底部ヘッド上部」の円周方向0°位置にある1つの温度計である。近くにある温度計が、40度から30度へと低下傾向を示している。このため、東京電力は、実際に温度が上がっているのではなく、温度計が計器の断線などで故障しているのだとほぼ断定している。

 しかし、何らかの理由(操作、地震、崩壊)で核燃料の熔融物がこの温度計の近くに移動して行き、その結果、実際に温度が上がっているのかもしれない。あるいは、何らかの核反応が局所的に活発になった結果かもしれない。たとえ、温度計が故障しているとしても、その理由を知る必要がある。なぜこの時期にこのようなことが起きたのだろうか。他の温度計は大丈夫なのだろうか。

 今回、小さめに出来事をみても温度計を1つ失ってしまったことになる訳だが、今後どうなっていくのか考えると、かなり深刻である。1つ、また1つと計測装置が失われて行き、原子炉内部を知る手がかりすらないという状態になりかねないからだ。そうなると、熔融物をどうにかするなど、まったく見通しが立たないどころか、熔融物の冷却すらもっと不安定になり、さらなる放射能の放出を起こす危険性がでてくる。

 

 

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