新大綱策定会議奮闘記(6)核燃料サイクル技術検討小委員会のまとめ

『原子力資料情報室通信』第454号(2012/4/1)より

新大綱策定会議奮闘記(6)
核燃料サイクル技術検討小委員会のまとめ

伴英幸

 原子力発電・核燃料サイクル技術等検討小委員会の課題は、核燃料サイクルの選択肢の提示だ。

2005年の議論

 2005年に策定された現行原子力政策大綱では「…経済性にも留意しつつ、使用済燃料を再処理し、回収されるプルトニウム、ウラン等を有効利用することを基本的方針とする。使用済燃料の再処理は、…国内で行うことを原則とする」となっている。これは総合評価の結果だ。同評価では4つの選択肢を抽出して安全性や資源有効利用など10項目で評価した。4つの選択肢は?使用済燃料は、適切な期間貯蔵した後、再処理する、?六ヶ所の能力分を再処理し、これを超えるものは直接処分する、?再処理を止めて全量直接処分する、?当面全量貯蔵へ切り替え将来判断する(六ヶ所再処理工場の廃止を含む)、であった。評価はこれまでの政策である?の堅持となったわけである。?が選択された理由は、資源有効利用、高レベル放射性廃棄物の量の低減、処分場を選定するのにガラス固化体の方が有利、などだった。「適切な期間貯蔵した後」との表現は六ヶ所再処理工場の処理能力が800トン/年なのに対して発生量は1000トン/年になることを前提とした表現だ。

現在の議論のすすめ方

 05年とは異なり今回は3段階で評価を行なって選択肢を抽出しようとしている。第一段階は技術選択肢の評価、第二段階では政策選択肢の評価、現在ここまで進んでいる。第三段階は総合評価で、これは総合資源エネルギー調査会基本問題委員会でのエネルギーミックスの選択肢を組み込んで行なうとしている。ここでは第一段階について報告したい。

技術選択肢の評価と結果

 技術選択肢として5つ上がった。多重サイクル、限定サイクル、ワンススルー、高速炉(FR)活用、高速増殖炉(FBR)活用。多重サイクルは以前は無限サイクルだった(コスト試算はこれで行われた)が、技術的にサイクルの無限の繰り返しはできない。当たり前のことがようやく共通の認識となり、用語が変化した。多重とは2?3回のサイクルを意味している。サイクルあるいはリサイクルとは原発の使用済み燃料を再処理してプルトニウムを利用することだ。

?技術的成立性

 技術選択肢なのだから技術の成立性あるいは成熟性を評価すべきとの筆者の主張が通った。結果は「ワンススルー、MOXリサイクルは、地層処分を除き、事業者により実施された実績があるが、それ以外は研究開発段階であり、経済実証の運転等を経て、実用化に至るには20?30年以上かかる」。FRやFBRは20?30年という期間には実用化できないことも共通の認識となった。

?資源の有効利用

 「ワンススルーはウラン資源利用効率が最も低い。資源制約解放をもたらしうるのはFBRのみ」となった。MOX利用に関しては「ワンススルーより効率的。ただし、その効果はFBRに比べ限定的」としつつ、ウラン資源は50年?100年は逼迫しないことも盛り込まれた。技術評価ではこれでよいかと思う。つまり、実際にMOX利用しているのは、いまやフランスの20基で1基あたり3分の1炉心以下で、日本が計画通りに進んだとしても(福島事故後はそうならないが)16?18基で3分の1炉心程度だから、資源問題を現実的に評価をすれば、有効利用は1%にも満たないことが明らかになるだろう。

?経済性

 「ワンススルーが最も経済的。MOXリサイクルは今後ウラン価格、再処理費・MOX加工費の動向により経済性は向上しうる。FBR・FRの経済性は研究開発の成否に依存する」。どの程度ワンススルーが経済的なのかを評価すべきとの筆者の主張が通り、ウランの取引価格が260?390ドル/kg以上になれば再処理が経済性を持つとの結果が資料に入った。見逃してならないのは、この中に再処理費用が計上されていない点だ。再処理費用をいれると、さらに高くなることは確実だ。おそらく数千ドルになるだろう。

?安全性

 「福島事故を踏まえての安全性向上が必要。通常時の被ばくリスクは、ワンススルー、リサイクルともほぼ同程度と推定されている」。その上で、「MOXリサイクル、FR/FBRは施設の種類が増加するので、リスクを限定するためにはそれぞれの安全確保対策の向上が必要」と書き込まれた。

?廃棄物の処理・処分

 「総合的には、どの選択肢においてもその技術的困難度やリスクに大きな差はない。地層処分はどの選択肢においても必要であり、また安全に処分可能である」。地層処分の安全性に言及したことに異論があるが、差がないとの結論を引き出せた。というのは、これまでは高レベル廃棄物だけを取り上げて減容効果から再処理が有利と主張されてきたからだ。六ヶ所再処理工場の稼働に伴う廃棄物は総量で直接処分の6?7倍に増える。事務局は素直に認めたくないので、発電電力量で按分したり、処分場面積で比較したりしていた。いずれにせよ、低レベルも含めて考えるべきと主張した結果だ。

?核不拡散と核セキュリティ

 核不拡散は「ワンススルーが最もリスクが低く、MOXリサイクル、FR/FBRの順でリスクが高くなるため、より高度な保障措置が必要となる」。核セキュリティは「ワンススルーが最もリスクが低い。リサイクル、FBR・FRと分離プルトニウムを取り扱うため、より高度な核セキュリティ対策が必要」と当然の表現となった。

技術評価のまとめ

 ?今後20?30年を見通した場合、MOXリサイクルとワンススルーのみが実用化しうる技術選択肢である。両者の相違点は、資源効率、経済性・核拡散・セキュリティリスクである。?長期的(30年後以降)な選択肢としては、資源効率や廃棄物面でFBRが最も優れた特徴を有する。一方で、核拡散リスク・セキュリティ面で課題がある。

 課題は選択肢の提示なのだが、背景にあるのは、「もんじゅ」と六ヶ所再処理工場だ。高速増殖炉の実用炉という計画が後退すると、トラブル続きの「もんじゅ」がお荷物になる。また、再処理の扱いも問題である。福島事故で経営破綻している東電がトラブル続きの六ヶ所を支えきれるのか? 官僚は現政策に固執するだろうから気が抜けない。

●伴英幸提出の新大綱策定会議奮闘記
 ・今後のエネルギー政策は?脱原発こそ進むべき道
 https://cnic.jp/1317
(5)形式的やりとり続く各委員会
  https://cnic.jp/1296
(4)原発の安全文化は根付かない
  https://cnic.jp/1248
(3)基本問題委員会も設置され、エネルギー政策の見直しへ
  https://cnic.jp/1233
(2)柏崎刈羽原発「再開までにこれだけの時間がかかって問題であると私は受けとめておりません」(清水電気事業連合会会長)
  https://cnic.jp/988
(1)脱原発・核燃料サイクル政策の転換を求め続ける
  https://cnic.jp/977

●【VIDEO】CNIC伴英幸による委員会報告(2) 2012/2/2
  http://www.ustream.tv/recorded/20164870
 【VIDEO】委員会報告(1) 2011/10/06
  http://www.ustream.tv/recorded/17706995

 

 

原子力資料情報室通信とNuke Info Tokyo 原子力資料情報室は、原子力に依存しない社会の実現をめざしてつくられた非営利の調査研究機関です。産業界とは独立した立場から、原子力に関する各種資料の収集や調査研究などを行なっています。
毎年の総会で議決に加わっていただく正会員の方々や、活動の支援をしてくださる賛助会員の方々の会費などに支えられて私たちは活動しています。
どちらの方にも、原子力資料情報室通信(月刊)とパンフレットを発行のつどお届けしています。