公開研究会報告:「原子力規制庁のありかたを問う」
公開研究会報告
「原子力規制庁のありかたを問う」
西尾漠
福島第一原発事故から1年を迎えて原子力資料情報室では、3月8日から毎週1回のペースで3回連続の公開研究会を持つこととした。第1回のテーマは「原子力規制庁のありかたを問う」。4月1日にも原子力規制庁を発足させようと、原子力組織制度改革法案なるものが国会に上程されている。それに物申すには急がないと、と考えての企画だった。
cnic.jp/1315
しかし、法案が成立して原子力規制庁が動き出すのは、そう簡単ではなさそうだ。対案を出すという自民党内もなかなかまとまらず、5月の大型連休明けになると報じられている。つまり、それまで法案は店晒しにされるらしい。ならば、市民側からの対案にも時間的余裕があると言える。そうした情勢下で、連続第1回の公開研究会は開かれた。
講師は、環境エネルギー政策研究所顧問の竹村英明さん。国会議員秘書の経験もあり、市民側からの対案をまとめようとしている中心人物の一人だ。但し、開始時間ギリギリの到着になるかもしれないというので、西尾が前座をつとめて法案の概要説明を行なった。
法案は、実は2本ある。原子力組織制度改革法案は、正式名称を「原子力の安全の確保に関する組織及び制度を改革するための環境省設置法等の一部を改正する法律(案)」という。その名の通り、環境省設置法など13に及ぶ法律の一部改正をひとまとめにした分厚い法案である。
原子力規制庁は環境省の外局として設置され、原子炉等の規制という仕事が経済産業省から分離されて環境省の所管となる(環境大臣は、この法律による権限を原則として原子力規制庁長官に委任する)。そのことを中心とする法案と言ってよい。そして、原子力規制庁の監視機関として原子力安全調査委員会が、同じく環境省に置かれる。2本あるとしたもう一つの法案が「原子力安全調査委員会設置法(案)」だ。両法案の主なポイントを列記する。
法案の主なポイント
(1)組織の再編にかかわるもの
▽環境省に原子力規制庁を設置
原子力安全・保安院、文部科学省原子力安全課の一部(残りは「放射線安全課」として文科省に残す)、原子力安全委員会のダブルチェック機能、原子力委員会の核セキュリティ機能を統合・一元化
▽原子力安全調査委員会を設置
所掌は、規制の実施状況の調査と、原子力事故の原因調査、被害軽減策の勧告など
▽放射線審議会を文部科学省から、原子力安全基盤機構を経済産業省から環境省に移管、放射線医学総合研究所は文部科学省と共管化
▽放射性物質による大気汚染、放射性廃棄物を環境省所管に組み入れ(一部のみ?)
(2)安全規制の見直しにかかわるもの
▽原子力基本法の基本方針に、安全確保の目的として「人の健康と環境を保護する」と追加(原子力利用推進という基本法そのものの目的は変えず)
▽原子炉等規制法から「原子力利用の計画的遂行」を削除
▽過酷事故対策の強化
▽最新の知見を踏まえた許可基準に適合していない施設に対する使用停止、改造、修理命令(法案自体には明記はなく、告示などに記載予定か)
▽運転期間の制限
使用前検査合格から40年。ただし、20年を超えない、政令で定める期間で1回に限り延長を認めることあり。
▽電気事業法に基づく原発の安全規制を原子炉等規制法に一元化
▽原子力災害対策特別措置法の改正
市民側からの批判と提言
竹村さんからは、法案に対する批判が述べられ、その批判に基づいた市民側からの提言案が提起された。以下に掲載する。これを叩き台に市民団体連名の提言が準備されることになった。西尾からは、「利用と規制の分離」でなく「他の政府部門からの完全独立」がIAEAの安全規則で要求されていることをコメントした。
(1)利用と規制の分離をより明確にすべき
改革法案は利用と規制の分離を実現できていないことは主張せざるを得ない。
(2)バックフィット制度*のきちんとした法的位置づけ
要綱案や準備室の説明では、バックフィット制度の導入が目玉商品のように書かれているが、改革法案の中にはまったく「存在していない」。バックフィットの定義、バックフィットのルール、バックッフィットの評価方法などを法案内に明記すべきである。
(3)新しい技術基準を誰がいつつくるかの明確化
現状の技術基準は民間の「協会ルール」が事実上の技術基準になっている模様。かつての通商産業省告示501号のような基準はないということだが、それで良いのか。耐震設計審査指針などの安全審査の指針類の見直しなど、何を検討しなければならないのかのプランが提示され、それが検証できる形にならなければ、安全審査が正されることはない。
(4)運転停止命令を含む権限の所在と判断基 準の明確化
要綱案や準備室の説明では、運転停止命令が目玉のように書かれているが、改革法案の条文中には「新たな」運転停止命令は見当たらなかった。
(5)高経年化対策の根拠の明確化
条文中に記述はあるが、根拠はどこにも書かれていない。もう一度、根拠から説明がなされるべき。
(6)規制庁関連の役職者への経歴制限
規制組織の役職者は原子力推進組織の出身者であってはならない。①規制庁長官 ②原子力安全調査委員会委員 ③原子力安全調査委員会における専門委員 ④審査専門委員
(7)住民参加プロセスの追加
関係自治体規制協議会、関係自治体市民規制委員会などの法制度化。事故や法令違反などが発生した場合は、関係住民向け説明会、公聴会、公開討論会などを適宜開催するシステムの制度化。
原子力安全・保安院が存続し続けることに懸念はあるが、拙速な規制庁スタートは延期すべきと考える。
●第75?77回 原子力資料情報室公開研究会 当日配布資料、アーカイブ映像
https://cnic.jp/1315