世界で巻き起こる再処理凍結の要求
NPT再検討会議を控えて
世界で巻き起こる再処理凍結の要求
※原子力資料情報室通信370号掲載
田窪雅文
ウェブサイト「核情報」主宰
www.kakujoho.net
5月2日から27日にまでニューヨークで5年に1度の核拡散防止条約(NPT)再検討会議が開かれる。2000年の会議以後に起きた北朝鮮やイランの核疑惑問題の浮上、闇市場の発覚、同時多発テロなどを背景に、ウラン濃縮施設および再処理施設の凍結を求める声が高まっている。これらの施設では核兵器の材料が作れるからである。
その中で世界の目が向けられているのが昨年末にウラン試験を始めた六ヶ所再処理工場である。現在大規模な再処理工場を持っているのは、英仏ロだけである。いずれも核保有国である(あとは、インドの小規模施設と日本の東海再処理工場)。しかも、英国の再処理工場は近々運転中止となる見込みである。このような中で非核保有国における初めての商業規模の再処理工場が使用済み燃料を使った試運転に年内にも突入しようとしている。
六ヶ所では、年間800トンの使用済み燃料が処理され、約8トンのプルトニウムが生産される計画である。国際原子力機関(IAEA)では、プルトニウムが8kgなくなれば1個原爆が作られている可能性があると思えという基準を定めている。つまり、フル稼働すれば原爆1000個分程度が毎年作られるということである。このような大規模な工場では、約1%程度の計量管理の不確実性が避けられないとマサチューセッツ工科大学(MIT)のマービン・ミラー教授が説明している。年間10個分程度は、本当になくなっているのかどうか確認できないということである。
日本ではしばしば原子力発電の使用済み燃料から抽出される「原子炉級」プルトニウムでは、核兵器はできないと主張されるが、国際的には、できるとの決着がついている。例えば、IAEAのブリックス事務局長(当時)は、1990年につぎのように述べている。IAEAは「原子炉級プルトニウムも……核爆発装置に使うことができると考える。当機関の保障措置部門にはこの点に関して論争はまったくない。」
日本には核武装の計画などないと言っても問題はなくならない。六ヶ所のような施設が世界各地にできれば核拡散の可能性が大幅に高まる。イランや北朝鮮は、隠れて再処理・ウラン濃縮施設を建設・運転しようとしたから問題になっているが、公式に宣言して作れば、反対する根拠はない。闇市場の存在は、いかに原爆の材料の生産技術が手に入れやすいものになったかを示している。その気になればどこの国でも、公に濃縮や再処理の施設を作ることができる。「プルトニウムか高濃縮ウランを手にした国は、核兵器の開発能力という点で、その決定をすればおそらくあと1ヵ月のところにあるといえるだろう」とIAEAのエルバラダイ事務局長は述べている。
経済性がないと政府自身が認めている再処理工場を日本が運転することになれば、他の国がエネルギー供給の上で必要性のないウラン濃縮・再処理施設を作る口実になってしまう。日本は、再処理を委託してきた英仏に合計35トン、国内に5トン、合わせて40トンのプルトニウムを保有している。これを活用するはずの高速増殖炉計画は破綻し、なんとか普通の原子炉で燃やそうというMOX計画も進んでいない。これ以上のプルトニウムを急いで作る理由はない。
国家に核保有の意図がなくとも、テロリストグループが核物質を盗み出す可能性がある。
エルバラダイ事務局長は、ウラン濃縮・再処理施設の建設を5年間凍結してその間に規制方法を議論するとの決定を再検討会議ですべきだと主張して脚光を浴びている。凍結要求の声は他にもある。国連の機能・組織改革の検討のためにアナン国連事務総長が設立したハイレベル諮問委員会は、昨年暮れに発表した『提言』の中で、濃縮・再処理サービスの提供保証について交渉が続けられている間、 各国が「自発的に、濃縮・再処理施設の新規建設に関する期間限定モラトリアムを設定すべきだ」と提案している。ブッシュ大統領も、昨年2月『原子力供給国グループ(NSG)』の40ヵ国(現在は44ヵ国)は、本格的なすでに稼働しているウラン濃縮・再処理施設を持っていない国には濃縮および再処理機器・技術を売ることを拒否すべきだ」と主張した。六ヶ所は例外的あつかいとなっている。
これらは新設についての凍結案だが、既存のものを含めたプルトニウム製造停止案もある。国連の大量破壊兵器委員会(WMDC)の委員長を務めるブリックス前IAEA事務局長は、昨年6月「私の委員会では、すべての国の高濃縮ウランおよびプルトニウムの製造を禁止する条約に向けて進まなければならないとの非常に広範かつ強い意見がある」と述べている。また、米国のカーネギー平和財団の核拡散問題の専門家らは、3月3日発表した報告書で、高濃縮ウランの製造禁止とプルトニウムの一時製造停止を呼びかけ、「プルトニウムの蓄積は、今日の状況において非常に大きな世界的脅威をなすものであり、安全保障上の命題が他の面の考慮すべてに優先すべきであり、追求されるべきである」と述べている。世界の民生用の分離済みプルトニウムは約235トンに達しているのである。これまで核兵器用に生産されたプルトニウムの量約250トン(うち余剰と宣言されたのが100トン)と比べればその大きさがわかる。軍用の余剰分と民生用を合わせた合計330トンの処分が核拡散防止の緊急課題である。
米国の「軍備管理協会(ACA)」のダリル・キンボール事務局長は、六ヶ所のウラン試験開始について、「核の拡散防止を目指して国際社会が新たな規範を確立しようと奮闘しているのに、再処理の選択肢をほかの国にも与えかねない」と厳しく批判している。
六ヶ所再処理工場が運転に入ってしまえば、それは第2の核時代―大規模核拡散の時代―の幕開けを告げることになるかもしれない。いま再処理計画の中止を発表すれば、日本は第2の核時代の幕開けを阻止した国として、歴史に名を残す可能性がある。選択をするのは、私たち日本人である。