NPT再検討会議・核不拡散を唱えながらプルトニウム抽出を強行する日本の矛盾(『通信』より)

NPT再検討会議・核不拡散を唱えながらプルトニウム抽出を強行する日本の矛盾(『通信』より)

※原子力資料情報室通信372号(2005.6.1)に掲載
※図版は省略

■はじめに

 米国ニューヨークの国連本部において、5月2日から核不拡散条約(NPT)再検討会議が開催されている(予定では27日まで)。核不拡散問題に関する最近の動向は本誌370号(田窪雅文「NPT再検討会議を控えて―世界で巻き起こる再処理凍結の要求」) cnic.jp/148 ですでに紹介されているが、特に重要な懸念事項は、ウラン濃縮やプルトニウム抽出(つまり再処理)技術に関して、軍事利用と商業利用とを明確に区別することに限界が生じてきているということだろう。例えば、核の商業利用を管理する立場にあるエルバラダイIAEA事務局長から出された核燃料サイクルの国際核管理構想(MNA)、国連のハイレベル委員会の報告書、カーネギー財団による報告書などが相次いで出されたという事実が、この問題の深刻さを物語っている。

■NPT再検討会議

 会議の初日、アナン国連事務局長は、ウラン濃縮・再処理技術について「何十もの国が開発し、短期間で核兵器を作るテクノロジーを持ってしまえば、核不拡散体制を維持することはできなくなる。一つの国がそのような道を進めば、他の国も、自分たちも同じことをしなければ、と考えてしまう。そうすれば、あらゆるリスク、つまり核事故、核の違法取引、テロリストによる使用、国家自体によるリスクが高まる」と警告した。
 さらにエルバラダイIAEA事務局長は、これまでの報道を通じての発言と同様、核不拡散の観点からみて核燃料サイクルは慎重に扱うべきであることを強調した。これを受けて、オーストラリアやカナダ等の10か国が、エルバラダイ氏のMNAを支持する内容の文書を提出している。
 執筆時点では会議は始まったばかりである。ようやく各国の演説が終わった段階である。今後どのような展開になるかは不明だ。特にアメリカは「平和利用を隠れみのに核開発を行なった」としてイランを非難し、そのイランは「平和利用の制限はNPTの精神に反する」と反対するなど、混乱を招いている。
 しかし先に述べたとおり、核技術の軍事・商業利用を区別することの難しさは共通の見解になっているといえるだろう。なお、会議の資料は国連のNPT専用のウェブサイトに掲載されている( www.un.org/events/npt2005/index.html )。

■UCS声明

 会議が始まって間もない5月5日、国連内において、憂慮する科学者連盟(UCS)が重要な声明を発表した。「六ヶ所使用済み燃料再処理工場の運転を無期限に延長することによってNPTを強化することを日本に要請する」というこの声明は、六ヶ所村再処理工場の操業は年間8トンのプルトニウムを生産するものであり、核不拡散を唱える日本の政策に対して疑問を抱かせるというものだ(本文はウェブサイトを参照: www.ucsusa.org/news/press_release.cfm?newsID=481 )。
 この声明には、4名のノーベル物理学賞受賞者、米国科学賞受賞者、有名大学の著名な科学者たちが署名している。中にはウィリアム・ペリー元国防長官、ピーター・ブラッドフォード元原子力規制委員会委員、共和・民主両党のエネルギー省や国防省、国務省などの元高官だけでなく、サンディア国立研究所、ローレンス・リバモア国立研究所の元所長が署名に名前を連ねている。声明の内容はもちろん、テロリスト対策などで核拡散問題に神経をとがらすアメリカから、このような発信がされたことは意味があると思われる。
 このプレス発表には、日本や海外のマスコミだけでなく、科学者やNGOの人たちも参加した。フランク・フォンヒッペル教授(プリンストン大学)は、「六ヶ所が運転開始になれば、2020年の国内プルトニウム保有量は、米国の兵器用ストックに匹敵するものになる」と警告した。また、原子力資料情報室の伴代表は原子力長期計画策定委員として参加し、日本の特殊な原子力政策の現状を訴えて注目を浴びた。なお参加者の雰囲気としては、このような主張を日本に対して行なってくれたことに好意的な意見が多かったように思われる。核保有国ではない日本が再処理事業を行なっている、という事実を都合よく利用している海外の事例はかなり多いようである。もし日本が今回の声明を受け入れれば、想像以上に世界に大きなインパクトを与えるであろう。
 ところで、この声明を受けて、日本国内でも著名人署名を集めることになった。平和・軍縮問題等に取り組む人々からの声を集めることが主なねらいだ。その結果については、NPT終了予定の5月24日、同じくニューヨーク国連ビルで記者会見が行なわれる予定である。

■おわりに

 肝心の日本政府の対応はどうだろうか。町村外務大臣の声明は、核軍縮と核不拡散問題に関する主張と比較すれば、平和利用に関する主張は弱い印象を受ける。核不拡散を主張しつつ自国だけ核燃料サイクル維持を主張することの自己矛盾や後ろめたさがそうさせているのではないだろうか。現にMNAに賛同するというオーストラリア等の文書を見ると、MNAは「差別的でないアプローチで」行なうことと念を押されているのである。
 日本は、「被爆国」という視点で行なってきたこれまでの主張を続けるならば、いずれは現在の矛盾した日本の状況に解決策を見出さなくてはならない。自国の再処理操業が許されるという「既得権」を自ら放棄すれば、NPTでの核燃料サイクルに関する議論は非常に整理されるはずだ。またイランなども、日本の勇気の前には強い主張ができなくなるだろう。
 六ヶ所再処理事業は、高速増殖炉計画等が破綻したことから、使用目的の不透明な無駄なプルトニウムを作るだけである。またプルトニウムと比較してウランが特に価格が高いわけでなく、資源として不足しているわけでもない。さらに再処理と比較して直接処分の方が経済的には安いことは政府も認めているのである。
 このような原発問題という視点だけでなく、UCSの声明で明らかなように「核不拡散問題」という視点からも、六ヶ所再処理工場は大きな矛盾を抱えている。

勝田忠広(スタッフ)

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