[セラフィールド]THORP再処理工場大規模漏えい事故で施設閉鎖か!(『通信』より)

THORP再処理工場大規模漏えい事故で施設閉鎖か!(『通信』より)

関連リソース:
www.corecumbria.co.uk
www.jca.apc.org/mihama/
news.bbc.co.uk/go/pr/fr/-/1/hi/england/cumbria/4118008.stm

原子力委員会長計策定会議参考資料
aec.jst.go.jp/jicst/NC/tyoki/sakutei2004/sakutei28/sanko5.pdf

※原子力資料情報室通信372号(2005.6.1)に掲載
※図版は省略

 イギリス中西部・カンブリア地方セラフィールド原子力施設内にあるソープ再処理工場(THORP=Thermal Oxide Reprocessing Plant=酸化物燃料再処理プラント)で、4月18日に漏えい事故が発生し、工場は無期限の停止に追い込まれている。情報は少ないが事故についてまとめる。

■83立方メートルの溶液漏えい

 事故は、清澄機や計量調整槽の設置された清澄・計量セル(長さ約60メートル、幅約20メートル、高さ約20メートル)の中で起きた。漏えいしたのは使用済み燃料を硝酸に溶かしたばかりの溶液(以降使用済み燃料硝酸溶液または溶液)で、量は約83立方メートルと推定されている。現時点(5月25日)で溶液は回収されておらず事故は続いている。同工場を運転するBNG(イギリス原子力グループ)とNII(原子力施設検査局)が回収方法を検討中だ。現場は強い放射線のため作業員が近づくこともできず、遠隔操作や特殊なロボットでの回収が考えられているようだ。
 漏えいした溶液は清澄セルの内に留まっているが、同工場を運転するBNGは、「工場は安定した停止状態にあり、施設の労働者、周辺環境への影響はない」と発表している。この事故はINES(国際事故評価尺度)で、暫定値「レベル3」とされた。1997年に東海再処理工場で発生したアスファルト固化施設火災爆発事故と同じレベルだ。しかし事故の詳細が明らかになれば、変更される可能性もある。

■運転員が溶液を見失う?

 事故が確認されたのは4月18日、ソープ再処理工場の前処理施設の運転員が、溶解工程でせん断・溶解された使用済み燃料硝酸溶液が、次の清澄・計量工程の計量調整槽に「到着していない」ことに気づいた時だった。直ちにこれらの設備が設置されている前処理施設の運転が中断された。(工場全体は、5月4日に全面的に運転を停止した。)
 翌19日リモートカメラによって、高放射線区域となっている清澄セル内の調査が行なわれた。セル内には計量調整槽が2基設置されているらしい。使用済み燃料の硝酸溶液は、このうちの1つの計量調整槽の上部に接続された配管の「破断」部分から漏えいした。セル内はステンレスで内張りされており、漏れた溶液はこの床に貯まっている模様だ。破断した配管から硝酸溶液が漏れた際、計量調整槽の支持鉄骨に降り注ぎ、鉄骨を溶かしていることも明らかになった。BNGは、「約20トンの使用済み燃料が工程に入っていた」としているだけで、詳細は公表していない。

■溶液沸騰の可能性も

 ソープ(イギリス)、UP-2、UP-3(フランス)、そして、東海、六ヶ所の各再処理工場は、使用済み燃料を硝酸に溶かし、溶液の状態で核分裂生成物(死の灰)、ウランやプルトニウムを化学的に分離するピューレックス法という方法を採用している。前処理施設では、原発から輸送された使用済み燃料を数センチに切断する(せん断工程)、濃硝酸に溶かす(溶解工程)、硝酸に溶けにくい核分裂生成物などの不溶解残渣を取り除く(清澄工程)、硝酸溶液の計量と次の分離工程のための硝酸濃度の調整(計量調整工程)などが行なわれる。
 図2は六ヶ所再処理工場の前処理建屋の概要だが、ソープも基本的には同様の工程で運転されている。情報は乏しいが、ソープでは図示した箇所周辺で漏えいが発生したと考えられる。溶液には使用済み燃料がすべて溶けているので、この事故は高レベル廃液、プルトニウムなどの危険性を合わせ持っている。六ヶ所工場でも同セルで漏えいが発生すると、含まれる放射能の崩壊熱によって溶液が沸騰する恐れがある(『設置許可申請書』)とされている。また長時間溶液がセル内に留まっていると臨界、発熱の他、水素の発生、気体の放射能の放出、腐食の進展などの危険性が高まる。

■ソープ閉鎖の議論

 漏れた溶液の回収が切迫した問題だ。なぜこれほど大量の溶液が漏えいしたのかなど、事故原因の究明は数ヵ月先となるだろう。今回の事故では非常に高いレベルの放射能汚染という再処理工場の危険性や、強力な放射線のために回収作業もままならないという事故対策の困難性が浮き彫りになっている。
 事故によってソープ再処理工場は相当長期間の停止を余儀なくされ、また事故対策に膨大な経費が見込まれる。工場の操業停止による収益減、再処理の遅延による債務の拡大などによって、ソープを中心とするイギリスの再処理事業計画全体の再検討は必至だ。すでにソープ閉鎖を巡る議論も巻き起こっている。事故の続報とともに、次号に詳細を紹介する。
(澤井正子・スタッフ)

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