規制緩和の流れの中での美浜3号機事故

規制緩和の流れの中での美浜3号機事故

※原子力資料情報室通信368号(2005.2.1)掲載
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小山英之
(美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会・代表)

 未曾有の11名もの死傷者を出した美浜事故から5ヵ月経つが、関電は事故の責任を認めていない。「人の命をどう思うとんのや」という親の悲痛な叫びを、藤社長は土下座しながらどう聞いたのだろうか。事故が起こるとその原因や責任を明らかにしないまま、開き直るように「対策」だけを提示する、これがこの会社の常套手段なのだ。1999年のMOXデータ不正事件でも、安全性には問題がなかったと開き直り、責任をうやむやにした。
 藤社長は血塗られた手のまま、2004年10月7日に青森県全員協議会にでかけて謝罪し、ウラン試験安全協定締結の場には電事連会長として立ち会った。長計策定会議での安全論議にも参加している。福島県の佐藤知事から「茶番劇だ。いまだに安全論議に参加しているのは理解に苦しむ」と、12月22日の「ご意見を聴く会」で批判されたほどである。
 関電は事故当初から開き直っている。その背景には、以前からの老朽原発の延命策や「性能規定化」の流れがあり、さらにその底には電力自由化の下での電力の経営姿勢がある。

火力と原子力を区別せず、
独自の基準で開き直る関電

 美浜事故の直接原因である当該破断部位の点検リスト漏れについては、まだ何も明らかにされていない。それどころか、関電は検査について、さまざまな確信犯的違法行為を行なっていたこと、それが違法であるとは認めようとしなかったことが明らかになった。
 例えば、美浜2号機では、2003年9月の測定で火力発電設備の「ただし書き」を適用していると、原子力安全・保安院から指摘された部位が2ヵ所ある。この「ただし書き」は、本当は火力でも基準に適用するのは誤りであった。そこで、測定をやり直した結果の2004年8月27日付報告書では、「計算必要厚さ」として「実材料に基づく計算値」を挙げている。例えば主給水管ティーズでは、測定最小値が17.4mm、計算必要厚さが15.87mmで余寿命8.3年と書いている。ところが、技術基準が定める必要最小肉厚は、15.87mmではなく17.5mmなのだから、すでに違法状態になっているのである。
 この点関電は、同報告書で次のように開き直る。火力発電の技術基準は「性能規定化されているため」、技術基準の解釈は「要求事項の例示を示したもの」だ。「したがって、同解釈によらない評価方法であっても技術基準が要求する機能を発揮できれば良いと考えられる」。関電は明らかに原子力の2次系は火力と同じだという立場に立っている。
 こうして10月8日付報告書では、次のような態度を示す。「許容応力評価について当該材料の実績値を用い、次回定期検査までの間は問題ないものと評価しましたが、現在の停止中に当該部位について念のため取替補修を実施し、最終検査を完了しました」。つまり、技術基準は無視できるが、「念のため」取替補修をしたのだというのである。
 関電の岸田副社長は、この考えを改めたと10月8日の福井県原子力安全専門委員会で述べたが、そのことを示す文書はどこにも見当らない。
 火力の技術基準が「性能規定化」されていても、それをそのまま原子力に適用してよいという根拠はない。原子力での「性能規定化」は、後で触れるようにまだ検討中なのである。例えば、2004年12月16日付「原子力発電施設の技術基準の性能規定化と体系的整備についてー中間とりまとめ(案)ー」でも、現状では原則として仕様規定が適用されているとし、火力基準解釈の性能規定化は「明確化」すべき課題だと捉えている。
 他に、大飯1号では、内側が減肉した給水加熱器配管の外側を肉盛り溶接し、測定定点が分からなくなったと称して別の点で測定し、最小肉厚を大きくして余寿命を延ばした。また、大飯2号の第5ヒータ空気管では、測定すべき4ヵ所の曲がり部を測定していなかった。その理由は、その4ヵ所の両隣の曲がり部を測定した結果から「類推」で判断できるからだという。これらの措置を保安院はとがめることなく、事実上容認している。

自ら法を破って
電力事業者に加担する保安院

 保安院は、事故の2日後の8月11日に報告徴収を各電力事業者にかけ、点検リスト漏れの有無を調査した。そのとき、具体的にどのような検査をしているかを知るために、各号機について1部位(美浜3号以外)の検査結果を提出するよう口頭で指示した。その結果、PWR(加圧水型原子炉)で21例(美浜3号を除く)、BWR(沸騰水型原子炉)で27例の減肉率データが集まったが、どの部位を選ぶかは事業者まかせであった。保安院はこれを金の卵のように扱い、平均をとってみたり、現行のPWR配管管理指針の減肉率と比較してみたりしているが、集めたデータに一般性がないのだから、その結論が判断の普遍的根拠になり得ないことは明らかだ。
 現行管理指針が破綻していることは、2つの例からだけで明らかである。第一に、美浜3号の破断部位の平均減肉率は余裕をもつはずの管理指針の値を上回っている。第二に、大飯1号の主給水管は、減肉しないとされる「その他部位」に属していたのに、ひどい減肉を起こし、数年前から技術基準の最小肉厚を割り込んで違法運転状態を続けていた。
 これらの事実を踏まえるなら、保安院がなすべきことは、配管のあるがままの実態を把握すること、とりわけ最大減肉率がどの程度かを把握することである。特にBWRでは、配管の検査は代表部位に限られ、驚くほどわずかしかなされていない。美浜事故後でも、配管からの蒸気漏れ、穴あきが敦賀2号や福島??4号、島根2号で起こっている。ところが保安院は、すべてを検査するような指示は出せないのだと強く拒絶するのである。
 それどころか、福島??5号問題では、驚くべき姿勢を保安院は示した。その原発では、2003年2?9月の定期検査で、第4給水加熱器A系エルボ部で余寿命が0.8年しかないと判明したが、東電は修理せずに翌年11月の定検まで運転することにした。この場合、2004年7月頃には違法運転になると予測される。美浜事故後に保安院は、関電への立ち入り検査結果の水平展開として福島第一原発をも調査し、9月にこの事実を把握したが、東電の方針を容認した。ところが独自にこの事実をつかんだ福島県はこれを問題視し、保安院に見解を糺す質問書を出した。保安院は回答で、自らの判断を正当化して、技術基準を無視してもよいことを次のように理論づけさえした。「技術基準には、元々十分な安全裕度が盛り込まれているため、……仮に技術基準上の最小許容肉厚に達したとしても、これがただちに安全上の問題に結びつくことはない」(2004年10月7日保安院見解)。福島県知事も憤りを露わにしたように、法の番人が率先して法を破ってもよいというのである。
 保安院のこの姿勢の裏には、検討中の次のような趣旨の考えがある。現在の技術基準は新規に施設を設計・建設するときの性能等を規定している。それにはすでに経年変化等を考慮して安全裕度が考慮されており、事業者はさらに裕度をもたせている。現状では供用中の維持基準がないが、米国では別に規制に採り入れている。したがって、わが国でも別に民間の規格を機動的に採用する必要がある(2004年6月14日総合資源エネ調原子力安全・保安部会第18回、資料4?1、p.10[供用中検査で適用する技術基準])。

電力事業者の利害に従う
「性能規定化」の流れ

 上記の考えはさらに、「性能規定化」として定式化されようとしている。これは2003年3月28日に閣議決定された広い分野を包含する考えである。例えば、前記12月16日付「中間とりまとめ(案)」では、次のように定式化している。「性能規定化は、規制当局が定める技術基準は要求される性能を中心とした規定とし、それを実現するための仕様には選択の自由度を与えるものである。原子力発電設備への適用に当たっては、規制当局が技術評価した学協会規格を仕様規格として活用することを基本的考え方としている」。こうして、告示501号などの技術基準は廃止し、それに替えて、機械学会などと電力会社、保安院が共同で「公平性や公正性、公開性を重視したプロセス」でつくる「学協会規格」を設定するという。
 では、美浜事故を受けた(2次系)配管の管理指針については、具体的にどうしようというのだろうか。すでに機械学会の中に「配管減肉対応特別タスク」が設置されている。その中の「原子力サブタスク」のメンバー10名を見ると、主査は渡部修氏(筑波大学)、幹事は千種直樹氏(関電)で、後の8名のうち4名は関電のもう1名を含む電力関係、残りの4名は東芝など原発メーカーに属している。これが、「公平性、公正性」の実の姿なのだ。
 次に、このタスクが策定する「配管減肉管理に関する規格案」の「目的」を見ると、「本規格は、発電用火力設備または発電用原子力設備における流体流れによる配管減肉事象の管理について、以下の事項を定めることを目的とする。(1)設備管理者の責務、(2)設備管理者が策定する配管減肉管理を定める指針が満足すべき要件」となっている。この発想は、基本的に、電力会社の責務を第一義的に重視し、減肉管理指針は電力会社が定め、その条件をタスクが定めると読み取れる。まさに、前記関電の主張が公認されるのだ。
 ただし、学協会規定がどうなるかは、いまのところまだ明らかでないが、保安院は機械学会に対して、検査方法として、?検査部位の選定に係る「類推」の考え方の合理性、?BWRとPWRの違いの合理性、を検討するよう要請している。まさに、これまで述べてきた検査の現状で最も問題となっている点を容認する意図が見えている。

高経年化対策という名の
原発の延命・酷使策

 福井県の西川知事は2004年9月24日付国への要請書の中で、「正に美浜3号機の事故は高経年化対策を怠った事故である」と断定し、「国の高経年化対策について再検討を行い、安全対策に万全を期すこと」を要請した。これを受けて、保安院の下に「高経年化対策検討委員会」が設置され、12月16日に第1回が福井市で開かれた。しかし、この委員会の目的や予定テーマは漠然として、ただ議論するだけのように見える。唯一「配管減肉に係る高経年化対策」があるが、すでに機械学会案があるのに何を検討するのだろうか。
 高経年化対策とは基本的に延命策であることは、1980年代半ばの米国からの流れで明らかである。劣化していく現実の姿に合わせそれを容認するような管理方式をとることが、例えば通産省の1999年2月付「電気事業者の原子力発電所高経年化対策の評価及び今後の高敬年化に関する具体的取組について」の中の14頁「経年変化に対応した技術基準の整備」で述べられている。要するに維持基準の導入である。
 経年劣化については、特に取替え困難な電気ケーブルが問題になる。1993年にNRC(米原子力規制委員会)が報告したように、LOCA(冷却材喪失事故)時の高温・高放射線の条件で、ふだんは見えない劣化が一気に顕在化するという問題だ。そうなれば、事故時にプラントの状態把握や機器の作動ができなくなる。今回の美浜事故では、高温蒸気が電気ケーブルを変質させ、また直接電磁弁にも影響して主蒸気隔離弁(C)が作動しなかった。このことを深刻な問題と捉えるべきである。

美浜事故を踏まえ、事実を対置し、
監視を強め、老朽原発を
静かな死へと導こう

 関電が美浜事故前の2004年5月に公表した「経営概況」では、これまでと違う状況の変化が強調されている。すなわち電力自由化が今年春には格段に進行することである。そこで「かんでんブランドの電気を選んでいただけるよう」にするため、「徹底した効率化に邁進する」ことがうたわれている。その具体策として、90年代半ばから、原子力利用率は著しく上昇し、修繕費等は著しく削減された。この実情が美浜事故の背景にある。
 関電では、全発電電力量の65%を原発が占め、原発11機中の7機が25歳以上である。厳しい経営環境の中で、老朽原発を酷使せざるを得ない条件が、「性能規定化」の基礎に存在し、そのような規制緩和の流れが、美浜事故が呈した疑問を押し流そうとしている。
 この姿勢に対し、未曾有の犠牲者を出した美浜事故をしっかりと踏まえ、事実を対置し、老朽炉に対する監視を徹底し、規制強化の要求を通じて、1993年1月の米国トロージャン原発のように、老朽原発を静かな死に導くことしか、我々の生き延びる道はない。

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