原子力長計策定会議意見書(第22回)
原子力長計策定会議意見書(22)
2005年3月29日
原子力資料情報室 伴英幸
老朽原発の延命を図るのではなく、
発電に占める原発の割合を3~4割に固定するのでもなく、
順次廃止していくべき
論点整理案では原発の割合を固定する提案がなされていますが、これはリプレースを事業者に義務付けるものであり、同意できません。これは電力自由化の流れに逆行もします。電気事業者は老朽原発の延命をはかるのではなく、順次廃止していくべきです。
1. 安全規制を緩和することを「高度化」などと呼ぶことに、何より安全軽視の実態が露呈しています。検討されている高経年化対策で原発の危険性がより増すことを前回も意見で述べましたが、ここでは、ひび割れの進展速度が予測できないこと、配管の減肉が予知できないこと、アンダークラッド・クラッキングの危険について、添付1に補足し、高経年化対策の危険をさらに訴えます。
2. 新規プラントについてコスト回収の保証がなくなったのは、原子力だけではないはずです。にもかかわらず最もコストが安いと宣伝している原子力の救済を図ることは極めて不公平であり、「市場活用の原理」に反するといわざるを得ません。
実際には、原子力のコストが安いとする宣伝自体が虚構なのではないでしょうか。原子力資料情報室の試算(添付2)では、原発のコストは法定耐用年で比較しても、また、評価期間40年で比較しても、他の電源に比べて高い結果が出ました。
このような電源にこだわることは大いなる「無駄づかい」であり、原発の割合を固定させるべきでないことは言うに及ばず、原発を基幹電源として位置付けることもできません。
3. 一次エネルギーの50%弱を石油に依存し、石油の中東依存度も87%と極めて高いとか、世界で資源獲得戦争が激化する可能性があるとかと強調し、「供給面で安定的で信頼できるエネルギー源を確保していくことが一層重要」と述べていますが、そのことと原子力の評価とは直接つながりません。
「ウラン資源は地域偏在が少なく政情の安定した国々に分散している」といいます。しかし質問への回答によっても濃縮ウランの輸入相手国は87%がアメリカ、10%がフランス、3%がイギリスで、政情の安定はともかく明らかに偏っています。国内の濃縮能力の小ささを考えれば、必ずしも安定とは言い難いのですが、問題はそれだけではありません。
この資源供給の安定性は、発電用の原子力に対してだけであって、エネルギー供給全体の安定性を意味しないのです。仮に濃縮ウランが安定的に供給されるとしても、原子力によって石油の代替は、なしえません。
前回会合で勝俣委員は「言ってみれば血みどろの努力でここまで来た話を簡単に、10%が石油だからこれ以上原子力つくってもしょうがないという話には、甚だ残念な話だと考えております」と言われました。その努力を認めないわけではなく、簡単に結果のみを書いてしまったことは申し訳なく思いますが、ならばなおのこと説明資料には、一次エネルギーの石油依存のみならず、電力供給に占める石油の割合も示すべきでした。
今後のこととしては、やはり、発電量の10%の石油をゼロにとはならないし、発電用以外の石油を原子力では減らせないことを確認するべきです。
「高速増殖炉とその核燃料サイクルが実現した場合には、半永久的に資源確保ができる可能性がある」という点も、同じく発電用である以上、その発電のための燃料が安定的に供給できるかもしれないということでしかありません。また、「実用化の見通しのない話」という立場には立たないとしても、「潜在的可能性が最も大きいものの一つ」に過ぎず、それが「実現した場合」をエネルギー安全保障に有益であることの根拠とすることはできません。
4. 原発は地球温暖化防止につながらない
4.1. 天然ガスと原子力の二酸化炭素排出量を比べることは、上に述べた点からも大きな意味はありません。天然ガスは発電用以外の代替も可能ですが、原子力ではできません。原子力は石炭火力の代替にはなり得ますが、もしもそうするというのなら、まず建設中・建設準備中の石炭火力の放棄が宣言されて然るべきでしょう。
放射性廃棄物を少しでも安全に管理し続けようとすれば二酸化炭素の排出量は大きくなります。遠距離送電や揚水発電所の発生する二酸化炭素なども考慮する必要があり、原子力の二酸化炭素排出量が小さいと簡単には言えません。
原子力利用に伴う放射性廃棄物は管理できるとしていますが、チェルノブイリ原発事故などさまざまな放射能放出事故は現に起きているし、将来さらに大規模な放出がないという保証はありません。
原子力による水素製造の可能性も、高速増殖炉と同様、可能性を評価の根拠とはなしえないと考えます。
4.2. 「Nuclear Technology Review 2004」(IAEA)の2030年までの予測によれば、既存の原発ならびに建設確実な原発および老朽原発の廃炉を考慮したケース(Low Estimate)と発電力量が2002年と比較して約70%増大するケース(High Estimate)を比較しています。どちらのケースも電力供給は増加する予測ですが、この予測で注目すべき点は、原発が増大するケースのほうが、電力供給が原発の増加にも増して増大すると予測しています(表1)。
この見通しからは、温暖化防止のために、増大する電力需要を原子力によってまかなう予測や計画が合理的根拠を持っていないといえます。
表1)
単位:TWh 2002 2010 2020 2030
世界合計 合計 原子力 合計 原子力 合計 原子力 合計 原子力
Low 16090 2574.2 17463 2830 20857 3085 24520 2881
High 19873 2987 27848 3756 38989 4369
4.3. 事務局配布資料には原発が二酸化炭素を排出する量が火力発電と比べて相対的に低いことが示されています。この資料は、ライフサイクルで比較されていること、建設段階での二酸化炭素排出量は火力発電よりも原子力の方が相当に多い ことから、累積二酸化炭素排出量の概念は図1に示すように変化すると考えられます。原発の大幅な増大が起きるとの予測に従えば、新規建設によって大量の二酸化炭素を排出する結果となり、そのことは温暖化を推し進める結果となるとの懸念を抱かせます。
4.4. 温暖化防止のために積極的に原子力の導入をはかり、世界の原発が急増することになれば、それに伴ってウラン資源の需要は急増し、高品位のウラン資源は早急に使い果たされてしまうでしょう。ウラン鉱石の品位の低下は燃料の製造にかかわるコストを引き上げるばかりか、燃料製造にかかわる二酸化炭素排出量も大きく増やすことになります。図1の原発の勾配は強くなり、ウラン鉱石の品位によっては、火力より多くなることも考えられます。
図2は原発とガス火力発電の排出する二酸化炭素量をウラン品位との相関で比較したものです (ライフタイムは30年、設備利用率80%、濃縮はガス拡散法を想定)。図2からは、品位が0.01%程度になってしまうと、ガス火力発電よりもCO2排出量が多いことが読み取ることができます。
5. 今後の原子力利用の基本的考え方
上述の通り原子力の役割を期待する根拠はありません。順次廃止していくべきです。「原子力発電に依存しない場合、省エネルギーや新エネルギーの導入が大幅に進展すると大胆に仮定しても」云々とありますが、数字の上で仮定することより、現実に進展するような施策をとることが必要です。省エネルギーの困難性や新エネルギーの弱点を強調する資料のつくり方からは、本気でこれらを推進しようとする姿勢が見られません。
添付1)高経年化対策で惨事の危険性が増す
原子力資料情報室 山口幸夫
「既設炉の最大限の活用」を、「安全の確保や地元の理解を大前提に」電気事業者が考えています。国もそれに理解をしめし、1996年4月、報告書『高経年化に関する基本的な考え方』をまとめました。これに基づいて、事業者が実施した9プラントについての高経年化対策の検討結果を国は適切だと評価・判断し、すでに公表しました。国の評価・判断は、1999年に3プラント、2001年に2プラント、2003年に4プラントについてなされました。その時点で、これらは運転開始から27~29年という「経年数」のプラントでした。
金属に限ったことではありませんが、どんな材料でも必ず劣化するのですから、原発の老朽化を避けることはできません。したがって、「安全の確保」を第一に謳うかぎりは、原発の寿命の延長を認めるときの評価と判断について、根拠に曖昧さがあってはなりません。評価・判断する時点で、もしも科学的根拠と技術的見通しに明確な根拠が見いだせなければ、大事をとって、寿命の延長を認めず廃炉にするという選択がありえます。それが理にかなったやりかたです。しかし、技術の現場ではしばしば、経験と勘とが優先しがちです。経済性と政治的判断とがそれを後押しして、理が軽んじられたために、事故や惨事を引き起こした例は枚挙にいとまがありません。原発では、そういうことは絶対に避けねばなりません。
「安全の確保や地元の理解」と事業者は言いますが、「安全の確保」と「地元の理解」はけっして同位・同列ではありません。まず「安全の確保」が保証され、その次に「地元の理解」を得るという順序でなければなりません。安全が確保されたからといって、地元が原発を選ぶかどうかは別の問題だからです。
残念ながら、これまでは「安全」は二の次で、まず「地元の理解」を得ようとする事業者のやりかたが慣行でした。国もそれを認めてきたと言っていいでしょう。トラブルを隠していたり、デ-タを改竄していたことが発覚して、2002年に大きな社会問題となった東電の例はその典型です(原子力資料情報室編 『検証 東電原発トラブル隠し』、岩波書店、2002年)。不正がおこなわれた東電の原発13基の中には 、福島第一原子力発電所1号炉と2号炉とがふくまれていま す。この2基は国が寿命の延長を「適切」と判断した9基のうちにはいっているのです。
2004年8月、関電美浜原発3号炉で5人の死者をともなった配管破裂事故が起こりました。これは「経年数」29年になろうという老朽化した原発でした。事業者も国もこの事故を防ぐことが出来なかったのです。原因はほぼ明らかになりましたが、以前から知られていた「減肉」現象がひとすじ縄ではいかない難問題だとはっきりしたわけで、高経年化対策はますます難しくなりました。
東電事件でBWRの、関電事件でPWRの弱点が露呈しました。原発立地の「地元」では、事業者の言うことがころころ変わって、困り果てているのです(原発老朽化研究会編 『老朽化がすすむ原発』、原子力資料情報室、近刊)。「地元の理解」はずっと遠退きました。
1.原発シュラウド・再循環系配管のひび割れの進展速度は予測できない
2002年8月に発覚した東電事件いらい、原発のシュラウドやステンレス製の再循環系配管の応力腐食割れ(SCC)をめぐって、関係者たちによる精力的な研究と議論がおこなわれてきました。原子力資料情報室も老朽化研究会を主催し、この問題に取組んできました。
原発用ステンレス鋼の応力腐食割れは炭素濃度が0.03%以下(L級)のステンレス鋼の開発で解決できた、とされた時期がありました。SUS304LやSUS316Lはそういう材料です。しかし、1972年の時点で、このことに疑問をなげかけた専門家もいました(高野道典 「証人調書」、水戸地裁 1972年9月14日、10月12日)。はしなくも今回の東電事件で、この疑問が的を射ていたことが判明したことになります。
新品同様な状態がいつまでも続くほうがおかしい、経年化がすすんでもひび割れや減肉の進行具合を正しく把握できていれば運転継続はかまわない、と事業者と国は言います。それはその通りです。問題は、ひび割れや減肉の進行状態を正しく把握できるのかどうかです。出来ないのではありませんか?
ひび割れの進展速度が予測できないと考える理由を以下に述べます。
国が言うひび割れの進展速度は、
まず、①ひびの初期形状を設定し、②進展する部位の残留応力分布を計算し、③それらから、応力拡大係数を求め、④実験から得られている応力腐食割れ進展速度図にこれをあてはめ、ひび割れ進展速度を算出する、というものです。
しかし、(1)初期のひび割れの形状・大きさについては、正確に測定できる技術が現在はありません。改良された超音波測定でも誤差が大きすぎます。また、部位によっては、測定者の放射線被曝が心配で、おちおち測定できません。構造的に測定ができない部位もあります。(2)有限要素法による残留応力分布はあくまでも一つの計算です。(3)現在の応力腐食割れ進展速度図は、材料の低炭素ステンレス鋼に塑性ひずみの無い状態で測定されたデ-タから作成されたものです。いま問題になっているひび割れは、塑性ひずみを受けたステンレス鋼の応力腐食割れであって、鋭敏化による従来のSCCとは異なるメカニズムです(井野博満 『金属』73巻11号、2003年)。したがって、この図を使うわけにはいきません。使うなら、慎重な検討が必要です。しかし、それは誰によっても、どこででも、なされていません。
塑性ひずみを受けたステンレス鋼の応力腐食割れは今回あらたに認識された現象で、最近の研究では、鋭敏化ステンレス鋼よりもき裂の進展速度が大きいというデ-タが得られています。要するに、メカニズムが解らない新しい現象が認識されつつあるわけです。原子力安全・保安院の「原子力発電設備の健全性評価について-中間とりまとめ-」(2003年3月10日)でも、その1年あまり後の「炉心シュラウド及び原子炉再循環系配管の健全性評 価について(案)-検討結果の整理-」(2004年6月15日)でも、よく解らないので今後の究 明課題としているのは理にかなっています。
2.原発の配管の減肉は検査で予知できるか
2004年8月の関電美浜原発3号炉の配管破裂事故は、巨大で複雑なシステムである原発を「安全の確保」を保証して管理、運転できるだろうかという深刻で本質的な疑問を抱かせました。
1986年12月、「経年数」が13年の米国のサリー原発2号炉で給水系配管破断事故が起こり、4人の死者が出ました。この事故を重大と受けとめた日本原子力研究所は、事故を解析・評価し、日本原子力学会誌(29巻、11号、1986年)で次のように述べています。
「わが国におけるPWRプラント2次系配管では、水の流速が局所的に大きくなる箇所は、複雑な配管形状を避けて、できるだけ直管にして流れを滑らかにしている。また、局所的に流速が上昇するオリフィスや絞りでは、キャビテーションを生じないような構造としている。」
そして、「肉厚が必要最小値に達する前に炭素鋼管からステンレス鋼管に取り替えている」、「同種の事故が発生しないように、今後なお一層配管系の検査・保守を徹底していくことが望まれる。」とまとめています。これを読むと、日本の原発ではサリ-のような事故は起こらないと思うでしょう。しかし、美浜事故は起こりました。しかもサリ-事故とよく似ています。
2000年5月、関電は美浜3号炉に関する「定期安全レビュー 報告書」を監督官庁の通産省資源エネルギー庁に提出しました。それを作成する過程では、通産省原子力発電技術顧問11人から意見を聴取しています。この11人は日本の代表的な原子力の専門家たちです。その結果、通産省資源エネルギー庁は「妥当なものと認める」として、その「定期安全レビュー 報告書」を承認しました。当然、サリー原発事故はふまえており、「我が国では徹底した水質管理が行なわれているため、サリー発電所2号機のような事象は発生しないと考えられたが、念のため」云々とあります。それでも美浜事故は起こりました。
上に述べたことから、配管の減肉のすすみぐあいを正しく管理するのがいかに困難かが推察できます。現象としては、エロ-ジョン/コロ-ジョンによると考えられますが、きちんとした機序が解りません。配管の内面が遭遇している状況の把握ができていないからです。できていないと言うより、できないのです。科学的に曖昧なために技術的な見通しが立たないと言うべきでしょう。
この事情は次の発言からも判ります。
国が設置した「美浜発電所3号機2次系配管破損事故調査委員会」の第一回会合で(2004年8月11日)、一人の委員が、
「何が起きたかという原因を究明して、できたら減肉量の評価、そういうことが確立できたら非常にいいと思うんですが、ほんとうの話は、我々山ほど経験しているわけです。それで、局部減肉の予測はできないというのが結論です。全体減肉はかなり予測できるんです。(中略)多分、それは応力腐食割れの発生が予測できないのとほとんど同じ程度の問題だと思います。」
と発言しています。正直な発言だと思います。したがって、徹底的な検査が必要になります。減肉の起こりそうな部位を観ているだけではだめだということです。
美浜原発3号炉の配管破裂は炭素鋼に特徴的なもの、という見方があります。しかし、そうとは言えない例があります。女川原発2号炉の給水加熱器ベント管で、1996年、「経年数」1年で見つかった減肉は対策材(炭素鋼よりも減肉に強い低合金鋼)で起こりました。公称肉厚6.6ミリが3.2ミリに減っている部位もありました。
さらに、2004年12月から05年2月にかけて、東電福島第一原発4号炉、柏崎刈羽1号炉、中国電力島根2号炉で配管の減肉による貫通が見つかりました。
原発配管の減肉の予知は無理なのだと言わざるをえません。
3.アンダークラッド・クラッキング(UCC)
典型的な原子炉圧力容器の胴と下鏡(シタカガミ)の内表面は厚さ1~2インチのステンレス鋼で覆われています。ステンレス鋼はさびを防ぐために、低合金鋼で出来ている圧力容器本体に溶接されています。溶着した部分はクラッド(内張り、肉盛り)と呼ばれます。ところが、偶然、ヨ-ロッパでクラッドの下の圧力容器本体に多数の細長いクラック(ひび割れ)が見つかりました。1970年のことで、これがUCC問題の発端です。
その時点で、すでにステンレス・クラッドをほどこされた原子炉圧力容器は日本に4基ありました。疑わしいものがさらに3基、ほかにもあるかもしれません(原発老朽化研究会編 『老朽化がすすむ原発』、原子力資料情報室、近刊、および、田中三彦 「世界」、2004年1月号)。日本の電力会社だけでなく、監督官庁がこのことを認識したのは、ずっと後になって1980年台なかばだったと推察されます。
さて、このような原発を高経年化対策で寿命延長して大丈夫でしょうか。ステンレス・クラッドをはがしてみるわけにはゆかないので、チェックの仕様がありません。経年化したことによって、初めから存在していたかもしれないクラックが成長しているおそれがあります。
法的寿命が40年のアメリカの原発の場合、寿命の延長を望むときは、電力会社はNRCの非常に厳しい条件に合格しなければなりません。マクガイア原発1、2号炉、カトーバ原発1、2号炉などの例を見るとそれがよく分かります。
UCC問題はBWRでも、PWRでも共通していますが、「加圧熱衝撃」というPWRに特有な事象を考慮すると、PWRのほうがより心配です。中性子照射脆化が大きいPWRに加圧熱衝撃事象が起きたならば、脆性破壊がUCCを起点に一気に進行するおそれがあります。保安院の審査を通った美浜1号炉の高経年化対策の「技術報告書」には、適切な入熱条件で溶接を実施したので、き裂の発生する可能性は極めて小さく、高経年化対策上有意な事象ではない、というだけです。何の具体的な根拠もあげていません。科学的とはとうてい言えません。どうして技術的な見通しがあるというのでしょうか。
このように考えてくると、「高経年化対策」はきわめて危険だと言わざるを得ません。「定期検査の柔軟化」、「出力増強」はさらに危険性を高めます。「安全の確保」がまず第一に大切ならば、老朽化した原発は廃炉にすべきです。
添付2) 原子力発電に未来はあるのか?
― 原子力発電経済性評価報告 (速報版) ―
原子力資料情報室
勝田忠広
当室経済性評価グループは、原子力発電の経済性を評価した。本速報は、その評価結果を報告するものである。
評価結果
○原子力発電コストの優位性は虚構
原子力、LNG、石炭、石油などの電源別に発電コストを試算した。主要な評価結果の第1は、図1である。原子力発電コストは、5.7円/kWh、LNGは、4.9円/kWh、石炭は、4.9円/kWhという結果を得た。LNG火力発電所や石炭火力発電所に比べて、1円/kWh程度高いことがわかった。
ここで発電コストは、発電所を稼動した全期間(生涯)に得られた発電量 (メリット)とそれに要した費用から算出した。各タイプの発電所が、同じ稼動期間(生涯)に、メリット当たりどれだけの費用がかかるかを示す尺度となっている。この評価では、どのタイプの発電所も、生涯40年稼動するとした。
100万キロワット級の発電所では、設備利用率を80%とすると、1年間に約60~70億kWhの電力を発電できるので、発電単価が1円/kWh高いことは、年間約60~70億円の経費高になり、生涯期間に直すと、2400~2800億円の経費増大となる。
日本の原子力発電の総設備量は約4,600万kWになっているので、100万キロワット級の発電所換算で46基になるから、これから発生する建替え需要発生に当たり、原子力でなくLNG火力発電所などで建替えると、日本全体では年間2,760~3,200億円の経費節減になる。
今回の評価から、私達は次のように考える。
・原子力発電を選択することが、国民経済的には、大いなる「無駄づかい」であることを、本評価結果は示しているといえる。原子力発電は基幹電源となり得ない。
・放射性廃棄物が無く二酸化炭素排出の低い、低エネルギー社会の実現に向けたエネルギー政策に転換を行うべきである。
○従来の評価事例との比較
今回の評価の意義を明確にするために、最近、総合資源エネルギー調査会原子力部会と同電気事業分科会が発表した評価事例(前者:1999年12月;後者:2004年12月)と比較する。図2は、総合資源エネルギー調査会原子力部会と同電気事業分科会の評価結果である。
総合資源エネルギー調査会原子力部会と同電気事業分科会の評価は、原子力がLNG火力や石炭火力より安いというものであった。
これに対して、今回の評価は、原子力は、LNG火力や石炭火力より高く、その差は決定的であるというものである。
このように結論が逆転するような決定的な違いは、どこから発生したかを検証しておかなくてはならない。結論から言うと、建設単価と化石燃料の価格上昇率と人件費の上昇率をどのように想定するかの違いが大きく関与していると考えられる。
本評価に当たって、計算式やパラメータは同じものを使う手法をとったが、発電所の建設単価と、化石燃料や人件費の基準時点価格およびその上昇率については、異なる想定に立った。本評価による試算結果は、長期の傾向をベースに想定したのに対して、総合資源エネルギー調査会による結果は、各評価時点で乱高下する価格動向をそのままベースにしている。40年先の価格傾向を想定するのであるから、過去の長期にわたる傾向をベースにしなくてはならないことは自明といえよう。本評価における想定の妥当性を裏付けるところである。
○償却期間とコスト評価期間
本評価や総合資源エネルギー調査会原子力部会と同電気事業分科会の評価において採用した方法(これらを「総合資源エネルギー調査会の評価方法」と呼ぶ)は、過去の評価(これらを「従来の評価方法」と呼ぶ)と比較して決定的に異なるところがある。「総合資源エネルギー調査会の評価方法」では、40年を発電設備の稼動期間と考え、その期間(生涯期間)でのコストを考える。それに対して「従来の評価方法」では、法定の償却期間でのコストを考えてきた。原子力所と火力発所の法定の償却期は、それぞれ、16年と15年である。
表1 コスト評価期間と電源別発電コスト
(円/kWh)
今回の評価 電気事業分科会評価 原子力部会評価
原子力 LNG 石炭 原子力 LNG 石炭 原子力 LNG 石炭
稼動期間4 0年のコスト 5.7 4.9 4.9 5.3 6.2 5.7 5.9 6.4 6.6
法定償却期間コスト 7.3 5.6 6.1 7.4 7.2 7.4 7.7 7.0 8.2
評価結果は、表1のようになる。表1の評価結果からは、
(1) 法定償却期ベースでのコストを見ると、いずれも、40年の発電設備稼動期間ベースでのコストより高くなる。
(2) また法定償却期ベースでは、原子力発電コストは、火力発電コストより高い。
などのことが読み取れる。
(1)は、発電施設の固定費が変動費に比べ圧倒的に大きい比率を占める特性から当然の帰結である。すなわち固定費部分が圧倒的に大きい比率を占めるため、稼働期間の取り方によって試算結果は大幅に変動することとなる。短い期間(償却期間)では、原子力の経済的優位性は、全く成立しないが、長い期間(稼働期間40年)にすることで、その評価を逆転させさせることができる。
原子力発電は、各種電源の中でも、固定費比率が一番大きいので、(2)も、(1)と同様に、当然の帰結である。
この自明な2項は、「総合資源エネルギー調査会原子力部会と同電気事業分科会の評価」のいうように『原子力発電の経済性での優位性』が成立しているとしても、それは虚構の上に浮かぶ幻であるということを指し示しているのである。
現在の市場経済において、40年を経て、漸く投資回収ができるようなプロジェクトに誰が投資するかを考えれば明らかである。企業は、3~5年という短い期間に回収できるようなプロジェクトでなくては、投資対象にはならない。回収に15~16年もかかることを前提としたプロジェクトが市場経済における投資対象たりうることはありえない。それにも拘わらず、電力事業において実施されてきたのは、規制に守られ、総括原価方式の料金体制に守られていたからである。
自由化された電力市場において『40年での投資回収』など無意味で、非現実的な経済行動としか言いようが無い。電力自由化で総括原価方式の料金体制という『後ろ盾』が無くなった今、電力事業は、総括原価方式なしで、15~16年で回収できるような事業展開を迫られている。
したがって「総合資源エネルギー調査会原子力部会と同電気事業分科会の評価」のいう『原子力発電の経済性での優位性』は、言葉としては、存在しても、現実的で、自律的発展を促されている経済行動の成立要件のもとでは、成立し得ない。このような原子力発電は、自由化された電力市場における電力事業にとって、選択の余地がないプロジェクトであるといえる。
○国民の運命を託せるプロジェクトか
原子力発電事業には、実用化から半世紀を経ようとしているにもかかわらず、実務的・制度的に不確定なまま、放置されている部分が多く含まれている。とくに再処理事業、放射性廃棄物の処理処分事業などについては、大きい不確定要因が内在している。
不確定要因に関わる部分については、総合資源エネルギー調査会原子力部会と同電気事業分科会の評価においても、本評価においても、原子力にとって優位、かつ、楽天的な想定をベースに評価している。不確定要因が最悪な方向に振れた場合には、投資回収が不能になるケースが発生するだけでなく、原子力発電総体が回収不能状態に陥る危険すら内包している。
巷には「官民の役割分担の明確化」と言う議論があり、「原子力は、国家政策で進めてきたのであるから、民間の責任は有限にし、最終的には国が責任を負うべきである」という声をよく聞く。これは、民間では負いきれない危険(総崩れ的な回収不能状態)を予感しているから発せられる本音と聞くことができる。
われわれは、国民の受け取るメリット(国民経済的メリット)がなく、博打のような、危険極まりないプロジェクトに国民を誘導する試みから一刻も早く脱却すべきである。
原子力発電は、国民経済的視点から見ても、国家プロジェクトとしての視点からしても、「無用の長物」そのものである。
われわれの評価結果は、原子力長期計画においても脱原子力の方針を明確にするとともに、それに向けた対応・対策の構築の取り掛かるべき段階にあることを示唆している。
※注
○ 試算手法
OECD/NEAによる現在価値換算法を用いた。この手法は、原子力部会や電気事業連合会によるコスト試算に用いられたものと同様で、運転年数に渡る全経費を全発電量で除した均等化コストを求めるものである。
○ 試算条件(一部)
今回の試算 電気事業連合会 原子力部会
原子力 LNG 石炭 原子力 LNG 石炭 原子力 LNG 石炭
出力 [万kW] 130 150 90 130 150 90 130 150 90
建設単価 [円/kW] 28.6 15.3 22.4 27.9 16.4 27.2 29.1 20.3 30.3
燃料価格上昇率 [%] 0.00 0.30 0.50 0.00 0.27 0.77 0.00 1.82 0.88
・建設単価:1990年~2003年度の有価証券報告書総覧の工事計画に記載されている発電所について、最大出力と総工事費から各々の建設単価を導出し、それを単純平均してモデルプラントの建設単価とした。
・燃料価格:IEA World Energy Outlook 2004等を使用。
○核燃料サイクルコスト
試算方法、及び試算条件について、電気事業連合会や原子力部会と同様の手法と値を使用。
○ 法定耐用年数の場合
法定耐用年数(原子力:16年、LNG・石炭:15年)の場合だと、原子力とLNG・石炭との価格の差はより大きくなり、原子力発電の経済性はさらに劣ることになる。
今回の試算 電気事業連合会 原子力部会
原子力 LNG 石炭 原子力 LNG 石炭 原子力 LNG 石炭
運転年数40年 [円/kWh] 5.7 4.9 4.9 5.3 6.2 5.7 5.9 6.4 6.6
法定耐用年数 [円/kWh] 7.3 5.6 6.1 7.4 7.2 7.4 7.7 7.0 8.2
○ その他
・今回示した試算結果は、今後、試算条件によって変化する可能性はある。しかし原子力発電が、従来、政府や産業界によって強調されていたように安くなることはほとんどない。
・詳細な報告書は現在作成中である。