原子力発電コストの試算結果について(速報版)

原子力発電コストの試算結果について(速報版)

2005年3月28日
原子力資料情報室

【表・グラフなどはPDF参照】

当室において、政府や産業界と同様の手法に基づき発電コスト比較を独自に行った。その結果、従来の見解と異なる重要な結果が得られたのでここで報告する。

・運転年数40年、設備利用率80%の場合。なお割引率は3%。
・電気事業分科会:『モデル試算による各電源の発電コスト比較』総合資源エネルギー調査会電気事業分科
会コスト等検討小委員会第8回、2003年12月.
・原子力部会:『原子力発電の経済性について』総合エネルギー調査会原子力部会第70回、1999年12月.

上記は原子力発電にとって有利な想定(稼働率80%、運転年数40年)であるが、従来の結果と異なり、LNGや石炭よりも高くなるという結果となった。なお1円/kWhの違いは約70億円の差を生じるので(100万kWの発電所1基で1年間運転、設備利用率80%の場合)、この差は非常に大きい。

今後の電力需要の低迷、電力自由化の中での競争を考慮すれば、初期投資の大きい原子力発電は新規電源になりにくい。さらに今回の試算結果や老朽化対策の問題、そして不透明なバックエンド事業を考慮すれば、長期に運転することの利点はない。また仮に温暖化対策として推進する場合でさえも、数多く存在する他の方法(運輸部門での対策、省エネなど)より高価である。

以上のことから、原子力資料情報室は次のように結論づける。

・原子力発電を選択することが、国民経済的には大いなる「無駄づかい」であることを本評価結果は示している。原子力発電は基幹電源となり得ない。
・放射性廃棄物が無く二酸化炭素排出の低い、低エネルギー社会の実現に向けたエネルギー政策に転換を行うべきである。

※注

○ 試算手法
OECD/NEAによる現在価値換算法を用いた。この手法は、原子力部会や電気事業分科会によるコスト試算に用いられたものと同様で、運転年数に渡る全経費を全発電量で除した均等化コストを求めるものである。

○ 試算条件(一部)

今回の試算 電気事業分科会 原子力部会
原子力 LNG 石炭 原子力 LNG 石炭 原子力 LNG 石炭
出力 [万kW] 130 150 90 130 150 90 130 150 90
建設単価 [円/kW] 28.6 15.3 22.4 27.9 16.4 27.2 29.1 20.3 30.3
燃料価格上昇率 [%] 0.00 0.30 0.50 0.00 0.27 0.77 0.00 1.82 0.88

・建設単価:1990年~2003年度の有価証券報告書総覧の工事計画に記載されている発電所について、最大出力と総工事費から各々の建設単価を導出し、それを単純平均してモデルプラントの建設単価とした。
・燃料価格:IEA World Energy Outlook 2004等を使用。
 
○核燃料サイクルコスト
試算方法、及び試算条件について、電気事業分科会や原子力部会と同様の手法と値を使用。

○ 法定耐用年数の場合
法定耐用年数(原子力:16年、LNG・石炭:15年)の場合だと、原子力とLNG・石炭との価格の差はより大きくなり、原子力発電の経済性はさらに劣ることになる。

今回の試算 電気事業分科会 原子力部会
原子力 LNG 石炭 原子力 LNG 石炭 原子力 LNG 石炭
運転年数40年 [円/kWh] 5.7 4.9 4.9 5.3 6.2 5.7 5.9 6.4 6.6
法定耐用年数 [円/kWh] 7.3 5.6 6.1 7.4 7.2 7.4 7.7 7.0 8.2

○ その他
・今回示した試算結果は、今後、試算条件によって変化する可能性はある。しかし原子力発電が、従来、政府や産業界によって強調されていたように安くなることはほとんどない。
・詳細な報告書は現在作成中である。