「京都議定書目標達成計画(案)」に関する意見募集への意見

「京都議定書目標達成計画(案)」に関する意見募集への意見

www.kantei.go.jp/jp/singi/ondanka/pc/050330keikaku.html

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伴英幸(原子力資料情報室)

 温室効果ガスの排出削減、吸収等に関する対策・施策の基本的考えに原子力発電の推進を着実に進めるとしているが、この基本的考えに反対し、以下の諸点を求める。

 原子力発電は12ページで言及されているように、「停止といった特殊な要因」が潜在的に存在する。そこで、原発建設にはバックアップ電源として他の電源の建設(例えば、火力発電)が伴なう。その結果、電力各社は需要を大幅に上回る設備容量を保有することになり、それによって電力各社は需要の増大を求めるようになる。
 さらに、夜間電力の需要もいっそうあおることにつながる。昼夜の電力需要の格差の平準化は設備容量の合理化をもたらす側面がある。しかし、原子力発電を推進することは、現状でも最低需要が原発の供給能力とぎりぎりか下回る状況では、需要の増大を図ることになる。電力各社が最近実施しているオール電化生活の推奨・宣伝は需要増をはかる典型的な動きだといえる。

 需要の増大は結果として二酸化炭素削減にはつながらない。また、オール電化住宅などによる需要の増大は電力化率の上昇を招く。電力化率の上昇は資源エネルギー庁も予測しているが、電力化率を高めることは省エネ策と逆行する。

 二酸化炭素削減を原発に依存することは、むしろ逆の結果を招くことになる恐れが高い。従って、原発が順次廃止されていくことを前提にした根本的な対策が必要である。「温室効果ガスの排出削減、吸収等に関する対策・施策の基本的考え」の原単位の改善に重点を置いたアプローチに原子力の推進を含めず、省エネ策のいっそうの推進によるエネルギー消費の削減を第一の基本とし、再生可能性エネルギーを積極的に導入することをと第二の基本とする対策・施策を展開するべきだと考える。

 上記観点から、24ページおよび35・36ページの「原子力発電の着実な推進」を削除することを求めると同時に、基幹電源としての位置づけ、原子力発電への投資が確保されるための投資環境を整備する、核燃料サイクルの着実な実施に向けた諸支援といった項目を削除することを求める。

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勝田忠広(原子力資料情報室)

下記の理由により、温暖化対策として原子力発電を推進することに反対する。

1.原子力発電を重視することは、国が行うべき政策として大きなリスクを与える。

 原子力発電は他電源と違い、一つの炉でトラブルが発生すると、事故時の影響の大きさから同型の炉を一斉に停止して検査を行うことになる。例えば東京電力原発トラブル隠し事件、関西電力美浜3号死亡事故などでは、火力発電が緊急の代替電源として投入され、予定外の二酸化炭素排出を伴ってしまった。老朽化に伴うトラブルや閉鎖的な情報管理など、原子力発電に特有なこの状況はこれからもますます続くと思われる。このような観点から、原子力発電は供給安定性に優れているとはいえない。
 そして、固定的な運転しかできない原子力発電は、たとえ火力発電が上記の原子力発電と同様の事態に陥ったとしても、火力発電の代わりとして変動の大きい日負荷に対応した運転は、技術・安全・経済の面からできない。
つまり原子力発電に依存した電力需給構造は非常に不安定であり、原子力発電のシェアはむしろ低い構造を作るほうが、電力需給構造全体として供給安定性に優れているといえる。よって、国の政策として発電部門での温暖化対策を考えるのであれば、確実性の高い、電力需給全体を見通した効率的利用や需要削減などの対策が望ましい。始めから原子力発電を重視することは、不必要な二酸化炭素排出の対応に迫られるリスクを増加させる。もちろん、長期の寿命を持つ放射性廃棄物を発生させるという根本的な欠陥を持つことからも、温暖化対策として選択することは出来ない。

2.設備利用率の向上について

原子力設備利用率を85%から87?88%まで向上させると示されている。しかし平成16年の実績では68.9%であり、過去10年間の実績を見ても、平成10年の84.2%が最大である。また運転期間の平均日数の実績を見れば、もはや延長は限界にきていると思われる。さらなる延長は、原子炉運転中に作業者に定期点検の準備作業をさせて死亡させるという、美浜3号死亡事故のような問題を引き起こす。これは計画(案)に示される「安全確保を大前提に」という条件に根本的に反することになる。

3.「核燃料サイクル」の中での原子力発電は、さらに温暖化対策とはならない。

核燃料サイクルの一つとして原子力発電を位置づけるのであれば、核燃料についてフロントエンドからバックエンドまでのトータルでの二酸化炭素排出量を考慮する必要がある(原子力発電を準国産エネルギーとするのであれば特に)。この場合、ウラン燃料採掘や輸送だけでなく、稼動もしていない再処理工場、実現の見通しのない高速増殖炉、そして処分地の決まらない高レベル放射性廃棄物の処分なども含めた議論を行うことになる。しかしこのような評価はまだ行われておらず、仮に評価したとしても、その温暖化対策の効果はないだろう。即ち「核燃料サイクル」という視点を入れれば、原子力発電はさらに温暖化対策とはならないことになる。原子力発電と同様、核燃料サイクルという言葉もはずすべきである。