青森県へプルトニウム被ばく事故とT字継手の漏えい事故に関して要請書提出

青森県へプルトニウム被ばく事故とT字継手の漏えい事故に関して要請書提出

■2006年6月2日に、原子力資料情報室は青森県に対して、下記内容の要請を行った。

要請先
青森県エネルギー総合対策局
総務企画グループリーダー 七戸信行 総括副参事
原子力グループリーダー 青木一哉 総括副参事(原子力安全保安院から出向:元核燃料サイクル規制課企画班長)

■「要請書」

青森県知事
三村申吾 殿

要請書

原子力資料情報室
2006年6月2日

 六ヶ所再処理工場では、3月31日にアクティブ試験が開始されて以来、約2ヶ月の短期間にすでに数々の事故・トラブルが発生しています。その主なものは以下のとおりです。

4月11日 溶解槽セル内の洗浄水の漏えい事故
4月23日 分離建屋と精製建屋の間の洞道内での放射性物質の漏えい
5月3日 精製建屋かくはん機起動モーターのトラブル
5月6日 精製建屋プルトニウム濃縮ポンプの故障
5月17日 精製建屋配管T字継手からの硝酸ウラナス溶液漏えい事故
5月23日 高レベル廃液ガラス固化建屋セル内のクレーンフックの落下事故
5月25日 分析建屋でプルトニウム被ばく事故

 これらの事故・トラブルの原因や日本原燃の対応には、いままで行われてきた化学試験、ウラン試験や安全性総点検で確認されたはずの工場の「安全性」に大きな疑問を抱かせるものが多数あります。私たち原子力資料情報室は青森県に対して、日本原燃に対して六ヶ所再処理工場アクティブ試験を中止し、ウラン試験結果の再検証、施設の安全性の再点検を求めるよう、要請いたします。

【分析建屋のプルトニウム被ばく事故について】

 分析建屋のプルトニウム被ばく事故については、現在事故原因が調査中となっていますが、作業マニュアルがマスクの着用を義務付けていませんでした。その理由について日本原燃は、「被ばくの危険性がないので義務づけなかった」と説明しています。これは明らかに六ヶ所工場の「作業マニュアル」の重大な欠陥であり、日本原燃の「安全意識」のお粗末な実態を示すものです。その意味でも、今回の事故は明らかに「人災」です。さらに作業員が分析建屋から退出の際行った測定では、被ばくや汚染が見逃されています。建屋出入りの際の測定システムの不備・欠陥、さらに作業員への測定方法や放射線教育が不十分だった可能性が考えられます。六ヶ所再処理工場が先例として技術導入を行い、作業員の教育・訓練を行った東海再処理工場の試験運転においても、手袋・マスクを着用しなかったためにプルトニウムによる汚染、内部被ばく事故は多発していました。先行施設のこれらの教訓を生かしていれば今回のプルトニウム被ばく事故は防げたものです。

 日本原燃はホームページ上で、今回のプルトニウム内部被ばくについて、「胸部レントゲン撮影により被ばくする線量の約5分の1であり、被ばく歴に記録するレベル(記録レベル:2mSv)よりも十分低い」と述べています。これはプルトニウムの内部被ばくとレントゲン撮影による外部被ばくという、まったく性格の違うものを比べるという非科学的な議論です。明らかに事故の重大性を覆い隠そうとする意図的な情報です。プルトニウムは、地球上で最も毒性の強い元素です。微粒子状で人間の器官や肺の繊毛に沈着します。一度体内に取り込むと極めて排泄されにくい物質です。プルトニウム239は24100年という半減期なので、ほとんど生涯にわたって細胞内の遺伝子に放射線をあびせかけることになります。今回の事故は、プルトニウムという発ガン性など極めて毒性の強いプルトニウムを誤って吸い込んだ内部被ばく事故です。プルトニウムの出す放射線(アルファ線)は非常に強力なエネルギーを出すので、どんな微量でも内部被ばくした場合、遺伝子への破壊・損傷効果が確実にあります。被ばくした労働者への将来の健康上の影響は無視できないもので、今後の健康管理も重要な問題となります。しかし日本原燃は、被ばくした作業員への特別な健康管理等も考えておらず、プルトニウム被ばく事故の重大性を認識していません。

【精製建屋のT字継手からの硝酸ウラナス溶液漏えい事故について】

 漏えい事故を起こしたT字継手と同様のものがすでにウラン試験中の2005年7月に漏えい事故を起こしていました。『ウラン試験報告書(1)』にもあるように、この継手は材料製造の段階で不純物が混入した事実を日本原燃はすでにこの段階で認識していながら、他の同様の製造工程で製造された継手の交換を行わなかったのです。製品の仕様が硝酸に耐えられないことがウラン試験の段階で判明したのに、原燃の安全軽視の対応が再度同様の漏えい事故を発生したことは大きな問題です。「不適合等を早期に中抽出して改造等の対策を講じる」というウラン試験の目的を逸脱していることは明らかです。

 事故やトラブルを発見し、その問題を水平展開するという日本原燃の日頃の説明もこの事故によって実態を持っていないことが証明されました。今回漏えいを起こしたT字継手と同様の製造工程で生産された継手は精製建屋に58個、前処理建屋に1個、分離建屋に3個取り付けられています。ところが原燃は、精製建屋の39個の交換を行うとしています(1個はウラン試験時に交換済み)。取り付けられている部材の製品仕様が違っているものをそのままで放置するという対応は、今後さらに何らかの事故を起こす可能性を残す可能性があります。類似の事故・トラブルの再発を防ぐためのいわゆる水平展開がどのように行われたのか、さらに『ウラン試験報告書』では、今回の継手も含めて、「不適合等」が338件もありました。その結果が「処置済み」とされていても、これが施設の安全性を示すものでないことを今回の事故は明らかにしています。

 六ヶ所再処理工場の安全は、青森県民だけの問題ではありません。再処理工場の事故やトラブルが広い範囲の自然環境、農林水産業、そこに暮す人々の命や健康をおびやかすのです。私たち原子力資料情報室は青森県に、日本原燃に対して六ヶ所再処理工場アクティブ試験を中止し、ウラン試験結果の再検証、施設の安全性の再点検を求めるよう、再度要請いたします。

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【デーリー東北】
www.daily-tohoku.co.jp/kakunen/news2006/kn060603b.htm
【東奥日報】
www.toonippo.co.jp/kikaku/kakunen/new2006/0603_2.html
www.toonippo.co.jp/kikaku/kakunen/new2006/0603_1.html

安全協定に基づく定期報告書
六ヶ所再処理工場
www.jnfl.co.jp/daily-stat/common/safety-agreement.html

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