BWRの格納容器の過圧破損対策 柏崎刈羽6・7号炉で追加された「代替循環冷却系」について

BWRの格納容器の過圧破損対策
柏崎刈羽6・7号炉で追加された「代替循環冷却系」について

 

原子炉格納容器の過圧破損防止手段に関する規制基準の改正
原子力規制委員会は12月14日に、「実用発電用原子炉及びその付属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則(設置許可基準規則)」とその解釈、ならびに「実用発電用原子炉及びその附属施設の技術基準に関する規則の解釈(技術基準規則)」とその解釈などを改正した。
変更点は、原子炉格納容器の過圧破損を防止するための対策、使用済み燃料貯蔵槽(プールやピット)から発生する水蒸気による悪影響を防止するための対策、原子炉制御室の居住性を確保するための対策の3つである。これらは、柏崎刈羽原発6・7号炉の新基準適合性審査を通じて得られた技術的知見、として10月4日の原子力規制委員会の第41回の会合で技術基準に反映することを了承されていたものであり、10月19日から11月17日までの意見募集をへて、基準にもりこまれたものである。
変更されたもののうち、設置許可基準規則とその解釈における「原子炉格納容器の過圧破損を防止するための対策」に関する部分をぬきだして表にした。ゴチック体は今回変更された箇所である。
「炉心の著しい損傷が発生した場合において原子炉格納容器の過圧による破損を防止するため、原子炉格納容器バウンダリを維持しながら原子炉格納容器内の圧力及び温度を低下させるために必要な設備」として、BWRでは格納容器代替循環冷却系、PWRでは格納容器再循環ユニットを設置することを求めている。さらに、「原子炉格納容器内の圧力を大気に逃がすために必要な設備」(格納容器圧力逃がし装置、いわゆるフィルター・ベント装置)をすべてのBWRとアイスコンデンサ型格納容器のPWR(日本国内では大飯1・2号炉のみだが12月22日に廃止が決定された)に設置することを要求している。
柏崎刈羽6・7号炉でこの間ずっと審議され、6月16日の設置変更許可申請書の補正書に記載されている「代替循環冷却系」が、BWRで追加で求められることになった格納容器代替循環冷却系にあたる(柏崎刈羽6・7号炉の新基準適合性審査については、規制委員会による審議がおわり、審査書に対する意見募集が10月5日から11月3日までおこなわれ、現在は寄せられた意見への対応を準備中である)。
また、「実用発電用原子炉に係る発電用原子炉設置者の重大事故の発生及び拡大の防止に必要な措置を実施するために必要な技術的能力に係る審査基準(重大事故等技術的能力審査基準)」においては、格納容器代替循環冷却系または格納容器再循環ユニットが、格納容器圧力逃がし装置よりも優先して実施される手順となっていることを求めている。

柏崎刈羽6・7号炉の「代替循環冷却系」のしくみ

東京電力は柏崎刈羽6・7号炉で格納容器代替循環冷却系をサプレッション・プール水を循環させ除熱できる配管を新たに設置することで実現しようとしている。サプレッション・プール水の循環には復水移送ポンプを用いていて、サプレッション・プール水を原子炉圧力容器への注水または格納容器スプレイ・格納容器下部への注水をおこなう。大規模配管破断による冷却材喪失事故(大破断LOCA)となっている場合には、原子炉圧力容器へ注水された水は破断口から流出し格納容器内にスプレイされた水といっしょになって、サプレッション・プールへともどる。それ以外の場合には主蒸気逃し安全弁の排気管からサプレッション・プールにもどることになる。
格納容器の熱は残留熱除去系熱交換器をつうじて代替熱交換車(熱交換器ユニット車および大容量送水車)を用いて海に捨てられる(熱交換器の水源は海である)。残留熱除去系のポンプや緊急炉心冷却系(ECCS)は電源を失っていて機能を期待しないことになっている。復水移送ポンプの駆動電源としては、ガスタービン発電機ないし電源車を用意することになっている(図1の代替循環冷却系の系統イメージを参照)。


復水移送ポンプは廃棄物処理建屋内に設置されており、廃棄物処理建屋は、6・7号炉の原子炉建屋からはなれて、6号炉と7号炉のタービン建屋のあいだに建っている(図2)。代替循環冷却系は「原子炉格納容器バウンダリを維持」することが求められている設備であるが、原子炉格納容器の下部にあるサプレッション・プールから引き出されたプール水は原子炉建屋をとおりぬけ、いったん廃棄物処理建屋までいき、格納容器内にもどって注水される。まるで、事故後の福島第一原発で稼働している循環冷却装置のようである。格納容器にもどった水は、原子炉圧力容器が損傷しておらず水位の回復や炉心の冷却がみこめる場合には原子炉圧力容器内に注水され、原子炉圧力容器が溶融炉心により損傷している場合には格納容器内にスプレイされるか、圧力容器の下方に落下した溶融炉心に注水することが想定されている。強度や機能の面で、はたして代替循環冷却系というものが実現できるのか、簡単なイメージ図を見ているだけでも疑問がいくつもでてくる。


柏崎刈羽原発のニュースレター「ニュースアトム」によれば、このシステムは東京電力の社員が発案したものであり、特許を申請中とのことで、この設備に携わっている2人の社員のインタービュー記事を載せている。後付けの設備なので、新たな配管の設置にはかなりの困難があるものと推察する。記事によると、既存のポンプなどを使用して新しい配管を設置するにあたり、温度や放射線などの使用条件が従来のものを超えた場合の評価をおこなったところ、対象機器が多く、取り替えが必要なものも多かったため、関係箇所との調整に苦労したという。
東京電力が2015年5月に作成した記者説明会資料「代替循環冷却系について」によると、格納容器ベントを回避することで放出放射能量を低減(ひいては被曝の低減、とくに緊急対策要員に対する)させることを意識していたと思われる。当初、事故発生から25時間後に格納容器ベントすることを想定していたのが、ガスタービン発電機を起動するまでの時間を縮めるなど作業員の訓練を見込んで38時間後まで遅らせることができ、さらに、代替循環冷却系によってサプレッション・プール水を循環させ格納容器圧力の上昇をおさえることで格納容器ベントをしなくても事故の収束が可能になる、ことが期待されていることがわかる。
おなじ格納容器代替循環冷却系といっても原子炉ごとにかなり異なっている。志賀2号炉は柏崎刈羽6・7号炉と同じABWRだが、代替循環冷却系に相当する代替残留熱除去設備に使用する復水移送ポンプは原子炉建屋内に設置されている。代替循環冷却系の名の付く設備は各BWRでも設置を検討しており、女川2号炉(マークI型格納容器)では代替循環冷却系ポンプを原子炉建屋内に設置し、東海第二(マークII型格納容器)では2系統を原子炉建屋内に配備する計画が示されている。

代替循環冷却系が稼働する事故シナリオ
2017年6月16日に提出された柏崎刈羽6・7号炉の原子炉設置変更許可申請書の補正に記載されている代替循環冷却系の系統構成は次のようになっている:
代替循環冷却系
復水移送ポンプ
台数 2(予備1)
容量 約125m3/h/台
全揚程 約85m
残留熱除去系熱交換器
伝熱容量 約8.1MW
[可搬型重大事故等対処設備]
熱交換器ユニット(6号炉および7号炉共用)
大容量送水車(6号炉および7号炉共用)
東京電力の「重大事故等対処設備について 別添資料-2 復水補給系を用いた代替循環冷却の成立性」によると、残留熱除去系熱交換器と高圧炉心注水系配管をつなぐように新規の配管が追加で設置されるようである。重大事故時にはサプレッション・プール水が100度を超えることが予想されるため、上記の[可搬型重大事故等対処設備]である熱交換器ユニットと大容量送水車によって残留熱除去系熱交換器の冷却水を確保する、となっている。高温水を格納容器内にスプレイして格納容器内の圧力が上昇することをなるべく避けよう、ということである。
東京電力は変更申請の添付書類10において、格納容器破損モードにおける格納容器破損防止対策の有効性評価をおこなっている。その中の1つに「大破断LOCA+ECCS注水機能喪失+全交流動力電源喪失」の事故シナリオがある。
格納容器内で残留熱除去系の吸込配管が破断することを起因事故として、全交流動力電源喪失がつづいて起きた場合についてシビアアクシデント解析コードMAAPをつかって解析をおこなっている。代替循環冷却系をつかうケースと代替循環冷却系をつかわないで格納容器ベントをおこなうケースを評価しているが、ここでは代替循環冷却系をつかうケースについて簡単に紹介する:
1. 残留熱除去系の吸込配管が破断事故発生(大破断LOCA)
2. 緊急炉心冷却系が機能喪失
3. 全交流動力電源喪失発生(外部電源喪失および非常用ディーゼル発電機が機能喪失)
4. 約10分後 早期の電源回復不能と判断
5. 約0.3時間後 炉心損傷開始、第一ガスタービン発電機による非常用電源回復操作
6. 約0.4時間後 燃料被覆管温度1200度に到達、非常用ガス処理系運転
7. 約0.7時間後 燃料温度約2227度に到達、低圧代替注水系(復水移送ポンプ2台)の準備が完了
8. 70分後 低圧代替注水系による原子炉注水開始
9. 約2時間後 破断口まで水位回復(原子炉圧力容器の健全性確認)
10. 格納容器温度190度超過確認
11. 約2時間後 低圧代替注水系による原子炉注水停止し、代替格納容器スプレイ系によるドライウェルスプレイを開始
12. 22.5時間後 代替循環冷却系運転開始(復水移送ポンプ起動)
13. 格納容器内の圧力降下
14. 代替循環冷却系による格納容器冷却により格納容器内の圧力が105kPa[gage]以下になったことを確認後、可燃ガス濃度制御系を起動し水素濃度を制御
この結果、原子炉格納容器バウンダリにかかる圧力の最大値は約0.60MPa[gage](限界圧力は0.62MPa[gage])、最高温度は約165度(限界温度200度)となり、格納容器ベントをおこなわなくとも、原子炉格納容器が過圧および過圧による破損をしない、と判断された(図3)。


また、原子炉建屋内での放射性物質の減衰や沈着を考慮しないで大気中に放出するとした場合、Cs-137の漏えい量は7日間で15TBq(兆ベクレル)に達する。代替循環冷却系をつかわない場合にはCs-137の漏えい量は7日間で16TBqと計算された。基準である100TBqをクリアしているが、100TBqのCs-137の放出はけっして少ない値ではないことに注意しておきたい。筆者がおこなった拡散計算では、放出源から風下1kmの地点で1年間に200ミリSv、6kmの地点で12ミリSv、10kmの地点でも5.5ミリSvの被曝をもたらす結果を得ている。

「代替循環冷却系」は役に立つのか?
代替循環冷却系は役に立つことが期待できるのだろうか。上の結果からみると、フィルター・ベント装置と同等の働きをしているともみえるが、実際には事故進展のシナリオに全面的に助けられているのではないか。
いったんは全交流動力電源を喪失しているが、ガスタービン発電機が起動し非常用電源が回復しているし、それによって低圧代替注水系と代替格納容器スプレイ系が働きつづけていた。代替循環冷却系が稼働しはじめたのは事故発生から約22.5時間もあとのことだ。それまでにすでに決着していただけなのではないか。
直流電源の喪失による監視機能喪失のようなことが想定されていないのも不十分な点であろう。代替循環冷却系の成立には、可搬式の熱交換器ユニットや大容量送水車、ガスタービン発電機、ポンプ類がすべて働き、配管や熱交換器も健全である必要があるが、それらを暗黙のうちに前提にしてしまっている。残留熱除去系配管が破断し、交流電源が失われ、ECCSが機能喪失しているときに、無事でいられるというには相当な根拠がいる。
東京電力が示すことができたのは、代替循環冷却系が稼働して役に立つ事故シナリオが存在する、ということだけなのではないか。

(上澤千尋)

■おもな参考資料
東京電力、【記者説明会資料】代替循環冷却系について http://www.tepco.co.jp/kk-np/data/publication/pdf/2015/27052702.pdf
東京電力、柏崎刈羽原子力発電所6号及び7号炉の設置変更許可申請の補正書、2017年06月16日
www.nsr.go.jp/disclosure/law/BWR/00000270.html
東京電力、新規制基準適合性審査の進め方に係る意見交換(柏崎刈羽6、7号機(150))(その6)、2017年06月16日
資料19-6、重大事故等対処設備について 別添資料-2 復水補給系を用いた代替循環冷却の成立性ほか https://www.nsr.go.jp/data/000195862.pdf

原子力規制委員会、第41回配付資料、2017年10月4日
資料1 東京電力ホールディングス株式会社柏崎刈羽原子力発電所6号炉及び7号炉の発電用原子炉設置変更許可申請書に関する審査書案に対する意見募集等について(案) http://www.nsr.go.jp/data/000205300.pdf
原子力規制委員会、第50回配付資料、2017年11月22日 資料4 原子力発電所の新規制基準適合性審査の状況について http://www.nsr.go.jp/data/000210450.pdf
東京電力、ニュースアトム定例号(12月号)、12月7日発行 http://www.tepco.co.jp/kk-np/pr/newsatom/pdf/2017/20171207n.pdf

原子力規制委員会、実用発電用原子炉及びその附属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則及び実用発電用原子炉及びその附属施設の技術基準に関する規則の一部を改正する規則、2017年12月14日 http://www.nsr.go.jp/data/000213295.pdf
原子力規制委員会、実用発電用原子炉及びその附属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則の解釈、2017年12月14日 http://www.nsr.go.jp/data/000187185.pdf
原子力規制委員会、実用発電用原子炉及びその附属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則の解釈等の一部改正について、2017年12月14日
www.nsr.go.jp/data/000213298.pdf

原子力規制委員会、実用発電用原子炉に係る炉心損傷防止対策及び格納容器破損防止対策の有効性評価に関する審査ガイドの一部改正について、2017年12月14日
www.nsr.go.jp/data/000213307.pdf
原子力規制委員会、実用発電用原子炉に係る炉心損傷防止対策及び格納容器破損防止対策の有効性評価に関する審査ガイド、
2017年12月14日
www.nsr.go.jp/data/000213306.pdf