原子力長計策定会議意見書(第11回)
長計策定会議意見書(11)
2004年11月1日
原子力資料情報室 伴英幸
私が意見書で提出した評価に対して事務局から回答が示されました(暫定版)。ここでは、それを踏まえて、その中の主な点について再反論をして、路線選択に対する意見を提出します。
I 意見に対する事務局回答に対して、
1. 六ヶ所再処理工場について、回答は、稼動がうまくいかず破綻した場合のリスクを議論するべきであるとの意見に対する直接の回答になっていません。また、破綻時の責任の所在に関しても言及されていません。
再処理は義務か否か、六ヶ所再処理工場は「義務」によって建設されているものなのか否かを明確にしてください。
2. 六ヶ所再処理工場で抽出されたプルトニウムの利用計画の不透明性に対する回答では、再処理は需要に応じて実施されるとしています。2003年8月の原子力委員会決定に基づきながら、さらに一歩踏み込んだ回答と理解しています。委員会決定の主旨、そして、98年公表のプルサーマル計画が予定通りに進まないのではないかとの指摘、さらに、いま核燃料サイクルの是非を議論していることなどを考えると、原子力委員会は電気事業者に六ヶ所再処理工場から抽出されるプルトニウムの利用目的を公表させるべきだと考えます。また、電気事業者も積極的に利用計画を公表するべきだと考えます。
3. 前回提出した長計策定会議意見書(10)におけるExternEに対する記述(10万年評価では割引率0%で行なうことで再処理による核分裂生成物の環境放出を意図的に低く扱っている)は誤解でした。
4. 直接処分ではクリプトン-85やトリチウムといった半減期の比較的短い放射性物質の環境放出が避けられるのに対して、再処理では環境へ放出されます。そこでは、このことを問題にしたかったのです。クリプトンに関する回答では、約60km離れた気象研究所(つくば市)での測定値でもって、それが基準値以下であるのでまったく問題ないとの判断を示していますが、これは不適当だと考えます。周辺監視区域外での濃度限度を60kmも離れた地点で評価しても意味がありません。むしろ東海再処理工場の周辺監視区域外周辺で濃度の一番高いところで評価するべきです。
六ヶ所再処理工場の周辺ではクリプトン-85の法令に基づく規制値(100,000Bq/m3)を一時的に超える地域があるのではないかと危惧しています。六ヶ所再処理工場からのクリプトン-85の年間放出規制値は330,000TBq(3.3×10^17Bq) です。99年のラ・アーグ再処理工場の放出実績は300,000TBqでした。同工場では、せん断後の大気放出は30分間隔で行なわれるそうです。1998年11月にグリーンピースが同再処理工場の主排気塔から1km、上空60m~120mの大気サンプルを採取して測定したところ、クリプトン-85の濃度は90,000Bq/m3を超える結果でした。98年の放出実績は分かりませんが、第9回策定会議資料第5号によれば、再処理量がほとんど変わらないようですので、大気放出量もそれほど変わらないと推定します。また、フランスの放射線防護原子力安全研究所(IPSN)が1997年~1998年にかけて実施した14回の実験では、30GMq/secの放出条件で、風下地域の地表において、クリプトンのプルームが通過する時間を30分として、その平均濃度を測定したところ、最大で260,000Bq/m3の測定結果が得られています( 「六ヶ所核燃料サイクル施設周辺の環境放射線調査報告書:再処理工場運転開始前-クリプトン-85」CRIIRAD報告書NO04-28、グリーンピース委託研究 2004年)。使用済み燃料1トンに含まれるクリプトン-85の量は400TBq(4×10^14Bq)、六ヶ所再処理工場では一日最大4.5トンの処理を行ないます。気象条件や地形などの違いがあり一概に同じに扱うことはできないものの、フランスの結果からは、風下地域では、一時的に規制値を超える場所があると推察できます。
5. 安全の確保について(これは、論点整理への意見でもあります)
「リスクが加わる」と表現されましたので、考慮すべき事項および論点整理に明記してください。
6. 環境適合性について(これは、論点整理への意見でもあります)
再処理することにより、低レベル廃棄物などを含めた放射性廃棄物の量(体積)が直接処分の場合の数倍に増えます。施設の解体までを含めると、放射能で汚染された廃棄物の量はさらに増えます。放射性廃棄物の量が増えるのですから、「循環型社会の目標に対する適合性が高い」とはいえません。使用済み燃料からウランやプルトニウムを取り除くのですから、使用済み燃料と比較すれば、体積や処分場面積が少ないのはある意味で当然です。しかし、環境適合性の観点からは、TRU廃棄物や回収ウラン、低レベル放射性廃棄物など含めた総量で見る必要があると考えます。
7. 核不拡散性について(これは、論点整理への意見でもあります)
ここでは核テロに言及し、厳格な保障措置・核物質防護措置を講じることで防ぐことができるとしていますが、これで確実に防ぐことができるのか、疑問があります。さらに、ここでは核施設へ攻撃などが考慮されていません。この点は安全の確保にも関係してくる問題でもあります。具体的にどのような防護策が講じられているのか、それは十分な対策かを厳しく検討するべきだと考えます。
8. 技術的成立性について(これは、論点整理への意見でもあります)
大規模な再処理実績や軽水炉MOX燃料製造工場などの諸実績がないことは事実であり、それゆえ技術的課題も多いと考えています。第8回資料第5号で示された日本の技術成熟度の評価は計画中MOX燃料工場も「実績等」として成熟度の中に入れている点や、実証試験を行なっておらず小数体試験のみの実績を実用段階と評価する(ふげんでの実績はそのまま使えないと考えています)など、大変甘いといわざるを得ません。
なお、直接処分に関しては、「未検討」とか「十分な知見が得られてない」ことが強調されていますが、これは、直接処分研究の道を閉ざしてきた結果です(99年にも国へ提案しましたが、直接処分に関する研究は当然行なわれるべきであり、早急に着手されるべきだと考えます)。
地層処分に関するこれまでの研究で、直接処分に応用できる部分とできない部分を明確に示すべきことを以前に書きましたが、この作業が評価上は必要だと考えます。
9. 社会的受容性への回答の中に、原子力発電に対する社会の不信感についての根拠が不明と記述していますが、その根拠は<1>前回長計に寄せられた意見(第1回発言メモ)<2>国はブルドーザーのように原子力政策を進めて来るとの指摘した福島県知事の発言(福島県エネルギー政策検討会の中間とりまとめ)<3>平山征夫原子力政策への国民的合意形成はその後もほとんど図られていないとの発言(ご意見を聞く会)<4>一昨年の東電の不正事件<5>美浜3号炉での復水管破断事故などなど、数え上げれば枚挙に暇がありません。
II 論点整理について
これまで発言してきた内容と上記Iの意見から、シナリオ間評価を事務局案でまとめることに反対です。再処理によって、日本のウラン輸入量を1割程度節約すること(再処理が計画通りの実績を上げると仮定して)にはなると思いますが、再処理によって日常的な放射性物質の環境放出、放射性廃棄物の量の増大、原子力施設への攻撃による放射能汚染などなどの安全上の懸念、核拡散の懸念、再処理による費用負担の増大などを考えると、ウラン輸入量の節約以外に有利な点は見出せません。なお、核燃料サイクルの路線選択上の問題で、エネルギーセキュリティという用語を使うことは適切ではないと思います。あくまでもウラン輸入量の節約です。また、繰り返しますが、政策変更に伴う費用を経済性評価に加えることも適切ではありません。六ヶ所再処理工場を廃止することにかかる費用はあくまでも六ヶ所再処理工場の問題であって、将来にわたる路線選択の問題ではないからです。
伴は、再処理路線をベースとする第1案に反対し、直接処分路線をベースとする第2案を支持します。ただし、第2案の原子力発電に関する記述は議論していませんので、この部分の判断、例えば、基幹電源としての位置づけや原子力発電の建設といった表現までを含めての支持ではありません。
核燃料サイクルの見直し作業は、サイクル路線に対する多くの反対意見を背景として行なわれていると理解していますが、現行路線の維持(第1案)で、核燃料サイクルに対する「国民的合意」が得られるとはとうてい考えられません。