廃炉時代の新たな幕開けに 新年早々偏見御免

廃炉時代の新たな幕開けに 新年早々偏見御免

「エネルギー基本計画」の見直しが行なわれている。現行計画が、すったもんだの末、2014年4月にようやく閣議決定された時、本『通信』5月号にこう書いた。
「批判にすら値しない『計画』だが、原子力委員会が『原子力政策大綱』をつくらなくなったことから、いまや唯一の原子力政策となってしまっているのが情けない。実質的には経済産業省に全権委任されたと言ってよく、これまで以上に原発を推進しやすい体制となった。とはいえ、脱原発に向かう流れは変えられず、核燃料サイクルの破綻を取り繕うことも不可能だ」。
そのことは、ますますはっきりしてきた。

新増設明記を求める声
にもかかわらず現行計画の見直しに向けて、日本経済団体連合会などからは「長期的視点で原発のリプレース・新増設の明記を」の声も出ている。現行計画を受けて2015年7月に決定された、2030年度の電源の22~20%を原子力でという「エネルギーミックス」の実現は、再稼働と40年超運転を最大限に強行しないと難しい。さらに「2030年度以降も原子力を一定程度、活用していくためには、建設中プラントの工事再開、リプレース・新増設等」が必要で、今から「国が態度を明確に」すべきというわけだ。
とはいえ、再稼働も40年超運転も新増設も、いずれにせよ容易ではない。電力会社の立場で考えてみればよい。高額の新規制基準対応費用あるいは新増設(どこに?)費用を何とか捻出して強行したところで、いつ事故で止まるか(大事故に限らず)、裁判所に止められるか、わからないのである。
40年超運転の許可を得た美浜原発3号機と高浜原発1、2号機の3基にしても、できれば廃止したかったに違いない。美浜原発3号機について、原発推進の産経ニュースまでもが「美浜をあきらめるのが最もリスクの低い選択だと思う」と書いていた(2015年11月12日)。関西電力は、泣く泣く寿命延長に踏み出したのだ。延長できる制度があるのに、どの電力会社も延長を申請しないのはマズイという政治判断から、東京電力が脱落して電力業界の頂点に立つ会社として、自社の利益を犠牲にせざるをえなかったのか。産経ニュースは、原子力規制委員会が時間切れで審査を打ち切って許可が出ないことを、関西電力は期待したのだろうと推測していた。
電力会社の本音に危機意識を募らせていた故・澤昭裕国際環境経済研究所前所長が、『Wedge』2016年3月号に謂わば遺言を残している。「福島事故によって『原子力アレルギー』を最も強くしたのは、実はリスク評価や負担の経験に乏しい電力会社の経営層かもしれない。いくつかの会社にとっては、『原子力はせいぜい、既設発電所をギリギリまで温存して、コストを回収していくところまで。リプレース(建て替え)や新増設の投資など想像がつかない』というのが、隠された本音なのではないか」。
また、強行しようにも世論の壁は厚い。新増設となれば、なおのことだ。北陸電力の金井豊社長が2016年12月28日付福井新聞で「東日本大震災後の5年半、ほとんど原発なしでやってきたせいもあるかもしれないが、原発は必要ないと考える人が多くなっているように思う」と語っていたように、安全神話も必要神話も崩れているのである。

「社会的信頼性回復」という無理難題
「エネルギー基本計画」の見直しに向けた総合資源エネルギー調査会基本政策分科会の2017年11月28日の会合に資源エネルギー庁が提出した資料は、「エネルギーミックス」進捗の「最大の課題」は「社会的信頼性回復」だと説明する。資料が挙げている課題ごとに見てみよう。「事故収束・福島復興」は、廃止措置のリスク軽減もままならず、帰還政策で被災者の苦難をより深刻化させている。「安全性の向上」は、原子力規制委員会への不信として逆噴射し、「防災対策の強化」は、むしろ対策の困難さを露呈した。事故対策にせよ防災対策にせよ、困難さをカバーしようとすればするほど、「そこまでしなくちゃいけないの?」と、だれもが思う。浜岡では海抜22m、女川では29mと防潮堤の高さを競っているが、そんなおぞましい対策で、もともと建ててはいけなかった場所に、建ててはいけないものが建っていてよいとする考えこそが誤りなのだ。
「最終処分・中間貯蔵」も、2017年7月28日の高レベル放射性廃棄物処分場の科学的特性マップの公表で一歩前進とはならなかった。公表翌日の産経新聞は「原発再稼働に一歩前進」と見出しを付け、「行き場のない核のごみを増やす」という再稼働への批判に対し、あたかも見通しが立ったように思わせることを狙ったマップの公表に期待を寄せた。しかし、それも、説明会への謝金による学生動員が明るみに出て、味噌を付けた。
関西電力の岩根茂樹社長は2017年11月23日、大飯原発3、4号機の再稼働同意を福井県の西川一誠知事から取り付けるため、18年中に使用済み燃料の県外中間貯蔵計画地点を示すと表明した。「20年の時点で立地の申し入れをさせていただく」という。「会社としての強い決意、覚悟だ」そうだが、決意と覚悟でどうにかなるものでもなさそうだ。
日本原燃は、六ヶ所再処理工場の完工をまた3年先送りする方針と報じられている。3年経てば、さらに延期されるのは確実だ。必要のない工場だけれどつくってしまったから、ともかくも竣工のセレモニーをして、「成功しました」というかっこうをつけたい、その後は「プルトニウムの需給を考慮して」操業のペースを落とせばよいと、竣工だけをめざしてきたのに、その竣工ができないでいるとは何をかいわんやである。
延期より、今すぐ中止するしかない。電力会社にしても政府としても、本音ではそれが望みではないか。榎本聰明東京電力顧問・元副社長原子力本部長が『エネルギーフォーラム』2010年6月号で、高速増殖炉開発計画が凍結されれば「再処理によって出てくるプルトニウムの処分という重荷からも逃れられる」と書いていた。「もんじゅ」の廃止措置計画が出されたいま、将来の高速増殖炉実用化までの我慢としてプルサーマルというごみ処分の重荷(しかも、実際には処分にならない)を背負い続ける意味はない。

廃炉は進む
電力会社としては、前述のごとく、とりわけ老朽化が目につくようになった原発は、できるものなら廃止したいというのが本音だと言えば、独断と偏見が過ぎるだろうか。2017年12月22日、関西電力は大飯原発1、2号機の廃止をを決定した。大型原発初の廃炉となる。四国電力は17年11月27日の佐伯勇人社長の定例会見で、伊方原発2号機に関して「年度内をめどに結論を得たい」と表明した(ただし、3号機の運転が差し止められたことから、2号機廃炉は言い出しにくくなったか)。
その伊方原発2号機を含め大飯原発1、2号機は除いて、新規制基準適合性審査を申請していない原発は15基ある。そのうち福島第二原発の4基については、福島県と県内全自治体が再三にわたって廃止を求めている。柏崎刈羽原発について、新潟県柏崎市の櫻井雅浩市長は、6、7号機の再稼働を認める条件として1~5号機の廃炉についての将来計画を示すよう求めている。
新規制基準適合性を審査中の11基でも、活断層の存在が否定できなかったりして合格できないものも出てこよう。とまれ、いろいろと言いわけをつけて廃炉とする動きが進むことは間違いなさそうだ。
2018年は、廃炉の時代の新たな幕開けとなる。

西尾漠(原子力資料情報室・共同代表)