能登半島地震で志賀原発では何が起きているのか

震源領域の広がり

 1月1日に発生したマグニチュード7.6の2024年能登半島地震は、その後に余震も続いたこともあり、奥能登地方を中心に大きな被害をもたらしている。家屋などの損壊にとどまらず、崖崩れや地盤の崩壊によって道路が破壊される現象がいたるところで起きている。

 地震領域の長さは150km以上に広がっている。本震の震源と考えられている海底活断層から南に20km離れた地点で、別の活断層(富来川(とぎがわ)南岸断層)が誘発されて動いたことが、名古屋大学の鈴木康弘さんら(日本地理学会断層調査グループ)によって確認されている。

 本震(1月1日16時10分)では、震央(破壊開始点の直上の地表)から約70km南東にある志賀原発でも大きな揺れを計測した。地表で震度5弱、1号炉の原子炉建屋最下階の床面で最大加速度399.3ガルを観測した。地震動の本格的な解析結果はまだ公表されてはいない。この揺れによって志賀原発がどのような被害をうけたか、少し長くなるが一つ一つみておく。

1号炉における地震の影響

 ① 使用済燃料プール冷却浄化系ポンプが一時停止した(約30分後に再起動した)。プール水温は29.5度で変化なし。当初は電源電圧の異常で停止したと北陸電力は説明していたが、現在はスキマサージタンクの水位の低下によるものと推定している。

 ② 起動変圧器から3600リットルの絶縁油が漏れた。これにより起動変圧器が使えなくなったため手動で予備電源変圧器に切り替えて赤住線(66kV)から受電した。地震発生時には放圧板が動作した。No.4放熱器で上部配管接続部の損傷と補強板とフィンの接続部に割れ、No.1~3、No.5~6放熱器には補強板とフィンの接続部にひび割れが見つかった。コンサベータ(変圧器内の絶縁油が温度の変化で膨張する量を吸収するタンク)の内部のゴム袋が揺れによって損傷した可能性がある。

 ③ 所内変圧器および主変圧器の放圧板が地震の揺れにより動作して開放した。

 ④ 使用済み燃料プールの水が地震によるスロッシングでオペレーションフロアに飛散した(約95リットル、約17100Bq)。

 ⑤ タービン補機冷却水系サージタンクの水位が低下した。原子炉建屋・タービン建屋の換気空調系の冷却コイルが損傷して冷却水が漏えいしたため。

 ⑥ 放水槽の周囲(全周約108m)に設置された防潮堤(高さ4m)の南側壁が数センチ傾斜した。防潮堤のコンクリート基礎部が地震の影響で数センチ沈下した。補機冷却側連絡通路付近の道路に空隙が見つかった。

 ⑦ 純水タンクの水位が低下した。屋外の埋設配管から漏えいを確認された。

 ⑧ 高圧電源車アクセスルート付近の道路の3箇所に数センチの段差が発生した。

 ⑨ 1月16日に発生した地震により志賀町で震度5弱を計測したことによる保安確認措置として、高圧炉心スプレイディーゼル発電機の試運転をしたところ、自動停止するトラブルが発生。2号炉における地震の影響

 ⑩ 主変圧器から絶縁油漏えいした(回収された油量は約19800リットル)。予備電源変圧器に自動で切り替わって志賀原子力線(275kV)から受電。噴霧消火設備が自動起動した(火災の発生はなし)。放圧板が動作した。No.11冷却器上部配管接続部に損傷、No.1 ~ No.10冷却器上部配管接続部に塗装ひび割れ、コンサベータと放圧管を接続する配管の損傷が見つかった。

 ⑪ 励磁電源変圧器の放圧弁が動作し、堰内に絶縁油が約100リットル漏えいした。

 ⑫ 使用済み燃料プールの水が地震によるスロッシングにより飛散した( 約326リットル、約4600Bq)。

 ⑬ 地震の揺れにより、低圧タービンにて「伸び差大」の警報発生。スラスト軸受けに過剰な力が加わりタービン翼が損傷した可能性が高い。

 ⑭ 使用済み燃料プール内に保管してあった原子炉冷却材再循環ポンプのインペラ・シャフト検査装置水中TVカメラユニットケーブルカバー(ポリエステル製)の一部がプールの底に落下。

 ⑮ 本震による津波が到達したため、取水槽内の海面水位が約3m上昇し(17時47分)、約1m低下し(17時52分)ていたことがデータにより確認された。1・2号炉の共通設備における地震の影響

 ⑯ 1号炉と2号炉の廃棄物処理建屋を接続するゴム製のシール部材(エキスパンション)を覆う金属製のカバーが脱落しているのが見つかった。

 ⑰ 物揚場の埋め立て部(中央部)の舗装コンクリート全体が沈下し、護岸とのあいだに最大35センチ段差が発生した。

損傷・トラブルの発生場所の分布

 ①~⑰までのおおよその発生場所を国土地理院が地震後の1月17日に撮影した空中写真の上に記したのが図1(表紙に掲載)である。敷地内の活断層のトレースを追加してある。

 ②③⑥はS-2・S-6断層と無関係とは思われず、ほかにも⑩⑪はS-8、⑦⑯はS-1とそれぞれなんらかの関係がありそうにみえる。これらの断層が今回の地震の影響で動いた(動かされた)可能性も考えられる。

 昨年3月にS-2・S-6断層などを「将来活動する可能性のある断層等」ではないと原子力規制委員会が認定したことの不当性は本誌第586号(2023/4/1)で指摘したとおりである。

 断層の挙動について知るために、舗装を取り除いてトレンチを掘るなどして厳正に調査することが最低限必要である。今回の地震で動いたことが見いだされれば、志賀原発は即閉鎖である。

 そうなると、原子力規制委員会の判断が間違っていたことになるのだから、敷地内に同様な小断層がある原子力施設についても再検討する必要がでてくる。

活断層と地盤隆起の想定は十分か

 図2には、最近の北陸電力の審査資料をもとに能登半島の志賀原発周辺の活断層の分布を示した。細い実線で活断層を示しており、富来川南岸断層と兜岩沖断層のあいだの破線をのぞいて、北陸電力が認定したものであることを表している。活断層の分布に、能登半島地震による地盤隆起の情報を追加してある。

 まず、北陸電力による活断層の想定の不十分さについて指摘しておく。

 2023年10月6日の審査資料で北陸電力は、能登半島北部沿岸断層帯をひとまとまりの活断層として96kmとして扱い、マグニチュード8.1の地震を敷地から65kmの位置で想定している。西側で笹波沖断層帯として45.5kmの活断層からマグニチュード7.6の地震を敷地から17kmの位置で想定した。今回の地震から、この2つの活断層をまたぐような活断層による地震を想定すべきと考える。これは10年も前に変動地形学者の指摘があり、事後には複数の研究機関が断層モデルとして150kmほどの長さにわたるモデルを提示している。

 北陸電力は、福浦断層に加えて、兜岩沖断層と富来川南岸断層を活断層のリストに入れている。しかし、それらの間の関連、たとえば兜岩沖断層と富来川南岸断層をひとつながりのものとして扱うということはしていない。海上音波探査のデータのみによって、両者の連続性を否定しているが、これでは十分と言えない。海成段丘面の高度の変化や海底の地形を考慮して、兜岩沖断層と富来川南岸断層をひとつながりの活断層として扱うべきである。

 能登半島の北岸から西岸にかけての90kmにわたる海岸線付近の土地が隆起したことがわかっている。楕円で示した珠洲市の北岸と輪島市の北西岸で隆起量が大きかったことがあきらかになっている。とくに珠洲市の北岸では、12万~13万年前につくられはじめた海成段丘が、標高100m以上の高さにまで隆起していることがわかっている。今回のような地震の隆起量を仮定すると、50回以上の地震によって現在の高さに持ち上がったことになる。

 志賀原発の原子炉建屋は12万~13万年前の海成段丘の上に建っており、標高は約20mである。今回の一連の地震では、志賀原発が建っている地盤は今のところ目立った隆起をしていない。しかし、過去の地震で隆起した結果、現在の高さにあるのだから、今後も隆起を続けるのは確実である。

 地震で地盤が隆起する際に、地盤の方に大きなひび割れがあったらどうだろう。地盤全体がいつも均等に持ち上がるとは考えられない。その場合には地盤の上にのっている建物・構造物が自重によって壊れたり、倒壊したりする可能性が高い。この点から見ても、志賀原発は不適当な場所に立地しているとしか考えられない。
(上澤 千尋/2024年3月1日発行 原子力資料情報室通信597号より)


■参考資料
・国土地理院、令和6年(2024年)能登半島地震に関する情報、1.空中写真(正射画像)(1月4日公表、1月19日更新)
 https://www.gsi.go.jp/BOUSAI/20240101_noto_earthquake.html#3-1
・富来川南岸断層に沿う地震断層の発見(1月19日公開):日本地理学会断層調査グループ 鈴木康弘(名古屋大)・渡辺満久(東洋大)
 http://disaster.ajg.or.jp/files/202401_Noto011.pdf

・北陸電力、プレスリリース 原子力
 https://www.rikuden.co.jp/press/atomic.html
(令和6年能登半島地震以降の志賀原子力発電所の現況について(1月30 日現在)、https://www.rikuden.co.jp/press/attach/24013099.pdf、ほか)
・原子力規制委員会、2024年能登半島地震関連資料(令和6年能登半島地震における原子力施設等への影響及び対応、2024年1月10日、
 https://www.nra.go.jp/data/000465120.pdf、ほか)

・原子力規制委員会、第1193回原子力発電所の新規制基準適合性に係る審査会合 https://www2.nra.go.jp/disclosure/committee/yuushikisya/tekigousei/power_plants/200000492.html
(「資料2-1 志賀原子力発電所2号炉 敷地周辺の地質・地質構造について敷地周辺(海域)の断層の評価(コメント回答)」、「資料2-2 志賀原子力発電所2号炉 敷地周辺の地質・地質構造について 補足資料」)
・渡辺満久、中村優太、 鈴木康弘、能登半島南西岸変動地形と地震性隆起、地理学評論、2015年88巻3号
 https://www.jstage.jst.go.jp/article/grj/88/3/88_235/_pdf/-char/ja
・後藤秀昭、能登半島沖の海底の変動地形
 https://jsaf.info/jishin/items/docs/20240103182202.pdf
・上澤千尋、『原子力資料情報室通信』第586号(2023/4/1)
 https://cnic.jp/46777