タニムラボレター No.008 空間線量率から土壌の汚染を算出できるか

『原子力資料情報室通信』第464号(2013/2/1)より

 

 

 

 

空間線量率から土壌の汚染を算出できるか 

 環境の放射能汚染を知る指標には、空間放射線量を表すμSv/hと土壌の汚染濃度を表すBq/kg, Bq/m2などがあります。空間放射線量は誰でも比較的簡単に測定することができますが、ベクレルで表す土壌の汚染は高価な測定機器や手間が必要な関係で多くの地点を測定することが難しいのが現状です。
 農林水産省は、蓄積されたデータを基に空間放射線量から土壌の放射能汚染を換算する計算式を発表しています [1]。しかし換算式は万能ではありません。地点ごとに土壌の状態や生育している植物の影響が違いますが、それらを考慮にいれることができません。また、深さ15cmまでの土壌の放射能汚染が均一な場合にあてはまる数式であり、環境の大部分を占める汚染の偏りがある土壌を表していないのです。
 実際の空間放射線量と土壌汚染の関係はどうか、土壌汚染の深さ方向の偏りはどうか、今回は試験農場のデータから検証します。
 試験農場の空間放射線量はおおよそ、地上1mで0.37μSv/h、地上5cmで0.40μSv/hでした。土壌採取は円筒形の筒を用いて行い、約5cmの深さごとに分けて測定しました。土壌のセシウム濃度は表面10cm程までが約1.8×103 Bq/kgで、それより深い部分では不検出(50 Bq/kg以下)でした。
 このデータに農水省の換算式[2]を当てはめると、土壌の放射性セシウム濃度は0.8×103Bq/kgと算出されます。しかし、実測結果は、表面6cmまでで換算値の2倍以上、15cmまでの平均値(約1.2~1.4×103 Bq/kg)でも換算値より5割以上高い汚染でした。なお事故以来、耕していない畑では表面1cmの土壌汚染が1.0×104 Bq/kgを越えています。
 放射能の影響を考えるには、直接触れて土埃として舞い上がる、土壌表面の汚染状況についても正確に把握する必要があると考えます。換算式は参考程度とし細かく丁寧な実測が必要だと改めて感じました。

(谷村暢子)

 [1] www.s.affrc.go.jp/docs/press/120323.htm

 [2]土壌の放射性セシウム濃度[Bq/kg]=空間線量率[μSv/h]×2390-84

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