「活断層」調査をどうおこなうのか ―大飯・敦賀・東通の敷地内断層調査から―

『原子力資料情報室通信』第464号(2013/2/1)より

「敷地内破砕帯の調査に関する有識者会合」

 大飯原発(関西電力)、敦賀原発(日本原子力発電)、東通原発(東北電力)の3つの発電所について、それぞれ「敷地破砕帯内の調査に関する有識者会合」が設置され、敷地内に存在している破砕帯(=断層)が耐震設計上考慮する活断層にあたるかどうか、現地調査とその結果に対する評価をふくめて審査がすすめられている。この有識者会合は、原子力規制委員会が2012年9月26日にきめた基本方針に沿って設置されたもので、メンバーとしては島崎邦彦・原子力規制委員長代理と、「活断層の認定、活断層調査、活断層調査計画に詳しく、個々の原子力施設の安全審査(耐震バックチェック及び二次審査を含む)に関わったことのない学識経験者」から選定され構成されている。中立的かつ科学的な見地からのみ、調査及び評価をおこなうためとされている。これまでの審査結果の再チェックをおこなうことが一番大きな目的である。

図1:東通原発(東北)敷地内の活断層
(有識者会合・栗田泰夫委員資料に加筆)

 2013年1月25日の時点で、東通については1回の現地調査と2回の評価会合、敦賀については1回の現地調査と1回の評価会合、大飯については2回の現地調査と3回の評価会合がおこなわれた。東通原発では、敷地内にある地層のズレを膨潤作用(地層の中の弱くなった部分が水分をふくんで膨張すること)によるとしていた東北電力の説明を否定した上で、施設の至近距離に活断層が認定された。

図2:敦賀原発敷地内の活断層
(有識者会合・鈴木康弘委員資料より)

また、海底に存在が指摘されている長大な大陸棚外縁断層に対する考慮を求める委員の声もあった(12月20日)。敦賀原発では、これまでよく知られていた浦底断層のほかに、そこから枝分かれする活断層(D-1断層)が2号炉の原子炉建屋直下に存在することが認定された(12月10日)。大飯原発については、敷地内に多数ある断層が活断層かどうか、いまのところ結論が出されていない。

大飯原発の審査状況

 先行して審査がすすめられたのは大飯原発である。大飯原発の敷地内には、3号炉のタービン建屋直下から原子炉建屋付近を通ってのびているF-6断層をはじめ10条をこえる数の破砕帯(=断層)があることがわかっていた。委員の一人である東洋大学の渡辺満久教授が3・4号炉の増設に関わる原子炉設置変更許可申請書に添付されたトレンチ(試掘溝)のスケッチなどを調べて、F-6断層が活断層である可能性が高いことを提示していた。F-6断層を示す軌跡(トレース)の途中に緊急炉心冷却系の冷却のための取水機能を有する取水路(耐震重要度Sクラス)があり、後述する安全審査の手引きに違反するうたがいが濃厚になっている。
 11月2日の現地調査の際に、F-6断層の北側方向の延長上にあたる台場浜付近でトレンチ掘削による調査がおこなわれ、後期更新世(約12万5千年前)以降の地層にズレがあるのが確認された。関西電力は、トレンチにあらわれた地層のズレが局所的な地すべりによるものであって、活断層の運動とは関係がないと説明している。また、11月7日に開かれた評価会合において、関西電力は、十分な説明がないままF-6断層のトレース位置を変更しており(新F-6断層)、調査の信頼性をうたがわせる事態になっている。

図3:大飯原発敷地内の活断層
(有識者会合・渡辺満久委員資料より)

 

 あたかも、活断層 vs. 地すべり、という図式の議論がなりたっているかのうようだが、そうではない。活断層と地すべりは必ずしも相反する事柄ではない。活断層とは関係なく重力の作用によってのみ地盤が崩れ落ちる地すべりはあるが、それとはちがい、活断層が動く(地震が起こる)ことによって生じる地すべりもあるからだ。関西電力は、台場浜トレンチの地層の変形が重力の作用のみによるものであることを証明し、さらに、付近一帯に似たような地すべり様の地形があった場合(将来の可能性もふくめて)、それらもすべて断層作用によらないことを示さなければならない。しかし、台場浜トレンチの地層のズレについては、たとえそれが地すべりであったとしても、重力の作用ではおこりえない方位にすべっていることが現在までの調査でわかっている。少なくとも活断層が関わっていることが否定できなくなった(もちろん、活断層とは関係のない地すべりであっても、原子炉施設の直下ないしは至近距離にあれば施設を破壊するのは避けられないのだが)。

隆起・変動帯の中にある大飯原発

 大飯原発近くの海域にはFO-AとFO-Bという連続する2つの活断層があり、その延長線上の陸域に熊川断層という活断層が存在することが知られており、関西電力による耐震バックチェックの中間報告書にも記載されている。渡辺教授と中田高・広島大学名誉教授は、大飯原発周辺の地形の解析と海上音波探査を実施し、研究成果を日本活断層学会の秋季学術大会(2012年11月17日)において発表した。発表によると、FO-A、FO-Bと熊川断層は一連の活断層(総延長約60キロメートル)であって、断層の運動としては左横ずれで、断層を境に大飯原発がある西側の領域の隆起をともなうという。隆起側の領域では、この大きな活断層が動くことによって、古い破砕帯(古傷と呼んでいる)などが再活動しているとみる。台場浜トレンチで見つかったものやF-6断層(新F-6断層)はそういうもののひとつであり、したがって、1~4号炉の原子炉直下にある断層群も再活動する可能性がある、と両氏は警告している。

図4:大飯原発周辺の活断層
(有識者会合・渡辺満久委員資料より)

「活断層」の意味

 「活断層」について、原子炉や核燃料サイクル施設の安全審査において現在使われている基準にどのように書かれているのか確認しておく。
 原子力施設の立地条件について規定している「原子炉立地審査指針及びその適用に関する判断のめやすについて」には、活断層に関する直接の記述はないが、原則的立地条件の項目中に「大きな事故の誘因となるような事象が過去においてなかったことはもちろんであるが、将来においてもあるとは考えられないこと。また、災害を拡大するような事象も少ないこと」と、抽象的ではあるが、地震や台風などの自然災害を避けるようもとめている。
 2006年9月に改訂された「発電用原子炉に関する耐震設計審査指針」では、「耐震設計上考慮する活断層としては、後期更新世以降《約12万~13万年前以降:筆者注》の活動が否定できないものとする」となっている。
 これを受けて具体的な審査手順を定めた「発電用原子炉施設の耐震安全性に関する関する安全審査の手引き」(以下「手引き」。2008年6月に「活断層等に関する安全審査の手引き」として決定されたが、現在の形になったのは2010年12月)では以下のように記載されている:
……………………
1.3 耐震設計上考慮する活断層の認定
(1)耐震設計上考慮する活断層の認定については、調査結果の精度や信頼性を考慮した安全側の判断を行うこと。その根拠となる地形面の変位・変形は変動地形学的調査により、その根拠となる地層の変位・変形は地表地質調査及び地球物理学的調査により、それぞれ認定すること。
 いずれかの調査手法によって、耐震設計上考慮する活断層の存在が推定される場合は、他の手法の調査結果も考慮し、安全側の判断を行うこと。
(2)後期更新世以降の累積的な地殻変動が否定できず、適切な地殻変動モデルによっても、断層運動が原因であることが否定できない場合には、これらの原因となる耐震設計上考慮する活断層を適切に想定すること。(略)
……………………
 ひとことでいうと、ある手法によって高い確度で活断層であると推定される地形的・地質的構造があった場合、活断層であることが否定されないかぎり(たとえば、活断層であるとするとまわりの他の地形なり地質構造なりが科学的に説明できなくなるということがないかぎり)、安全側に考えて活断層があるものとして審査をおこなうように書かれている。
 大飯原発にあてはめて考えると、F-6断層(新F-6断層)などが活断層であることを否定できる十分な根拠がない現状では、安全側に考えてそれらを活断層として認定し、2012年7月に運転再開された大飯3・4号炉は、運転再開にあたっての前提条件が崩れたのであるから、少なくとも原子炉を停止させるべきである。

活断層の上に原子力関連施設をつくってはならない

 前述の「手引き」には、原子炉(および核燃料施設)を設置する地盤について、次のように記載されている:
……………………
V.建物・構築物の地盤の支持性能の評価
 建物・構築物が設置される地盤は、想定される地震力及び地震発生に伴う断層変位に対して十分な支持性能を持つ必要がある。
 建物・構築物の地盤の支持性能の評価においては、次に示す各事項の内容を満足していなければならない。ただし、耐震設計上考慮する活断層の露頭が確認された場合、その直上に耐震設計上の重要度分類Sクラスの建物・構築物を設置することは想定していないことから、本章に規定する事項については適用しない。
(解説)
 上記ただし書きについては、耐震設計上の重要度分類Sクラスの建物・構築物の真下に耐震設計上考慮する活断層の露頭が確認される場合、その活断層の将来の活動によって地盤の支持性能に重大な影響を与えるような断層変位が地表にも生じる可能性を否定できないことから、そのような場所における当該建物・構築物の設置は想定していないという趣旨である。なお、地震を発生させうる断層(主断層)と構造的に関係する副断層についても、上記ただし書きを適用する。
……………………
 わかりにくい表現になっているが、この文章の意味するところは、原子炉の重要施設(Sクラス)の施設を活断層の真上につくってはならない、ということだ。地盤が大きくズレてしまえばその上に設置されている建物や中に配置されている機械や容器、敷設されている配管類が破壊されたり使いものにならなくなるなどした結果、放射能を大量に放出する事故につながりかねないからである。対象とする活断層としては、地震を起こすかどうかは問うていない。
 これまでの耐震性や活断層に関する審査がいかに不十分であったかは、いろんな場で述べられてきているが、それは遠い昔のはなしではなく、つい最近の耐震バックチェックの審査においても変わっていない。「手引き」に基づいて適切に審査がおこなわれていれば、敦賀や大飯のような活断層の真上に原子炉建屋やタービン建屋、取水路があることに気づかれずにそのまま放置されるということはなかったはずである。

新しい地震・津波の基準の策定と他の原発の断層調査

 昨年11月19日から「発電用軽水型原子炉施設の地震・津波に関わる新安全設計基準に関する検討チーム」において、耐震設計指針や「手引き」に代わる基準作りの議論がすすめられている。骨子案(第7回会合、1月22日配付資料)をみると、耐震設計上考慮する活断層を後期更新世以降(約12万~13万年前以降)としているのは変わらないが、認定に際して後期更新世の地形面や地層がなかったときのために、「手引き」では「さらに古い時代の」と記述されていたのを、応力場が現在と同じと考えられている「中期更新世以降(約40万年前以降)まで遡って」と明確な記述にしている。もうひとつ気がついたのは、地盤安定性に対する考慮の項目で、原子炉建屋以外のSクラスの機器・系統を支持する建物・構築物について、必ずしも活断層の直上につくることを禁止していないことだ。立地不適格な場所で免震設備を推奨するかのような記述は削除されるべきだ。
 旧原子力安全・保安院から、敷地内の断層の追加調査を指示されていた志賀原発(北陸電力)、美浜原発(関西電力)、もんじゅ(日本原子力研究開発機構)についても、原子力規制委員会は有識者会合を組織して、調査・評価をおこなうとしている。また、データの拡充をもとめられていた柏崎刈羽原発(東京電力)、浜岡原発(中部電力)、高浜原発(関西電力)、六ヶ所再処理工場および高レベル放射性廃棄物貯蔵施設(日本原燃)、大間原発(電源開発)についても、敷地内の断層の追加調査の実施をふくめた検討をするとしている。
 これまでの経緯からすると、すべての原発と核燃料サイクル施設について、敷地内の活断層と周辺の活断層の審査内容の中立的かつ科学的な再チェックをおこなわなければならない。            

(上澤千尋)

参考資料
大飯発電所敷地内破砕帯の調査に関する有識者会合
敦賀発電所敷地内破砕帯の調査に関する有識者会合
東北電力東通原子力発電所敷地内破砕帯の調査に関する有識者会合
発電用軽水型原子炉施設の地震・津波に関わる新安全設計基準に関する検討チーム
■鈴木康弘、渡辺満久、大飯原子力発電所の破砕帯問題と耐震安全審査のあり方、科学、2012年8月号、岩波書店
■渡辺満久、大飯原子力発電所内の活断層調査、科学、2012

 

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