1号機、2号機、3号機、すべてが廃炉の可能性? 北海道電力泊原発

『原子力資料情報室通信』第545号(2019/11/1)より 

報道によれば、原子力規制庁が9月中旬に泊原発敷地内の断層について現地調査をおこないます。この断層が活断層であるとの指摘を受けてのことだと思います。指摘について「行動する市民科学者の会」小野有五さんによる「原子力資料情報室通信第545号」への寄稿を掲載しましたのでご覧ください。

1号機、2号機、3号機、すべてが廃炉の可能性? 北海道電力泊原発

小野有五

1.F-1断層が活断層であることを否定できないとした原子力規制委員会

2019年2月22日に開かれた原子力規制委員会(以下、規制委と略す)による北海道電力(以下、北電と略す)泊原発についての安全審査会は、画期的なものであった。3時頃から始まった審査会合は、通常の審査会合の倍近くの時間をかけて行われた。規制委は、1号機の建設時に現れた掘削断面(図1)において、F-1断層が切っている地層の年代についての詳しい説明を北電に求めた。2013年の再稼働申請以来、北電は一貫して、F-1断層が切っているB層を「岩内層下部」、C1~C2層を「岩内層上部」と呼び、「岩内層」は120万年前から40万年前ほどの古い地層だから、「活断層」ではないと主張してきた。
新規制規準では、40万年前より新しい地層を切る断層が「活断層」の基準になるからである。しかし2017年以降の安全審査会では、北電のこの説明に決定的なほころびが生じ、規制委は、「岩内層」の年代の再検討を北電に迫っていたのである。

図1.泊原発1号機建設時の掘削断面の写真をスケッチした図と解釈。左端は、2019年2月22日の規制委での北電の説明。その右は再稼働申請時以来の北電の主張。図の右側は筆者らの解釈。図中左下方の黒線は北電の写真に写っている長さ1mの標尺。大きな崖を下方から撮影しているので写真は上方ほど歪んでいるが、修正はせず、そのままできるだけ忠実にスケッチした。図右の数字(m)は標高を示す。Aは基盤岩の層、B~Dについては、図と本文を参照。

追い詰められた北電は、ついに2013年以来の主張を自ら否定し、C1~C2層は、MIS9(約33万年前)か、MIS7(約20万年前)の地層であると説明したのである。北電の示した3案のうち、1案では、「33万年前以前」としたことに対し、規制委は、「以前ということは33万年前も含んでそれ以前という意味ですか?」と念を押し、北電が「そうだ」と答えると、「それなら、どの案をとっても、C1~C2層は40万年前より新しい地層になるから、それを切っているF-1断層は新規制規準の活断層になりますね」と、切り返したのである。
さらに規制委は、F-1断層が、C2層の中で上方にせん滅している事実に注目した。このような場合、断層は、それが切っている地層より後に生じたことは確かだが、その後、いつ断層が起きたかは確定できない(渡辺・小野、2018)。F-1断層もそういう断層だから、「12.5万年前より後に活動したことを否定できない」ので、そのような断層を「活断層」としている新規制規準に照らせば、「活断層」に当たると明確に結論づけたのである。
北電の「岩内層」がそのように古い地層ではないことについては「原子力資料情報通信」No.526で述べたとおりである(小野、2018)。MISというのは、「海洋酸素同位体ステージ」のことで、海面が上昇した温暖期と、海面が低下する寒冷な氷河期を表す。奇数が温暖期、偶数が氷河期に当たる。世界的に温暖だった12.5万年前はMIS5eと呼ばれる。ステージ5の中で最も温暖で、世界中で海面が上昇したので、活断層の活動の基準にされたのである。
規制委が、こうした科学的知見を安全審査会合に生かしてくれるようになったことを喜ぶとともに、そのような姿勢が、今後の安全審査でも貫かれることを期待するものである。

2.泊原発2号機、3号機と活断層

図2に、泊原発の主な耐震重要施設(①~⑭)およびそれに付随する主な建物(A~I)と、3本の活断層の位置関係を示した。また、α、β、γ、δの4地点は、北電により掘削断面が公開されたおよその位置を示す。すでに述べた図1の掘削断面は、α地点左側(北側)の断面に当たる。F-1断層は1号機の原子炉建屋(①)の直下にはないが、1号機のタービン建屋(C)や固体廃棄物貯蔵庫(B)を横断する。

図2.泊原発敷地内の施設と活断層の分布図(北電の資料をやや簡略化)・~・は下に活断層があってはならない耐震重要施設(・1号機原子炉建屋、・2号機原子炉建屋、・1,2号機原子炉補助建屋、・1号機燃料取換用タンク建屋、・2号機燃料取換用タンク建屋、・1,2号機海水管ダクト(地下)・1,2号機取水ピットポンプ室(地下)、・3号機原子炉補助建屋、・3号機原子炉建屋、・3号機ディーゼル発電機建屋、・3号機海水管ダクト(地下)、・溢水防止壁、・3号機取水ピットポンプ室・ストレーナ室(地下)、・防潮堤。その他の施設:A:定検機材保管庫、B:固体廃棄物貯蔵庫、C:1号機タービン建屋、D:2号機タービン建屋、E:1,2号機補助ボイラー建屋、F:放射性廃棄物処理建屋、G:総合管理事務所、H:3号機出入管理建屋、I:3号機タービン建屋。(破線は、地下の施設を示す)。 北電による掘削断面のおよその位置;α:F-1断層掘削断面、β:F-4断層掘削断面、γ: F-11断層掘削断面、δ:2019年追加(はぎとり調査)断面。(F-1,F-4,F-11断層の位置は、標高2.8mのレベルでの位置に当たる)。

F-4断層は、重要耐震施設である1・2号機原子炉補助建屋(③)の直下にあり、その延長は、2号機の原子炉建屋(②)の下にまで延びている可能性もある。β地点でのF-4断層に沿った掘削断面の北電によるスケッチをトレースしたのが図3である。詳細がほとんど公表されておらず、明確な写真もないために、あくまでも北電のスケッチと記載からの推測であるが、北電がHm2面堆積物としている右側の地層は、これまでの議論を踏まえれば、図1でC1~C2層にあたるMIS9の地層ではなく、それを覆っているD層であろう。最下部まで礫が多く、しかも亜角礫が多く淘汰が悪いことから、淘汰がよい砂質の海成層からなるMIS9の地層とはとても思えないのである。上部にはシルト質の薄層を挟んでいるが、これらも、図1のD層と類似している。そもそもβ地点も、α地点と同様、背後の崖より山側にあるHm2面から原発の諸施設の位置にあったHm3面に向かって、斜面堆積物が緩斜面をつくっていた場所である。そのような緩斜面は、最終氷期の寒冷な気候のもとで周氷河作用を強く受けて形成されたものに他ならない。泊原発敷地内の断面における周氷河作用の重要性については次章で述べよう。
図3の拡大スケッチでは、基盤の神恵内(かもえない)層がズレて、それを覆う周氷河性斜面堆積物に突き上げているようにすら見える。これ以上の資料が公開されていないのが残念である。もし、ズレが見かけだけで、F-4断層は斜面堆積物に不整合で覆われている、としても、この斜面堆積物は、図1のD層と同じく最終氷期に移動した可能性を否定できない。だとすれば、この断層も、12.5万年前以降の活動を否定できないのであり、「新規制規準」による「活断層」に相当するといえよう。

図3.F-4断層掘削断面のスケッチ(北電、2019a)の模写図 原図は横位置。右下の枠内(標尺20cm)は、全体図(標尺5m)におけるB、C層の境界部の拡大図。F-4断層を境に左側の基盤(C層)が礫層(B層)に突き上げているように見える。Aはシルト質薄層などを挟む砂層、Bは礫層ないし礫を含む砂層。北電はMIS9の海成層としている。Cは基盤岩(泥岩礫を多く含む神恵内層)

耐震重要施設である3号機の原子炉補助建屋(⑧)の直近を通るF-11も、図4に示すように、基盤の神恵内層を、それを覆う斜面堆積物に斜め上方に突き上げさせているようにも見える。それが見かけだけで、断層は斜面堆積物に不整合に覆われるとした場合でも、図3と同様、F-11断層を覆う地層は、角礫を主体とするきわめて淘汰の悪い堆積物に見え、基本的に淘汰のよい砂質の海成層からなるMIS9の堆積物とは根本的に異なるものである。図4の掘削地地点は、図2のγ地点にあたるが、ここも、背後のHm1面ないしHm2面から、より低いHm3面に向けて周氷河性斜面堆積物が斜面をつくっている。ここでもこの斜面堆積物は、最終氷期に移動・堆積した可能性を否定できない。すなわちF-11断層も、「12.5万年前以降の活動を否定できない断層」となり、新規制規準の「活断層」に当たると推定される。

耐震重要施設(③)を通るF-4断層が「活断層」なら、1・2号機は即廃炉となるが、F-11断層は、直近とはいえ、耐震重要施設の直下にはないので、即廃炉になるとは言えない。しかし、これだけ近くに「活断層」があれば、基準地震動はこれまでの想定よりさらに増大し、再稼働を貫こうとすれば、安全対策費はさらに増大する。F-11断層が「活断層」となれば、3号機も廃炉にしたほうが、北電の経営にはむしろ有利になると言えよう。

図4.F-11断層掘削断面のスケッチ(北電、2019a)の模写図  原図(標尺50cm)。Aは北電によればMIS9の海成層とされているが、角礫、亜角礫を多く含む周氷河性斜面堆積物と考えられる。斜線の礫は、風化したくさり礫。Bは基盤岩(神恵内層)。最上部、および右側は泥質凝灰岩で、左側下部は砂質凝灰岩。凍結破砕を受けやすい泥質凝灰岩には多くの亀裂が見られる。F-11断層は断層粘土を伴う。

3.周氷河作用の重要性とその意味

2017年12月の審査会合で、北電(2017)は原発敷地周辺の多くの地点で行った追加調査の成果を発表した。しかし、それまで主張していた約20万年前の火山灰は地層としては見つからず、敷地内には無いと言ってきた洞爺火山灰(11.5万年前)や支笏降下軽石1(4.2万年前)が、約20万年前の火山灰の粒子と混在してさまざまな層準に出るという大変な事実が判明した。それは、この斜面堆積物が明らかに周氷河作用によって大規模な凍結擾乱(じょうらん)(クリオタベーション)を受け、かつ、それにもとづく斜面移動(ジェリフラクション)が大規模に生じていたことを初めて示すものであった。その1つ、原発敷地内の東部(図2に示した範囲のやや右側)のCトレンチでの写真をスケッチしたのが図5である。あくまでラフ・スケッチに過ぎないが、A~C層は、MIS9の海成層であるシルト質~砂質層(B層)を巻きこみながら堆積しており、角礫を多く含むことから、全体が周氷河性斜面堆積物と考えられる。しかし、そもそも「周氷河性斜面堆積物」という概念すらもっていないように見える北電は、A層だけを斜面堆積物とし、B~C層を、堆積後には移動していないMIS9の地層としているのである。

図5.北電(2017)により公開されたC2トレンチの全体写真の一部(右下)と、その太い枠内の拡大写真をもとに描いたスケッチ。 縦軸は標高。A~Eは本文を参照。Fは基盤岩中の泥岩礫。

C層が覆っている基盤岩(E層)には楔状の割れ目(D)が見られ、Dの一部は、割れ目に落ち込んでいるようにも見える。これは永久凍土環境下で凍結によって生じた凍結割れ目とも考えられよう。割れ目を埋めるDの上部は、ジェリフラクションを受けて斜面方向にひきずられたような形態を呈する。
図2のδ地点で北電(2019b)が最近報告した「はぎとり断面」の写真でも、MIS9のシルト質層には、図1のC2層に見られるような波状の変形(周氷河インヴォリューション)が顕著であり、露頭の上部では、シルト層と礫層が、図1のD層に見られるように変形し、斜面方向にひきずられているように見
える。ただ、図1でも、図3~5でも、私たちは、インターネットで公開された解像度の悪い写真や図をパソコン上で最大限に拡大し、ボケた画像や字に目をこらしながら必死で読み取って、かろうじてスケッチを描いているにすぎない。敷地内に自由に立ち入ることのできる規制委には、現場の露頭でよく観察を行い、周氷河作用の影響を検討して、より適切な解釈を導いていただきたいものである。
周氷河作用は、MIS8や6の寒冷期にも生じたが、北電(2017)自らが明らかにしたように、原発敷地内の周氷河斜面では、多くのトレンチで4.2万年前の火山灰が大きく擾乱を受けており、最終的には、その後に大きな移動が起きたことがわかる。これまで北海道各地で明らかにされてきたように、その時期は、最終氷期MIS2(約3万~1.5万年前)の最寒冷期にあたる。永久凍土環境下での斜面移動を考えなければ泊原発敷地内の最上部の地層の正しい解釈はできないのであり、そのことを規制委も認識した上で、今後の審査に臨んでいただきたいと思う。

謝辞:本研究を行うにあたり、ハカセの会は、高木仁三郎市民科学基金から助成を受けました。基金に感謝いたします。F-1断層とそれが切っている地層の年代について述べた学術論文(小野・斉藤「北海道西部、岩内平野の地形発達史~泊原発の敷地内断層に関連して~」)は日本活断層学会から受理され、『活断層研究』第51号に掲載されて、2019年中に印刷される予定です。

渡辺満久・小野有五(2018) 泊原子力発電所敷地内の断層活動時期に関する問題。科学、88、1086-1090.

小野有五(2018) そもそも立地基準を満たしていなかった?北海道電力泊原発。 原子力資料情報室通信、No.526,2-5.

北海道電力(2019a)原子力規制委員会 第685回原子力発電所の新規制基準適合性に係る審査会(平成31年2月22日)会議資料、資料2-11、泊発電所地盤(敷地の地質地質構造)に関するコメント回答(Hm2段丘堆積物の堆積年代に関する検討)資料集。

北海道電力(2019b) 第718回原子力の新規制規準適合性に係る審査会(令和元年9月27日)会議資料、泊発電所敷地及び敷地周辺の地質・地質構造について(コメント回答)資料集。

北海道電力(2017) 原子力規制委員会、第531回原子力の新規制規準適合性に係る審査会(平成元29年12月8日)会議資料、泊発電所敷地及び敷地周辺の地質・地質構造について(コメント回答)資料2-1.

【関連情報】

・岩波『科学』 2020年2月号 小野有五「泊原発の活断層審査で周氷河作用を無視する北海道電力」 目次

・岩波『科学』2020年2月号「泊原発の活断層審査で周氷河作用を無視する北海道電力」追加資料
www.iwanami.co.jp/kagaku/Ono202002suppl.html

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