六ヶ所低レベル廃棄物埋設施設判決について-判決の不当性(+判決本文・要旨)
六ヶ所低レベル廃棄物埋設施設判決について-判決の不当性
2006年6月16日
原子力資料情報室
日本全国から広く市民が参画して事業許可の取り消しを求めている青森県六ヶ所村の低レベル放射性廃棄物埋設場の裁判で、6月16日、青森地方裁判所は原告の訴えを棄却するという判決を出した。
判決では138人の原告のうち六ヶ所村内に住む16人だけに原告としての適格を認定しており、これは科学的でなく不当である。
低レベル放射性廃棄物埋設場の危険性を著しく低くみている裁判所の見識のなさを表すものでしかない。この施設は、本質的には、使用済み燃料起源以外の核のゴミの捨て場である。その場所での直接の大きなエネルギー発生はないかもしれないが、低レベルという名前からくる印象とは異なり、取り扱う放射能の濃度および総量は、日常生活から比べると非常にレベルが高い。
その潜在的危険性について、私たちは上澤千尋の意見書(※)などで説明してきた。
しかしながら、今回の判決においては、航空機墜落事故の発生確率の厳密な議論ぬきに、確率が低いと断じて、それによる被曝被害の大きさに目をつむっている。国ないしは日本原燃の被害想定が十分なものであるとの科学的な説明なしに、原告側の主張を却下しており、容認できない。
核のゴミ捨て場は、現在運用中の1、2号施設だけにとどまらず、増設・拡張の計画が進められている。原発で交換した配管やシュラウドだけでなく、原子炉本体までもが埋め捨ての対象となるのである。
建て前は300年管理だが、埋めた後は野となれ山となれ、である。
地下水を通じ、大気をつうじ、放射能の汚染は拡散し続けるのである。
参考
□高木仁三郎『下北半島六ヶ所村核燃料サイクル批判』
www.pen.co.jp/syoseki/datugen/9108.html
□核燃サイクル阻止 1万人訴訟原告団(意見書・準備書面など掲載)
www5a.biglobe.ne.jp/~genkoku/
報道
【東奥日報】
www.toonippo.co.jp/news_too/nto2006/0616/nto0616_10.asp
www.toonippo.co.jp/news_too/nto2006/0617/nto0617_5.asp
www.toonippo.co.jp/kikaku/kakunen/new2006/0617_1.html
www.toonippo.co.jp/kikaku/kakunen/new2006/0617_2.html
【デーリー東北】
www.daily-tohoku.co.jp/kakunen/news2006/kn060617a.htm
www.daily-tohoku.co.jp/kakunen/news2006/kn060617b.htm
www.daily-tohoku.co.jp/kakunen/news2006/kn060617c.htm
www.daily-tohoku.co.jp/kakunen/news2006/kn060617d.htm
www.daily-tohoku.co.jp/kakunen/news2006/kn060613a.htm
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平成3年(行ウ)第6号 廃棄物埋設事業許可処分取消請求事件判決要旨
主文要旨
1 原告らのうち,別紙当事者目録記載の番号75から90の原告らを除く者の訴えをいずれも却下する。
2 別紙当事者目録記載の番号75から90の原告らの請求をいずれも棄却する。
事実及び理由の要旨
1 原告適格について
本件廃棄物埋設施設の立地場所との距離関係を中心として,地形や地勢を考慮しながら社会通念に照らして勘案すると,安全性に関する各審査に過誤,欠落がある場合に起こり得る事故等に起因する災害により直接的かつ重大な被害を受けるものと想定される範囲の住民として原告適格を有する者は,青森県上北郡六ヶ所村(その距離は本件廃棄物埋設施設から最遠隔地でも約20㎞以内である行政区画)に居住する原告ら16名のみであり,その余の原告らは原告適格を欠く。
2 本件安全審査に関する原告らの主張に対する判断
(1) 基本的立地条件(自然環境,社会環境)について
ア 自然環境について
(ア) 地盤について
本件安全審査においては,文献調査,空中写真判読,地表地質調査,ボーリング調査,トレンチ調査,岩盤支持力試験等の結果を総合検討した上で,専門家により地盤に問題がないと判断されたことなどにかんがみると,地盤に関する本件調査審議及び判断の過程において看過し難い過誤,欠落があるということはできない。
(イ) 地震について
本件安全審査の際の線量当量の評価に当たっては,管理の第2段階当初から埋設設備の閉じ込め機能が損なわれると仮定しても,一般公衆の受ける線量当量が,法令に定める実効線量当量の限度に比して十分に小さいことが確認されているから,仮に地震により埋設設備が損傷し,その閉じ込め機能が破壊されたといった場合においても,一般公衆の受ける線量当量が著しく大きくなることは考えにくいから,震度階無視,活断層,青森県東方沖等の巨大地震及び液状化現象による被害の可能性等に関する原告らの主張にもかかわらず,本件調査審議及び判断の過程について看過し難い過誤,欠落があるということはできない。
(ウ) 地下水の汚染等の可能性について
本件安全審査においては,仮に埋設設備の外周仕切設備及び覆いから表面水が浸入した場合であっても,その水が廃棄体に達することなく排水することができるよう,ポーラスコンクリート層等の排水・監視設備を設け,廃棄物埋設施設の管理の第1段階,第2段階の期間中はその監視をしながら排水を行うことが確認されている。また,線量当量評価に当たっては,廃棄体,埋設設備等が著しく劣化し,第2段階当初から放射性物質の漏出が始まると仮定した場合であっても,一般公衆の受ける線量当量が十分に小さいことが確認されている。仮にf-a断層及びf-b断層に沿って「水みち」(地下水の浸透路)が形成されるなどして地下水の放射能汚染が発生したとしても,最終的にはその水が敷地西側の沢を経由して尾鮫沼へ,又は直接に尾鮫沼へ至る地形となっているから,被ばく評価上は問題とならない。
したがって,地下水の放射能汚染に関する本件調査審議及び判断の過程について看過し難い過誤,欠落があるということはできない。
イ 社会環境(自衛隊三沢基地,米軍三沢基地)について
本件安全審査においては,航空機の飛行に係る法的規制等がされていることを踏まえ,かつ,民間航空機の定期航路及び軍用機との訓練空域と本件廃棄物埋設施設上の距離がそれぞれ約10km離れていることをも勘案して,自衛隊三沢基地及び米軍三沢基地の航空機が本件廃棄物埋設施設に墜落する可能性が極めて小さく,社会環境として問題がないと判断されたのであるから,その点に看過し難い過誤,欠落があるということはできない。
(2) 段階管理における安全性に関する違法性について
ア 本件安全審査においては,管理期間内において一般公衆に対する線量当量が最大となる評価経路は,本件廃棄物埋設施設に一時貯蔵及び埋設される廃棄体中の放射性物質によるスカイシャインガンマ線に係る線量当量の年間約0.027ミリシーベルトであり,これに重畳の可能性のある他の評価経路を考慮しても,それらの線量当量への寄与は十分に小さいと評価されるので,法令に定める実効線量当量の限度(年間1ミリシーベルト)を十分に下回ることはもとより,「安全審査の基本的考え方」に示されているところの「合理的に達成できる限り低く」なる設計となっている。
また,管理期間終了後においても,一般的であると考えられる経路として選定された線量当量評価経路の中で,線量当量の評価結果が最大となるのは,廃棄物埋設地又はその近傍での居住による経路の場合の年間約1.5×10^-3ミリシーベルトであり,これに重畳の可能性のある評価経路を考慮しても評価結果は十分に小さく,「安全審査の基本的考え方」が定めるめやす線量10μSv/年(0.01mSv/年)を十分下回ることが確認されている。さらに,発生頻度が小さいと考えられる経路として選定された線量当量評価経路の中で,線量当量の評価結果が最大となるのは,廃棄物埋設地における地下数階を有する建物の建設工事によって発生する土壌上での居住による経路の年間約0.014ミリシーベルトであり,この評価結果は「安全審査の基本的考え方」が定める「めやす線量を著しく超えない」範囲内にある。
なお,管理期間前後を通じたこれらの評価結果は,日常生活に伴う被ばく量,例えば,自然放射線による一人当たりの世界平均の被ばく量年間2.4ミリシーベルト程度や,人工放射線による胃の集団検診1回の被ばく量約0.6ミリシーベルト,胸部X線コンピュータ(1回)・断層撮影検査(CTスキャン)の被ばく量約6.9ミリシーベルトを大きく下回っている。
以上によれば,埋設地の段階管理の安全評価に関する本件調査審議及び判断の過程について看過し難い過誤,欠落があるということはできない。
イ 航空機の墜落等による廃棄体の一挙的漏出による被ばくについて
本件廃棄物埋設施設は民間航空機の定期航路や軍用機の訓練区域からそれぞれ約10km程度離れており,本件廃棄物埋設施設に航空機が墜落する可能性は極めて小さいと考えられることなどにかんがみると,本件安全審査における上記航空機事故に係る安全評価について,看過し難い過誤,欠落があるということはできない。
(3) 本件安全審査の具体的審査基準の内容,本件事業許可申請がその具体的審査基準に適合するとした本件調査審議及び判断の過程に照らすと,①原子力安全委員会若しくは核燃料安全専門審査会の調査審議において用いられた本件具体的審査基準について不合理な点があるということはできないし,②本件廃棄物埋設施設が上記具体的審査基準に適合するとした本件調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があるということはできないから,本件事業許可処分が違法であるということはできない。
3 よって,主文のとおり判決する。
青森地方裁判所第2民事部
裁判長裁判官 齊木教朗
裁判官伊澤文子及び同石井芳明は,転補のため署名押印をすることができない。
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(※)
六ヶ所低レベル放射性廃棄物埋設施設に航空機が墜落した場合の災害評価
2006年3月5日
上澤千尋
原子力資料情報室
■はじめに
六ヶ所低レベル放射性廃棄物埋設施設に航空機が墜落した場合、ドラム缶などにセメントで固化・収納された廃棄体が破壊され炎上するなどして、内容物がチリやホコリとなって環境中に放出され、住民に放射能災害をもたらすことが考えられる。このため、一定の仮定のもとに住民の被曝影響を計算を実施した。
申請書の仕様によると、六ヶ所低レベル放射性廃棄物埋設施設には、現在操業中の埋設施設が1号施設と2号施設の2つがあり、それぞれ200リットル詰ドラム缶にして約20万本分の容量を持ち、取り扱う放射能の最大濃度と総放射能量を表「1号施設に埋設される低レベル廃棄物」および表「2号施設に埋設される低レベル廃棄物」のように定めている。また、受入れた放射性廃棄体の汚染・破損の状況など、健全性をチェックするための管理建屋が、本施設全体として1つあり、廃棄体3200本を一時貯蔵することができる容量を有する。
この災害評価においては、廃棄体を一時貯蔵中に管理建屋に航空機が墜落炎上し、貯蔵中の廃棄体から放射能の一部ないしは全部が環境中に放出され、放射能が大気中を拡散した場合に、住民にどれほどの影響を与える(与えうる)のか、という点について計算し、健康影響について評価した。
■計算の対象と方法
計算したのは次の2つのケースである。
A.最大濃度のドラム缶詰廃棄体54本相当分が放出されるケース。
B.1号施設で取り扱う総放射能量相当分が放出されるケース。
放出された放射能を吸い込んで体内に取り込んだ時の預託線量(全身、50年)を計算した。
環境中に放出された放射能の拡散と住民の被曝計算には、米国原子力委員会の事故評価報告書WASH-1400草案をもとに瀬尾健氏(元京大原子炉実験所、故人)が作成し、小出裕章氏(京大原子炉実験所)が改良をつづけている計算プログラム「ACC50」を援用した。内部被曝の計算には、2号施設の設置にともなう変更申請書に記載されている値(ICRPの広報30をもとに換算した値)を使った。
計算の気象に関する条件として、放射能の放出高度は10メートル、風速は4.0m/秒、大気安定度はD、天候は降雨なし、放射能の広がり角は15度をそれぞれ設定した。
■放出放射能量と被曝計算の結果
■■A.最大濃度のドラム缶詰廃棄体54本相当分が放出されるケース
廃棄体の密度を1500kg/立方メートルという申請書の値をもとに、ケースAでは1号施設の最大濃度のドラム缶廃棄体54本分、重量にして約16トン分に内蔵する放射能が放出することを仮定した。
放出する放射能の種類と量は、表「管理建屋への航空機墜落で放出される放射能」(1号施設の最大濃度ドラム缶約54本分)の通りで、ベータ放射能を約70兆ベクレル、アルファ放射能(アメリシウム241として)を約90億ベクレルと仮定した。
計算の結果を表「管理建屋への航空機墜落事故での被曝線量」(最大濃度ドラム缶約54本分放出のケース)に示す。
3200本貯蔵可能な管理建屋において、最大濃度の廃棄体わずか54本分の放射能放出しか仮定しなかった場合であっても、建屋からの距離300メートルの地点で急性障害発生レベルである259ミリシーベルト、およそ10キロメートルの地点で一般人の年間の被曝線量限度である1ミリシーベルトに達することがわかった。
■■B.1号施設で取り扱う総放射能量相当分が放出されるケース
本施設の潜在的危険性を調査・検討するために、1号施設で取り扱う総放射能量相当分が放出されるケースを考える。これは架空の話でなく、事業申請書の仕様に基づいてつぎのように具体的に設定することができる。
管理建屋内で、1号施設で埋設する最大濃度のドラム缶廃棄体1350本を貯蔵中に航空機が墜落炎上し、全量が放出する場合としてケースBを仮定する。この時の貯蔵ないし放出量は、1号施設の総放射能量に相当する。
放出する放射能の種類と量は、表「管理建屋への航空機墜落で放出される放射能」(全量放出のケース)に示す通りで、ベータ放射能を約1730兆ベクレル、アルファ放射能(アメリシウム241として)を約2330億ベクレルと仮定した。
計算の結果を表「管理建屋への航空機墜落事故での被曝線量」(全量放出のケース)および図「管理建屋への航空機墜落事故での距離と被曝線量」(全量放出のケース)に示す。
■考察
ケースAについて:
3200本貯蔵可能な管理建屋において、最大濃度の廃棄体わずか54本分の放射能放出しか仮定しなかった場合であっても、建屋からの距離300メートルの地点で急性障害発生レベルである259ミリシーベルト、およそ10キロメートルの地点で一般人の年間の被曝線量限度である1ミリシーベルトに達することがわかった。
ケースBについて:
全量放出を仮定したケースBでは、それぞれ管理建屋からの距離が540メートルの地点で半数致死線量(3シーベルト)、約2.5キロメートルの地点で急性障害を引き起こす線量(250ミリシーベルト)に達し、約80キロメートルの地点まで一般人の年間の被曝線量限度を受ける範囲が広がることがわかった。
■参考文献
日本原燃、「六ヶ所低レベル放射性廃棄物埋設センター・廃棄物埋設事業許可申請書」、1988年4月(一部補正、1989年10月)
日本原燃、「六ヶ所低レベル放射性廃棄物埋設センター・廃棄物埋設事業変更許可申請書」、1997年1月