六ヶ所ウラン濃縮施設控訴審:「控訴棄却」の不当判決

六ヶ所ウラン濃縮施設控訴審:「控訴棄却」の不当判決

■5月9日、青森県六ヶ所村にあるウラン濃縮施設(日本原燃)について、住民が国に事業許可の無効確認と取り消しを求めた行政訴訟の控訴審の判決言い渡しが仙台高等裁判所であった。判決は「控訴棄却」という不当なもので、原告(住民)敗訴となった1審(青森地裁)をほとんど踏襲したものである。判決要旨は下記参照。

■裁判の中で原告住民は、ウラン濃縮工場安全審査について工場の耐震設計が震度5までしか想定しておらず、施設周辺の活断層も無視しており安全性に問題があると指摘してきた。これに対し国(経済産業省)は、施設の耐震設計は合理的で、設計の指針では活断層に対する評価は求められていないと主張していた。

■判決は、安全審査においては「活断層については当然考慮されるべき」としたが、一方施設の安全性については「看過し難い過誤や欠落はない」と国の主張を認める矛盾したもとのなっている。活断層を考慮していない安全審査でも問題はないという、まったく非科学的な判断である。

■3月、金沢地方裁判所は「志賀2号機運転差止め訴訟判決」で、現行の「耐震指針」に不備があること、さらにこの「耐震指針」に基づく安全審査でも不十分な点のあることを指摘し、原告住民の訴えを全面的に認めている。この判決以前から、原発の「耐震指針」の欠陥については地震学者、地質学者、原発問題に取り組む住民、市民団体など多方面から指摘されてきた。そのため原子力委員会は、25年ぶりに「耐震指針」の改訂案をまとめるなど、原子力施設の安全審査、耐震基準そのものが全面的に見直されようとしている。今回のウラン濃縮施設控訴審判決は、このような現実をまったく無視した不当な判決である。
 
■判決要旨

■関連情報
【デーリー東北】
www.daily-tohoku.co.jp/kakunen/news2006/kn060510b.htm
www.daily-tohoku.co.jp/kakunen/news2006/kn060510a.htm
www.daily-tohoku.co.jp/kakunen/news2006/kn060508a.htm
【東奥日報】
www.toonippo.co.jp/shasetsu/sha2006/sha20060511.html
www.toonippo.co.jp/kikaku/kakunen/new2006/0510_3.html
www.toonippo.co.jp/kikaku/kakunen/new2006/0510_2.html
www.toonippo.co.jp/kikaku/kakunen/new2006/0510_1.html
www.toonippo.co.jp/news_too/nto2006/0509/nto0509_8.asp
【国:原子力安全・保安院】
www.meti.go.jp/press/20060509003/20060509003.html

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判決要旨

仙台高等裁判所平成18年5月9日判決(控訴提起・平成14年3月28日)

事件番号 平成14年(行コ)第5号

事件名  六ヶ所ウラン濃縮工場の核燃料物質加工事業許可処分無効確認・取消請求控訴事件

原 審  青森地方裁判所平成元年(行ウ)簡第7号(訴え提起・平成元年7月13日)

当事者  控訴人   佐伯隆三外76名
     被控訴人  経済産業大臣二階俊博

主文  控訴棄却

第1 事件概要

1 本件は、青森県六ヶ所村内のいわゆる核燃料サイクル施設といわれるウラン濃縮施設、使用済核燃料再処理施設、低レベル放射性廃棄物埋設施設及び高レベル放射性廃棄物貯蔵施設のうち、ウラン濃縮施設の加工事業許可処分の無効確認ないし取消しが求められた事件である。

 対象となった加工事業許可処分は、日本原燃産業株式会社(当時。現・日本原燃株式会社)が、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(以下「規制法」という。)13条に基づいてした申請に対して、内閣総理大臣が昭和63年8月10日にしたものである。本件許可処分の対象となった加工事業は、ウランとフッ素の化合物である六フッ化ウランのガスを遠心分離機にかけ、ウラン235とウラン238との質量差を利用して天然ウラン中のウラン235の濃度を発電用原子炉の燃料として使用し得る程度である約2ないし4%に高める事業である。

 上記加工事業許可処分について、全国各地に居住する控訴人ら77名を含む172名が、内閣総理大臣に対して、主位的には、ウラン濃縮事業が加工事業に該当しないことや核燃料施設の設置が憲法13条等に違反することなどを理由に上記処分の無効確認を、予備的には、原燃産業が規制法14条1項2号の経理的基礎・技術的基礎を欠いていることや本件施設が基本的立地条件又は施設自体において規制法14条1項3号の許可の基準に適合しないことなどを理由に上記処分の取消しを求めて行政訴訟を提起した(なお、許可権者が内閣総理大臣から経済産業大臣になったことに伴い、本件訴訟は経済産業大臣が承継している。)。

2 原審は、上記172名のうち、1名については死亡による訴訟終了宣言をし、上北郡六ヶ所村内及び隣接する横浜町内に居住する14名を除く157名については原告適格がないとして訴えを却下し、原告適格を認めた上記14名の請求を棄却した。

  この判決に対して、控訴人ら78名が控訴をしたが、うち1名は、控訴を取り下げ、残り77名に対してされたのが本判決である。

第2 争点概要

1 本件で争われた内容は極めて多岐にわたるが、特に重要と思われる事項あるいは控訴審で特に大きく争われた点は、①加工事業許可処分無効確認ないし取消訴訟を提起できる者(原告適格)の範囲はどこまでか、②ウラン濃縮事業は規制法2条6項(現行法同条7項)の「加工」事業に該当するか、③原燃産業に規制法14条1項2号の経理的基礎があったか否かについて本件訴訟で争うことができるか、争うことができるとした場合、原燃産業に経理的基礎があったといえるか、④内閣総理大臣が規制法14条2項に基づいて原子力委員会及び原子力安全委員会に諮問する前に行った審査(所管は旧科学技術庁。)の資料が提出されなかった場合、本件許可処分に不合理な点があることが推認されるか、⑤主に活断層の評価という観点からみて、地震による災害について適切な安全審査がされたか、⑥本件施設に近接する国家石油備蓄基地で発生する火災による災害について適切な安全審査がなされたか、⑦航空機が墜落することによる災害について適切な安全審査がなされたか、の7点である。

2 本判決は、原告適格について一部判断を異にしたが、そのほかは原判決の判断を相当とし、原判決の結論を維持したものである。

第3 判断概要

1 原告適格について(無効確認請求及び取消請求に関連)

 ある処分を定めた行政法規が、個々人の個別的利益を保護すべき趣旨をも含むと解される場合には、当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者には原告適格が認められる。規制法1条に定められた同法の目的、規制法14条1項2号(技術的能力に係る部分に限る。)や同項3号の規定の趣旨、これらの規定が想定しているとみられる被害の性質等にかんがみると、これらの規定は本件施設からもたらせられ得る災害により直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の住民の生命、身体の安全等を保護する趣旨を含むと解される(もんじゆ最高裁判決参照)。そして、本件施設について想定される事故によって直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の住民に当たるといえるか否かについては、本件施設の種類、構造、規模等の本件施設に関する具体的な諸条件を考慮に入れた上で、控訴人らの居住する地域と本件施設の位置との距離関係を中心として、社会通念に照らし、合理的に判断すべきものと解される(もんじゆ最高裁判決参照)。そして、本件施設について上記の観点から想定される事故によって直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の住民は、最大でも本件施設から20km前後の範囲内に居住する住民と認められる。そうすると、控訴人らのうち、六ヶ所村内、横浜町内、野辺地町内及び東北町内に居住する者のうち10名(本件施設からの距離は1.5km~23.5km)に原告適格を認めることができる。なお、この10名中、8名は原審でも原告適格を認められた者であるが、当審では新たに2名についても原告適格を認めた(原審で原告適格を認められた14名中6名は控訴をしていない。)。

2 ウラン濃縮の「加工」事業該当性について(無効確認請求に関連)

 本件施設は、ウラン中のウラン235の存在比率を天然ウランより高めた濃縮ウランを製造することにあり、そこで用いられる濃縮方法は、高速で回転する円筒中に働く遠心力という物理作用を利用してウラン238と質量数の異なるウラン235を円筒の内側に多く集め取り出す遠心分離法であるから、文理解釈上、規制法2条6項(現行法同条7項)でいう「加工」すなわち「核燃料物質を原子炉に燃料として使用できる形状又は組成とするために、これを物理的又は化学的方法により処理することをいう。」に該当する。規制法24条や同44条の2が原子炉設置の許可基準や再処理事業者の指定基準として平和目的を掲げているのに対して、加工事業者の許可基準として平和目的を要求していないのは、「加工」の定義中に原子炉の燃料として使用するためという平和目的が明記されているからにすぎず、また、規制法の制定過程においてウラン濃縮についての明確な議論がされなかったのは、当時の我が国の経済的、技術的事情に照らして、当面はウラン濃縮を国内において事業として行うことが予定されていなかったためであって、立法者が「加工」からウラン濃縮を排除するとの前提に立っていたとは認め難い。

3 経理的基礎について(取消請求に関連。以下、すべて同じ。)

 取消訴訟においては、自己の法律上の利益に関係のない違法を取消事由として主張することはできないところ、規制法14条1項2号において経理的基礎が求められた趣旨は、災害を防止し公共の安全を確保しつつ、国家的かつ長期的視野に立ったエネルギー資源の確保を図ることにあるものと解され、その趣旨は一般的公益を保護しようとするものにとどまり、この面から見た周辺住民の利益はこの一般的公益の実現によって得られる反射的な利益にすぎないと認められる。したがって、経理的基礎の要件を欠くか否かは本件訴訟の審理の対象となる事項ではない。なお、仮に審理の対象になると解したとても、原燃産業が経理的基礎を欠いていたとは認められない。

4 行政庁審査に供された資料の不提出について

 本件においても、まず被告行政庁において、その依拠した具体的審査基準並びに調査審議及び判断の過程等に不合理な点のないことを相当の根拠、資料に基づき主張、立証する必要があり、これをしない場合には被告行政庁がした判断に不合理な点があることが事実上推認されるものと解され(伊方最高裁判決参照)、その主張、立証の範囲には、原子力安全委員会における審査前の行政庁審査段階での調査審議及び判断の過程等についても当てはまるといえる。しかしながら、本件許可申請に対する法適合性の司法審査の本質部分は、各専門分野の学識経験者等を擁する原子力安全委員会での調査審議及び判断の過程等に看過し難い過誤、欠落があるのか否かという点にあるところ、原子力安全委員会での審査資料のほとんどが既に本件では開示されている。そして、行政庁審査での結果が集約された書面が証拠として既に提出されていること、現在散逸しているとうかがわれる行政庁審査で供された資料を提出することは困難であることからみると、行政庁審査に供された資料の全部が本件で提出されていないからといって、その調査審議及び判断の過程等に不合理な点があることが推認される関係にはない。

5 地震による危険について

 地震の発生源として活断層の状況を考慮することを求めている発電用原子炉施設や再処理施設の指針と本件施設に係る加工施設指針を対比してみると、加工施設指針は、設計地震力の検討を敷地及びその周辺地域における過去の記録、現地調査等を参照して行うこととしているものと解され、このような手法も不合理であるとはいい難いから、活断層を地震の原因等と位置付けて検討しなかつたからといって直ちに安全審査の調査審議の過程に看過し難い過誤、欠落があったとはいえない。

 もっとも、一方では、加工施設指針は、「地震」等の自然現象を検討し安全確保上支障がないことを確認することを求めてもいるから、その存在が明らかであって、かつ、活動性が高い活断層は、たとえ加工施設指針が活断層について上記のような立場であるとしても、なおこれを当然に考慮すべきと解される。しかし、控訴人らが指摘する陸域の断層(津軽山地西縁断層帯、津軽湾海底断層、一切山東方断層、出戸(でと)西方断層、横浜断層、野辺地断層、上原子(かみはらこ)断層、天間林(てんまばやし)断層、後川-土場川沿いの断層、吹越烏帽子(ふっこしえぼし)岳付近に発達する断層)や海域の断層(尾駮(おぶち)東方沖辺りから北海道恵山岬東方沖(尻屋崎北方沖)辺りにかけて存する、崖高が200mを越え、最大傾斜30°程度、長さ約84kmの東落ちの断層)について、上記の観点からみて、その存在や本件施設からの距離及び活動性等の点において、本件安全審査において当然考慮すべき活断層とは認められない。したがって、安全審査において、上記の活断層を考慮せず、本件施設において想定される地震動を震度5としたことは結局不合理とはいえず(これは、本件施設において想定される地震動を震度5としたものであって、震度5を超える地震動が生じれば直ちに本件施設が破壊されるということではない。)、安全審査の調査審議及び判断の過程等に看過し難い過誤、欠落はない。

6 国家石油備蓄基地について

 本件施設に近接して浮き屋根式構造の原油タンクが51基設置されている国家石油備蓄基地があるが、そこで火災が発生したとしても、約4kmという距離やそのほかの地理的状況等にかんがみると、その火災によって本件施設に安全性が損なわれるとする根拠を見出し難く、安全審査の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるとすることはできない。

7 航空機の墜落事故について

 安全審査では、航空機が原子力関係施設上空を飛行しないよう規制されていること、本件施設が三沢空港や定期航空路から十分離れていて空港離着陸時の航空機の墜落や定期航空路を巡航中の航空機の墜落を考慮する必要はないこと、また、天ケ森射爆場付近の訓練区域で訓練中の航空機が本件施設の発回均質棟に墜落する確率は10-7(1/年)オーダーの範囲内と極めて小さいことから、本件施設には航空機に対する防護設計は必ずしも必要はないと判断され、念のためとして、航空機が本件施設に墜落した場合の影響を評価し、その場合でも一般公衆に対する影響は小さいと評価されているが、そのような評価・判断をしたことにつき、本件安全審査の調査審議及び判断の過程等に看過し難い過誤、欠落があるとはいえない。したがって、航空機墜落により生じる本件施設の影響評価に誤りがあったとしても、それゆえに、直ちに本件安全審査の調査審議及び判断の過程の看過し難い過誤、欠落にはならない。

 なお、墜落を想定した航空機の選定、エンジン停止という墜落の条件、破壊評価式の選定、衝突に係る各係数の選定、評価基準の設定、コンクリート強度等についての安全審査の影響評価には誤りがあるということはできないが、本件施設の発回均質棟が航空機墜落により破壊されるか否かの検討において、墜落を想定した同じ機種の戦闘機機体重量を一方では10.2t,他方では16tとしているため、安全審査が前提とした算式では、機体重量10.2tのものの衝突速度は150m/s,機体重量16tのものの衝突速度は184m/sとなるはずであるにもかかわらず、機体重量16tのものが150m/sで衝突するという条件設定をしてしまっているかのような部分がある。しかしながら、機体重量を10・2tとすることもあり得ない設定ではなく、したがって、150m/sの衝突速度という設定自体が誤りとまではいえず、機体の重量を16tとしたことは、衝突の影響評価をより安全側にみたことによるものとも解釈できるから、これをもって看過し難い過誤とまでいうことはできない。したがって、このような影響評価のそご・不統一がひいては安全審査の判断を誤らせたものとみることはできない。

第4 結論

 控訴人らのうち、上記10名以外の控訴人らは原告適格を有しないから、これら控訴人らの訴えを却下した原判決は相当である。また、原審で原告適格を 認められた控訴人ら8名の請求は理由がないから、これら控訴人らの請求を棄 却した原判決は相当である。一方、上記10名中2名の原告適格を否定した原判決は不当であるが、既に審理が尽くされているので、原審に差戻しをせずに実体判断をするのが相当であるものの、結局請求には理由がないので請求棄却とすべきところ、不利益変更禁止原則(却下判決よりも棄却判決の方が当事者には不利益である。)により、この2名についても控訴も棄却することとした。

以上