六ヶ所村再処理工場の洗浄水漏えい事故を軽くみてよいのか

六ヶ所村再処理工場の洗浄水漏えい事故を軽くみてよいのか

古川路明(理事)

 2006年4月11日に、六ヶ所村再処理工場の前処理建屋溶解槽セル内で洗浄水の漏えいが起こった。日本原燃は、今度のトラブルについて「溶解槽セル内における洗浄水の漏えいについて」を公表した。その内容に基づいて考えてみたことを以下に記したい。
www.jnfl.co.jp/daily-stat/topics/060412-recycle-b01.html
cnic.jp/360

1.事故の起こり方

 まず、驚いたことはこのような大量の放射能を含む排水がきわめてたやすく床にもれたことである。「大量の放射能」というと抵抗がある人も居るかもしれない。しかし、使用済み核燃料に含まれる放射能の量が非常に大きいので、洗浄水中の放射能であっても、ふつうの感覚では大量といわざるを得ない。

 日本原燃の発表によると、「ハルを洗浄した水を次の工程に移送するために、フレキシブルホースをマニピュレータを用いて、遠隔操作で取り付ける作業を当社社員が行っていました。その際に当該ホース接続部の閉止プラグを取り外すべきところを、誤って閉止プラグと配管を接続している接続用部品を取り外したため、洗浄水(約40リットル)がセル内の受け皿に漏えいしました」とある。

 明らかに初歩的な操作ミスである。人為ミスがあっても大事にいたらないようにする配慮が欠けている設備だと思う。そのような設備であれば,「当社社員」に操作を習熟させ、十分なテストをおこなってから作業をせねばならなかった。現在進められているアクティヴ試験はテストの最終段階である。これまでにこのような操作はおこなわれていなかったのだろうか。

2.洗浄水中の放射能について

 洗浄水中の放射能濃度は、

「全アルファ:約4.1×10^5ベクレル/ミリリットル
全ガンマ:約3.1×10^6ベクレル/ミリリットル
ウラン:約6.5グラム/リットル
プルトニウム:約0.025グラム/リットル」
とある。この数値について考えてみる。

「全アルファ:約4.1×10^5ベクレル/ミリリットル」は大きな値である。法令に定めてあるプルトニウム-239(半減期、24,000年)に対する「排水又は廃液中の濃度限度」は4×10^-3ベクレル/ミリリットルであり、上に示した濃度はその約1億倍に相当する。

「全ガンマ:約3.1×10^6ベクレル/ミリリットル」についても同じような状況にあり、代表的な核分裂生成物であるセシウム-137(同、30年)に対する濃度限度は9×10^-2ベクレル/ミリリットルで、上の濃度はその約3,000万倍に相当する。ベータ線を放出し、骨に集まりやすいストロンチウム-90(同、29年)も約2×10^6ベクレル/ミリリットルの濃度で存在しているはずであり、濃度限度は3×10^-2ベクレル/ミリリットルであるから、上の濃度はその約7,000万倍に相当する。どう考えてもこの溶液を希釈して施設外に放流することはできない。

 洗浄水の体積を40リットルとして、放射能の総量を計算してみる。全アルファは約1.6×10^10ベクレル(160億ベクレル)、全ガンマは:約1.2×10^11ベクレル(1200億ベクレル)、ウランの重量は約260グラム、プルトニウムの重量は約1グラムとなる。

 ガンマ線を放出する主な放射能はセシウム-137である。上で述べた1200億ベクレルのすべてがセシウム-137であるとし、その溶液がポリバケツに入っているとする。バケツの表面から1メートルの距離における放射線量は1時間あたり5ミリシーベルトを超えると予測できる。職業人に対する年間許容線量が20ミリシーベルトであることを考えれば、人はこの場所に立ち入ることはできない。

 アルファ線を放出する放射能には多種類のものがある。ウランはもっとも重量が大きい。ウランとしては、ウラン-234(半減期、25万年)、ウラン-235(同、7億年)、ウラン-236(同、2,300万年)およびウラン-238(同、45億年)が含まれる。260グラムのウランがすべてウラン-238であるとすると、放射能強度は310万ベクレルになる。他の同位体が入っていても3000万ベクレルを超えるとは思えない。

アルファ線を放出するプルトニウムには、プルトニウム-238(半減期、88年)、プルトニウム-239(同、24,000年年)、プルトニウム-240(同、6,600年)およびプルトニウム-242(同、37万年)がある。1グラムのプルトニウムがすべてプルトニウム-239であると考えると、放射能強度は23億ベクレルになる。他の同位体が入っているので、その放射能強度は100億ベクレルに達することもある。プルトニウム-241(同、14年)がベータ崩壊して生じるアメリシウム-241(同、430年)の放射能強度も高く、50億ベクレル程度にはなっていることもあろう。いずれにしても、アルファ線を放出する放射能としては、プルトニウムが重要である。

 洗浄水40リットルが何トンの使用済み燃料を処理したものであるかはわからない。仮に1トンとすると、全体の0.03%が漏えいしたことになる。これは必ずしも低い割合ではない。

3.これからのこと

 アクティヴ試験が始まったばかりに、このようなトラブルが起こった。再処理事業の本流ではないところで起こったので、重大と考えない人も居ると思うが、私は重要なものと受け止めている。気になることをいくつか書いておきたい。

 今度のトラブルによってハルの洗浄水に大量の放射能が含まれることは明らかとなった。他の工程でも同じ程度ないしはそれ以上に汚染された溶液が発生するであろう。このような廃液がどのように処理されるかを見守っていきたい。

 今度のトラブルに関する情報公開の内容は不十分だと考えている。そもそもこの40リットルが洗浄水のすべてであるか、一部なのかがわからない。私が気になったのは、洗浄水中の放射能濃度の値である。このような数値がどのような方法で得られ、どの程度に正確であるがわからない。外部の関心のある者が事態を評価するには、そのような情報の公開が必要である。

 この工場では、人為ミスを誘発しやすい部分が多いと想像できる。テストは慎重に進められねばならないであろう。大規模な再処理は必要がないと考えている私としては、テストによってこの事業が無意味なことを確認する結果になることを望んでいる。

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