女川原発の耐震設計に関する公開質問状
2006年1月16日
経済産業大臣 二階俊博様
原子力安全・保安院院長 広瀬研吉様
原子力安全委員会委員長 松浦祥次郎様
女川原発の耐震設計に関する公開質問状
2005年8月16日の宮城県沖プレート境界地震で、女川原発3基すべてが自動停止しました。2003年5月26日の三陸南スラブ内地震でも、当時唯一運転中だった3号炉が自動停止しています。いずれも原発の耐震性にとって致命的な短周期成分の強い地震動でした。しかも、宮城県沖プレート境界地震では、女川原発敷地内地下岩盤O.P.-8.6mでの観測記録に基づく解放基盤表面相当の地震動(以下「はぎとり波」という)の応答スペクトルが女川原子力発電所原子炉設置許可申請書(以下「設置許可申請書」という)の基準地震動S1およびS2の応答スペクトルを超えていました。女川周辺では、今後30年以内に、より強いプレート境界地震やスラブ内地震の起こる可能性が極めて高く、女川原発がそのような地震動に耐えられない可能性があり、耐震設計の見直しが急務です。
そこで、女川原発の耐震設計に関し、緊急に以下の公開質問状を提出致します。原発震災の脅威から地元住民、地震列島住民を守るため、これを真摯に受け止め、1月18日の交渉日の数日前に文書で回答して頂き、それに基づいて説明して頂きたく強く要請致します。なお、本質問状は2005年12月13日付けで提出した質問状に「3.女川原子力発電所設置許可申請における耐震設計について」の(5)・(6)および「5.老朽原発の耐震設計について」の(3)を追加したものです。
1.2005年8月16日の宮城県沖プレート境界地震について
(1)東北電力が2005年11月25日に原子力安全・保安院へ提出した「女川原子力発電所における宮城県沖の地震時に取得されたデータの分析・評価および耐震安全性評価について(報告)」(以下「11月報告」という)によれば、はぎとり波の応答スペクトルは短周期側で極めて大きい。東北電力自身が11月報告で認めているように、原発耐震設計で広く用いられている大崎の方法による応答スペクトルを0.02~2秒の全周期で超えている。原発内重要機器の固有周期帯である0.03~0.4秒では4~9倍にも達する。この事実によれば、プレート境界地震においては、短周期地震動が極めて強い場合があること、内陸地殻内地震(いわゆる「活断層による地震」)に対して策定された応答スペクトルを海洋プレート境界地震に準用(震源が深い場合には震源深さで最大速度が小さくなる比率を求め、この比率で応答スペクトルを下げている)すると、応答スペクトルを4~9分の1にも過小評価する場合があることを率直に認めるべきだと私たちは考えるが、いかがか。
(2)東北電力は11月報告でこのような強い短周期地震動は「宮城県沖近海のプレート境界に発生する地震の地域特性による」と結論付けている。しかし、11月報告で比較している宮城県沖遠方のマグニチュードM6.3のプレート境界地震は震源深さH=14kmであり、大崎スペクトルが対象としているM6.3の内陸地殻内地震の平均的震源深さH=6.2kmと大差なく、大崎スペクトルで包含できるとしても不思議ではない。むしろ、「近海」と「遠方」の違いは地震が起こるプレート位置の深さの違いであり、断層モデルで言えば、「震源断層のアスペリティが深い位置にあり、応力降下量が大きい場合に短周期地震動が極めて大きくなる」という地震学の最近の知見を事実で裏付けたものと言えると私たちは考えるが、いかがか。したがって、宮城県沖近海だけでなくプレートが深く沈み込んだ位置で起きるプレート境界地震では短周期地震動が極めて強くなる場合があることを念頭に置いて十分安全サイドに立った耐震設計を行うべきだと私たちは考えるが、いかがか。
2.2003年5月26日の三陸南地震について
(1)東北電力は11月報告で初めて2003年5月26日の宮城県沖地震(M7.1、震央距離Δ=48km、震源深さH=約72km、気仙沼大島近くで起きたスラブ内地震であり、「三陸南地震」と命名されている)のはぎとり波を公表した。はぎとり波の応答スペクトルは今回のプレート境界地震と同様に短周期側で極めて大きい。東北電力自身が11月報告で認めているように、0.12~0.14秒および0.07秒以下の短周期側で、設計用最強地震による基準地震動動S1を超えている。また、0.03~0.06秒付近で設計用限界地震による基準地震動S2-Dをも超えている。
東北電力はS2-Dを策定する際、M7.6、Δ=20kmのプレート境界地震の応答スペクトルを大崎スペクトル(地震動の最大速度を震源深さで調整)で求めており、これと同様に三陸南地震に対する大崎スペクトルを求めると別紙図のようになる。三陸南地震のはぎとり波の応答スペクトルは0.02~2秒の全周期で別紙図の大崎スペクトルを超えている。0.03~0.2秒の周期では今回の宮城県沖プレート境界地震と同様に4~9倍に達する。
スラブ内地震についてはその発生原因について未知な部分が多いが、沈み込んだプレート内の深い位置で起きるスラブ内地震については、このように短周期地震動が極めて大きくなり、原発の耐震設計においては極めて重要だと私たちは考えるが、いかがか。
プレート境界地震と同様にスラブ内地震についても大崎スペクトルで応答スペクトルを評価すると、4~9分の1に過小評価する場合があり、スラブ内地震の短周期地震動を過小評価することなく保守的に評価する方法を早急に確立すべきであると私たちは考えるが、いかがか。
(2)東北電力は11月報告で最大規模のスラブ内地震をM7.2と評価しているが、その理論的根拠はなく、歴史的に短い間の観測記録に基づいているに過ぎない。三陸南地震のように短周期地震動が強いスラブ内地震については地表での家屋等の被害は比較的少なくてすみ、歴史地震として記録に残される可能性も低い。これらを考慮すればM7.2を超えるスラブ内地震を想定しないのはスラブ内地震の過小評価になると私たちは考えるが、いかがか。
(3)東北電力はM7.2の最大規模のスラブ内地震を女川原発直下(震央距離Δ=0km)、震源深さH=70kmの位置に設定している。また、これによる応答スペクトルを推定するために三陸南地震のはぎとり波を用い、距離減衰式から求めた最大加速度の比で応答スペクトルを少しだけ大きくする方法をとっている。しかし、沈み込んだプレートは傾斜しているため、女川原発との震源距離が最小になるスラブ内地震の位置は原発直下のΔ=0kmではなく、Δ=約30km、H=約50km、震源距離X=約60kmだと推定される。また、スラブ内地震の周波数特性が三陸南地震の観測記録で代表できるという保証もない。プレート境界地震のように断層モデルを同定し、安全サイドにパラメータ設定を行って応答スペクトルを評価しない限り、スラブ内地震の応答スペクトルを短周期側で過小評価することになると私たちは考えるが、いかがか。
(4)貴職は三陸南地震のはぎとり波の応答スペクトルがS1およびS2-Dの応答スペクトルを短周期側で超えていることをいつ知ったのか。地震後に唯一運転中だった女川3号炉が自動停止した際に、今回のような調査・分析の指示をなぜ出さなかったのか。それは貴職の職務怠慢ではないのか。東北電力が女川原発の耐震性の確認を行うために当時、はぎとり波の分析を行わなかったとしたら、それは保安規定違反ではないのか。
3.女川原子力発電所設置許可申請における耐震設計について
(1)女川原発の設置許可は「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」(以下「審査指針」という)に基づく安全審査に基づいて出されており、この審査指針に反していることが明らかになれば、設置許可処分を行った行政庁が責任を持って当該処分の取り消しを含む見直しを行わなければならないと私たちは考えるが、いかがか。
(2)審査指針では、設計用最強地震および設計用限界地震による基準地震動S1およびS2の策定法を定めており、その方法によって「策定されていなければならない」とされている。S1については、「歴史的資料から過去において敷地又はその近傍に影響を与えたと考えられる地震が再び起こり、敷地及びその周辺に同様の影響を与えるおそれのある地震及び近い将来敷地に影響を与えるおそれのある活動度の高い活断層による地震のうちから最も影響の大きいものを想定する。」とある。宮城県沖地震については海底活断層、プレート境界地震およびスラブ内大地震(沈み込んだプレート内地震)の3種類があり、歴史的資料においてはこれらが必ずしも明確でない場合がある。その場合には敷地に対する影響が最も大きい地震を想定すべきである。
さらに、審査指針では「基準地震動は、次のそれぞれが適切であると評価できるものでなければならない。(i)地震動の最大振幅、(ii)地震動の周波数特性、(iii)地震動の継続時間及び振幅包絡線の経時的変化」とされている。
ところが、2005年8月16日の宮城県沖プレート境界地震はおよび2003年5月26日の三陸南スラブ内地震はいずれもS1の応答スペクトルを短周期側で超えてしまった。わずか2年程度で2回もS1が超えられたというのは異常である。しかも、女川原発の設置許可申請書ではスラブ内地震を全く考慮しておらず、安全審査においてもこれが無視されていたという重大な瑕疵がある。これは明らかに「敷地又はその近傍に最も大きな影響を与えるものを想定するように策定されていなければならない」という審査指針に違反しており、S1の策定が間違っていたにもかかわらず誤って設置許可を出してしまったと判断すべきであると私たちは考えるが、いかがか。
審査指針で「策定されていなければならない」と要請されている通りにS1が策定されていないことが判明した以上、設置許可を取り消すか、無効処分とし、設置変更許可申請を出させて耐震設計を審査し直すべきだと私たちは考えるが、いかがか。
(3)S2については、「地震学的見地に立脚し設計用最強地震を上回る地震について、過去の地震の発生状況、敷地周辺の活断層の性質及び地震地体構造に基づき工学的見地からの検討を加え、最も影響の大きいものを想定する。」とある。S2ではとくに「発生する応力に対して、構造物の相当部分が降伏し、塑性変形する場合でも過大な変形、亀裂、破損等が生じ、その施設の機能に影響を及ぼすことがないこと。」が設計条件となっており、地震動がこのS2を超えるような事態はあってはならない。
ところが、2005年8月16日の宮城県沖プレート境界地震ではS2-Dを0.035~0.07秒の周期帯で超え、2003年5月26日の三陸南スラブ内地震では0.03~0.06秒付近でS2-Dを超えてしまった。S1と同様にわずか2年程度で2回もS2-Dが超えられるというのは極めて異常である。
審査指針で「策定されていなければならない」と要請されている通りにS2-Dが策定されていないことが判明した以上、設置許可を取り消すか、無効処分とし、設置変更許可申請を出させて耐震設計を審査し直すべきだと私たちは考えるが、いかがか。
(4)2005年8月16日の宮城県沖プレート境界地震および2003年5月26日の三陸南スラブ内地震の経験からは、S1およびS2の応答スペクトルを策定する際には、プレート境界地震やスラブ内地震に大崎スペクトルを適用すると大幅な過小評価になる場合があることは明らかであり、女川原発に限らず、プレート境界地震やスラブ内地震の応答スペクトルでS1およびS2が策定されている原子力発電所については設置許可を取り消すか、無効処分とし、設置変更許可申請を出させて耐震設計を審査し直すべきだと私たちは考えるが、いかがか。
その上で、プレート境界地震やスラブ内地震の応答スペクトルの安全サイドに立った保守的な策定法を検討すべきだと私たちは考えるが、いかがか。
(5)東北電力が今回の評価報告書で「設定した地震動は、基準地震動とは表現していないが『同等なもの』(経済産業省原子力安全・保安院)と言える。」(河北新聞2005年12月28日)と報道されているが、これは、「安全審査で設定された設計用最強地震および限界地震による基準地震動S1およびS2を東北電力が今回差し替えた」と原子力安全・保安院が判断しているということになるのか。もし、そうであれば、安全審査における基準地震動の設定が間違っていたということを原子力安全・保安院が自ら認めたものと私たちは受け止めるが、それに相違ないか。
そうであれば、国の責任で安全審査の瑕疵を認め、女川原子力発電所の設置許可をなぜ取り消さないのか。また、なぜ、設置許可変更申請を出させて安全審査をやり直させないのか。基準地震動の設定がなぜ間違っていたのか、誰に責任があるのかを明確にすべきではないか。それを検討する調査委員会を経済産業省や原子力安全委員会とは独立した機関として設置し、調査検討すべきだと私たちは考えるがいかがか。
女川原子力発電所の原子炉設置許可申請書では、最強地震による基準地震動を策定する際には、想定した地震による応答スペクトルを包絡させる際に2倍の安全余裕を見てS1-Dを設定している。ところが、今回の評価に際しては、宮城県沖想定地震による応答スペクトルに対して、このような安全余裕を全く考慮していない。これでは、安全審査で設定すべき基準地震動とは似ても似つかぬ想定地震動を設定して形だけの耐震安全性の評価をしたにすぎないと私たちは考えるが、いかがか。安全審査をやり直し、基準地震動を審査指針に基づいて設定し直すべきだと私たちは考えるが、いかがか。
(6)女川原子力発電所原子炉設置許可申請書(2号原子炉の増設、1987年4月)では、プレート境界地震またはスラブ内地震と明記してはいないが、過去の地震として1897年2月20日「仙台沖の地震」(M7.4、Δ=48km、H=?km)、1936年11月3日「金華山沖の地震」(M7.5、Δ=62km、H=40km)および1978年6月12日「1978年宮城県沖地震」(M7.4、Δ=65km、H=40km)を挙げている。このうち、「敷地に最も大きな影響を与えたと推定される1897年仙台沖の地震」を設計用最強地震の一つ(S1-1)として採用し、内陸地殻内地震(いわゆる活断層による地震)で用いられている大崎の方法で応答スペクトルを求めている。しかし、沈み込んだプレートにおけるプレート境界地震およびスラブ内地震では原発にとって重要な短周期の地震動が内陸地殻内地震より格段に強く発生することは当時すでに知られていた[1][3]。震源断層のアスペリティにおける応力降下量が大きいほど震源近傍での最大加速度や最大速度が大きいこともすでに知られていたし[3]、スラブ内地震のほうがプレート間地震より応力降下量が大きいことも知られていた[1][4]。また、震源深さが深いほど地震動強さが大きいことも当時すでに明らかであった[8][9][10][11][12]。東北日本での深発地震の特性についてもすでに研究されており[2]、これらの研究成果に注目しておれば、沈み込んだプレートにおけるプレート境界地震やスラブ内地震が敷地境界へ及ぼす影響を過小評価することはなかったと私たちは考えるが、いかがか。
したがって、女川原子力発電所に関する耐震設計の安全審査には重大な瑕疵があると私たちは考えるが、いかがか。
参考:女川原子力発電所の設置許可等年月日
│ (万kW)│ 設置許可│ 工事認可│運転開始│
│ 1号(52.4)│ 1970.12.1│ 1971.5.29│ 1984.6. 1│
│ 2号(82.5)│ 1989. 2.28│ 1989.6.8│ 1995.7.28│
│ 3号(82.5)│ 1996. 4.12│ 1996.9.11│ 2002.1.30│
参考文献
[1] Kanamori,H.,D.L. Aderson:Theoretical Basis of Some Empirical Relations in Seismology,Bull. Seism. Soc. Am., Vol. 65, pp.1073-1095, 1975
[2]海野徳仁・長谷川昭, 東北日本にみられる深発地震面の二層構造について, 地震, Vol.27, pp.125-139, 1975
[3] McGarr, A., R. W. E. Green, and S.M. Spottiswoode: Strong Ground Motion of Mine Tremors, Some Implications for Near-Source Ground Motion Parameters, Bull. Seim. Soc. Am., Vol.71, pp.295-319,1981
[4]SchoIz,C.H.:Scaling Laws for Large Earthquakes:Consequences for Physical Model,Bull. Seism. Sci. Am., Vol. 72, pp.1-14, 1982
[5] McGarr, A: Scaling of Ground Motion Parameters, State of Stress, and Focal Depth, J. Geophys. Res., Vol.89,pp.6969-6979,1984
[6]安中正・山谷敦・桃林治彦・野沢是幸:関東および周辺地域の地震観測記録を用いた基盤における最大加速度推定式の検討,第19回地震工学研究発表会講演概要,pp.129-132,1987
[7]Molas, G. L., and F. Yamazaki: Attenuation of Earthquake Ground Motion in Japan including Deep Focus Events,Bull. Seim. Soc. Am., Vol. 85,pp.295-319,1995
[8]三雲健:地震を発生させる応力の大きさと断層の破壊,月刊地球,Vo.12,pp.560-568, 1992
[9]安中正・山崎文雄・片平冬樹:気象庁87型強震計記録を用いた最大地動及び応答スペクトル推定式の提案,第24回地震工学研究発表会講演概要,pp.161-164,1997
[10]Youngs, R. R.,S.J.Chiou, W. J. Silva, and J. R. Humphrey: Strong Ground Motion Attenuation Relationships for Subduction Zone Earthquakes, Seism. Res. Lett., Vol. 68, pp.58-73, 1997
[11]加藤研一・武村雅之・八代和彦:強震記録から評価した短周期震源スペクトルの地域性,地震、第2輯、第51巻,pp.123-138,1998
[12]司宏俊・翠川三郎:断層タイプ及び地盤条件を考慮した最大加速度・最大速度の距離減衰式,日本建築学会構造系論文報告集,No.523, pp.63-70 (1999)
4.東北電力による想定地震動および
安全確認地震動について
(1)東北電力は想定宮城県沖地震AおよびBを用いて応答解析を行い、発生応力が基準地震動S1に対する許容値以下であることを確認し、安全確認地震動を用いて応答解析を行い、発生応力が基準地震動S2に対する許容値以下であることを確認している。しかし、これは審査指針が求める基準地震動S1およびS2の策定とは全く無関係な確認行為である。これらの地震動をS1およびS2に代わるものとして扱うというのであれば、設置変更許可申請を行う以外にないと私たちは考えるが、いかがか。したがって、このような確認行為は、S1およびS2の策定が審査指針に違反している状態を何ら解消するものではないと私たちは考えるが、いかがか。
(2)設置変更許可申請を行って想定宮城県沖地震AをS1に追加するのであれば、推本の断層モデルのパラメータを修正すべきである。。
東北電力の11月報告によれば、「統計的グリーン関数によって策定した今回(2005年8月16日)の宮城県沖プレート境界地震断層モデル(アスペリティのみを考慮したモデル)」のアスペリティは2つあり、その面積は64km2と24km2で非常に小さく、実効応力(応力降下量にほぼ等しい)は38.9MPa、89.8MPaと極めて大きい。地震調査研究推進本部(以下「推本」という)が策定し東北電力が11月報告で用いている「想定宮城県沖地震動(ケースA1)」の断層モデルでは、今回の地震と同様に2つのアスペリティがあるが、面積がいずれも96km2と大きく、実効応力が29.0MPa、72.6MPaと小さい。今回の地震の規模はM7.2(モーメントマグニチュードMw7.1)だが、今後宮城県沖で起こりうる地震の規模は推本によりMw7.6、今回の約6倍の規模と推定されている。その女川原発への影響を評価する際には、少なくとも応力降下量を今回以上に大きくとらなければ短周期地震動の原発への影響を過小評価することになると私たちは考えるが、いかがか。
ちなみに、推本の断層モデルは1978年の宮城県沖地震(プレート境界地震M7.4、Δ=65km、H=40km:女川原発設置許可申請書)で観測された地表での観測波形、最大速度および震度に適合するように断層パラメータが設定されている。しかも、推本は、二つのアスペリティの面積と応力降下量を種々変えて計算した結果、応力降下量の比を1:2.5と大きくしなければ、観測記録と調和しなかったと説明している。また、震源断層の面積に対するアスペリティの総面積の比は約9%と極めて小さく、通常の35±11%(24~46%)程度より小さくなっているという。つまり、地表での観測記録に適合させるためには応力降下量などを特別に調整する必要があり、この設定が決定的に重要だということである。とくに、推本の断層モデルは0.1~10秒という広い周期帯を対象としているが、原発では0.03~0.4秒の周期帯での評価が重要であり、推本の断層モデルを原発への評価にそのまま用いるのはそもそも無理がある。統計的グリーン関数法や要素地震に短周期地震動の強いものを採用した経験的グリーン関数法を適用するとしても、断層モデルの応力降下量が過小評価されていれば、その評価結果は短周期地震動を過小評価することになる。原発への短周期地震動の影響を過小評価しないためには、推本の断層モデルをそのまま用いるのではなく、少なくとも、今回の地震を再現した断層モデルのパラメータ以上に大きな応力降下量を設定する必要があると私たちは考えるが、いかがか。
(3)設置変更許可申請を行って安全確認地震動をS2-Dに加えるというのであれば、その前にまず、現在のS2-Dを規定している「地震地体構造に基づくプレート境界付近の地震(M7.6、Δ=20km、震源深さH=45km)」の大崎スペクトルを修正すべきだと私たちは考えるが、いかがか。このプレート境界付近の地震の応答スペクトルは、M7.6、Δ=20kmの内陸地殻内地震(Δ=17.7km)の大崎スペクトルをまず求め、震源深さを17.7kmから45kmへ深くして地震動の最大速度を2分の1以下に小さく評価し直し、これに合わせて応答スペクトルを2分の1以下へ小さく策定している。ところが、今回(2005年8月16日)の宮城県沖プレート境界地震では、こうして得られる大崎スペクトルと比べて実際の地震動が短周期側で4~9倍にもなることが判明している。したがって、このプレート境界付近の地震の応答スペクトルを4~9倍すれば現在のS2-Dはもとより、東北電力が11月報告で新たに策定した安全確認地震動をもはるかに超えることになる。このように、プレート境界地震の応答スペクトルの正確な評価法を検討することなく恣意的に設計用限界地震による地震動を設定し直すとすれば、基準地震動の過小評価を繰り返すだけだと私たちは考えるが、いかがか。
5.老朽原発の耐震設計について
(1)設置変更許可申請を行って基準地震動S1およびS2を設定し直し、補強工事を行うなどして審査指針の要求を満たしたとしても、女川原発はすでに稼働しており、老劣化が進んでいる。材料の強度や構造が建設時点より劣化しており、基準地震動による発生応力が設計時点の許容応力以下に収まるとしても、実際の建屋・構築物および機器・配管系に発生する応力が実際の許容応力以下であると、一体どのようにして確認するのか。
(2)原発の維持基準(健全性評価の基準)では、審査指針で求められている「S1に対して変形が残らない」という基準がなく、「S2に対して安全機能が維持される」という基準だけになっている。原発の新設時と稼働中とで耐震性の基準が異なるというダブルスタンダードになっている。設置変更許可申請を行って基準地震動を設定し直した際に「S1に対して変形が残らない」という基準を確認するのであれば、維持基準においてもこの基準を一貫して適用すべきだと私たちは考えるが、いかがか。
(3)女川1号機は運転開始から22年近く経ち、2号機も11年以上経つ。そのような原発で基準地震動を超える地震動に襲われるという事態が現に起きた以上、耐震安全性の評価や運転再開の是非の検討にあたっては、建屋・構造物や機器・配管の劣化や工事の不備なども考慮して、できる限り保守的に対処すべきだと私たちは考えるが、いかがか。
東北電力による女川2号の耐震安全性評価を妥当とした原子力安全・保安院の評価では、このような老劣化や工事の不備の可能性を全く考慮していないが、これでなぜ妥当だと言えるのか。
6.変形する機器の安全機能維持の確認について
(1)東北電力の11月報告による応答解析によれば、安全確認地震動で発生する応力は、AsおよびAクラスでも原子炉圧力容器(N2ノズル)、残留熱除去系配管(RHR-009)、原子炉格納容器調気系配管等で降伏応力を超え、変形することになる。解析上、S2の許容値は超えていないが、これで安全機能が維持されるとどのようにして確認できるのか。
(2)また、隔離弁より外側の主蒸気系配管などBクラスの1次系は破壊される可能性が高いが、それでもAクラスやAsクラスへの影響がないと一体どのようにして確認できるのか。審査指針で求めている耐震重要度で「上位の分類に属するものは、下位の分類に属するものの破損によって波及的破損が生じないこと。」という要求をどのように確認したのか、具体的に説明されたい。
以上
呼びかけ団体:
原子力発電を考える石巻市民の会、
みやぎ脱原発・風の会、
若狭連帯行動ネットワーク、
原子力資料情報室
共同提出賛同団体・個人(1.14現在57団体143個人)