東海第二原発 ―間に合わせの安全性―

『原子力資料情報室通信』第531号(2018/9/1) より

東海第二原発 ―間に合わせの安全性―

運転期限までに審査を終えるため?

東海第二原発は1978年11月28日に営業運転を開始した。日本国内にある原発としては、廃炉にはなっていない中でもっとも古い沸騰水型原発である。新基準適合性審査のための原子炉設置変更許可申請が2014年5月20日に日本原子力発電(以下、日本原電)から原子力規制委員会に出された。その後、規制委員会における審査がすすめられ、2018年7月4日に審査書案がまとめられた。7月5日から8月3日までの期間に審査書案に対する科学的・技術的意見をもとめる「パブリックコメント」(行政手続法には基づかない任意の意見募集)がおこなわれた。現在は、規制委員会側で寄せられた意見への対応がすすめられているところだ。
これと同時並行で、本来なら原子炉設置変更許可がおりてからおこなうはずの工事計画認可申請の審査(と運転期間延長手続きに関する審査)も、特例的にすすめられている。3か月後にせまっている、40年の運転期限までに“間に合わせる”ためである。

これまでの事故・故障の報告件数
これまでの運転期間中に東海第二原発では、261件のトラブル(事故・故障)が報告されている(NUCIAのデータベースに登録されているもの)。内訳は、原子炉等規制法や電気事業法に基づいて国への報告が必要なもの(T)が57件、「保安活動の向上の観点などから産官学で情報共有することが有益な情報」と分類されているもの(M)が172件、それ以外の「原子力発電所運営の透明性向上の観点から電力会社がプレス発表やホームページへの掲載などにより公表している情報」と分類されているもの(S)が32件となっている。年別の事故報告件数をみてみると、最近の傾向としてはT分類のものが少なく、M分類が増えてきている。全体としても、増えている印象だ。M分類といっても軽微なものばかりとは限らない。いくつかの事例を紹介する。

中性子束計測ハウジングのひび割れ
まずT分類のものの中から1999年6月11日に起きた事例。原子炉の炉心部の中性子を計測する装置を収納している管(中性子束計測ハウジング)にひび割れが発生し、原子炉の底部から水が漏れているのが見つかった。超音波による検査の結果、55本ある中性子束計測ハウジングのうち1本の管の原子炉底部への溶接部付近に、長さ3~4ミリの貫通亀裂が3ミリ間隔で2本見つかった。管の厚さは6ミリ。ステンレス製(SUS304)の中性子束計測ハウジングが応力腐食割れを起こしたものと推定され、当時の定期検査では、管の内面に内張りを溶接する対策がとられた。次の回の定期検査中(2001年、第18回)に中性子束計測ハウジングの取り替え工事をおこなった。取り替えの際に、耐腐食性の高いとされる材料(SUS316)を採用し、溶接時の残留応力の除去としてウォータージェットピーニングを施したり、原子炉水中に水素ガスを注入して溶存酸素の濃度を下げるなど、応力腐食割れが起こりにくい環境になったとされるが、完全に可能性がなくなっているわけではない。取り替えたのは1本だけで、54本はもとの管のままである。

シュラウドサポートのひび割れ
次にM分類とされているものから、シュラウドサポートのひび割れについて紹介する。2005年5月24日、定期検査中(第21回)に水中カメラで炉内構造物を点検したところ、炉心シュラウドの台座にあたるシュラウドサポートのシリンダ部(インコネル600合金製)の3か所にひび割れが見つかった。シリンダの外側の鉛直方向溶接部(V8)の板厚63ミリのインコネル182合金製の溶接部材に、深さ42ミリ、46ミリ、13ミリの亀裂ができていた。原因を応力腐食割れと推定し、技術基準を満たさなくなるまでの年数は20.6年と評価された。シュラウドサポートには補修は施されず、そのまま使用がつづけられている。定期検査ごとに継続的に溶接線を検査し、ひび割れの進展が予測した範囲に収まるかどうかをチェックすることになっている。
第24回の定期検査では、3つのひび割れがそれぞれ深さ53ミリ、63ミリ(貫通した)、20ミリへと進展しているのが確認された。これに加え、目視検査および超音波検査によって新たに、シュラウドとシュラウドサポートの水平溶接部(H7)の内表面で33か所、シュラウドサポートのシリンダ部の縦方向溶接部(V8)の内表面に5か所(うち1か所は第21回定期検査で見つかったものが貫通したもの)のひび割れが見つかっている。合計で40か所のひび割れが存在している。いまのところ確認されているひび割れは1か所を除いて鉛直方向寄りのものばかりである。しかし、このまま運転し続けると、H7に水平方向(周方向)のひび割れがいくつか発生する可能性があり、その場合にはH7の位置でシュラウドとシュラウドサポートの間にズレを生じる危険性もある(鉛直方向に多数のひび割れが発生しても似たような状況がうまれる)。

低圧タービン動翼のひび割れ

NUCIAのデータベースには登録されていない事例も紹介しておく。第25回定期検査中の2011年12月5日に、低圧タービン(B)の車軸への動翼取り付け部の3か所にひび割れが見つかった。それぞれのひび割れの大きさは、(長さ,深さ)の順にならべると、(41.3ミリ,6.5ミリ)、(29.6ミリ,3.8ミリ)、(54.7ミリ,6.1ミリ)である。東海第二原発では、1989年および1991年に、タービン動翼を全面的に交換している。日本原電は、応力腐食割れによるひび割れと推定している。東北地方太平洋沖地震が発生したとき、東海第二原発はタービン軸の振動大の信号によって緊急停止したが、ここでのひび割れとは直接リンクしないと日本原電はみている。日本原電は、ひび割れを削って取り去ったのち、タービン動翼を組立直した。動翼の材質の変更などは、今後検討するという。

審査会合の開催状況
東海第二原発の新基準適合性に関する審査会合は、2014年6月17日に開始されてから、現在までのところ(最新の会合は2018年8月23日)、107回を数える。そのうち3回は議論のテーマが「大規模な自然災害又は故意による大型航空機の衝突その他のテロリズムへの対応」であったため、会合そのものも非公開で、配付資料や議事録もなく、素っ気ない調子の議事概要だけが公表されている。公開でひらかれている審査会合の裏で、事業者と規制庁が事前に会合の資料を確認するなどの名目で打ち合わせをする審査ヒアリングが、非公開の場でおこなわれている。その回数は、審査内容に関するものが1136回、地震に関するもの83回、である。それ以外にも、東海第二原発の関連では運転延長に関する会合が39回、審査の進行に関するものが数十回くわわる。非公開の審査ヒアリングで実質的にすすめられているのではないか、と疑わせるほどである(ほかの施設に関する審査ではあるが、審査会合の席上で、「くわしいことは後ほどヒアリングで確認する」などという発言が,規制庁側からも事業者側からも出てくることがたびたびある)。

可燃性ケーブルの使用、解放基盤表面の設定・・・

火災防護に関する審査指針では、電線ケーブル・信号ケーブルともに難燃性ケーブルを使用することを原則として求めているにもかかわらず、簡単に可燃性ケーブル(日本原電は非難燃性ケーブルと呼んでいる)を使用し続けることを認めてしまっている。東海第二原発では建設時に難燃性ケーブルを採用していないため、その後の改良工事によって交換したもの以外は可燃性のケーブルである。延焼防止対策や追設の防火策などを施すとしても、それを突破されればただちに危険な状態に陥りかねないため、可燃性ケーブルの継続使用はいっさい認めない方針で審査に臨むべきであった。
東海第二原発の敷地の地盤は軟弱でいちじるしく悪い。建屋の直下が人工岩盤(分厚いコンクリート)になっているほどである。このため、基準地震動Ssを設定する解放基盤表面の位置が、地表から
-370メートルの位置になっている。これは、おなじように地盤のよくない柏崎刈羽(荒浜側-284メートル、大湊側-134メートル)や大間(-260メートル)に比べてもずっと深い位置になっている。これによって、東海第二原発では、たとえばSs-22という地震動で考えると、解放基盤表面では最大加速度が1009ガルであるが、地層を載せて計算すると入力地震動の最大加速度は600ガル以下で、建屋直下の位置で少しだけ増幅して610ガルと、かなり数値が離れてしまっている。
人的資源と上に述べたような時間を使って審査をおこなっているのだから、相当きちんとした審査がやられているのかと思えば、そうでもない。

(上澤千尋)

【付表】 東海第二原発の審査会合における審議状況