福島はいま(19)計画・建設はやめよ!汚染木材を使ったバイオマス発電

『原子力資料情報室通信』第555号(2020/9/1)より

 福島県内で汚染木材を燃料にする木質バイオマス発電施設の建設・計画が進んでいる。しかも、政府の交付金を活用して建設し、固定価格買取制度(FIT)による売電という、濡れ手に粟のようなことが行われている。交付金支出+FITも問題だが、燃料が放射能(放射性セシウム)で汚染されている点も見過ごせない。燃焼によって放射能が拡散されるからだ。
 政府の交付金は福島再生加速化交付金(現在は福島帰還環境整備交付金と改名)だ。復興庁の同交付金交付可能額通知によれば、2014年から20年6月までの合計は3,340億円にのぼる。同交付金の事業項目は48にも及び、そのうちの一つに木質バイオマス施設等緊急整備事業(以下、木質整備事業)がある。所管は農林水産省である。
 交付金概要によれば、木質整備事業の目的は、木質バイオマスや小水力等再生可能エネルギー供給施設、木造公共建築物及び木材加工流通施設等の整備により、地域の資源活用を推進する、としている。補助の対象となるのは、①木質バイオマス関連施設の整備、②木造公共建築物の整備、③再生可能エネルギー導入調査設計・施設整備、④木材加工流通施設等の整備となっている。対象地域は12市町村で、交付団体は福島県、市町村。実施主体は県、市町村、民間団体となっている。国庫補助率は設備費の4分の3で残りを事業実施主体が調達する(ただし、③については国による定額補助)。
 上記の期間で木質整備事業として交付通知されたのは3件で、17年に田村市木質バイオマス発電施設等整備事業で52億2,200万円、同年の浪江町交流・情報発信拠点施設整備事業で6億5,100万円、18年福島県木材加工流通施設等整備事業55億2,000万円である。
 なお、一般木材等を燃料とする木質バイオマス発電の19年度以降のFIT価格は出力1万kW未満の場合、1kWh当たり24円+税となっている。
 発電事業としては田村市だけであるが、さらに現在、飯舘村が申請中という。

田村市のバイオマス発電計画
 (株)タケエイが田村市と共同で2016年に設立した(株)田村バイオマスエナジー(以下、田村BE)が進める事業で、資本金は5,000万円のうち田村市の出資は1,000万円となっている。7,100kWの発電能力をもつ。燃料の必要量は明記されていないが、後述する飯舘村の計画では7,500kWの設備に対し燃料の年間消費量は9.5万トンとしているので、これに近い燃料必要量となると推察される。
 建設地は田村市大越町の田村市産業団地内にあり、2019年1月から建設工事に入っている。操業は20年夏頃の予定とされている。
 タケエイは、廃棄物処理・リサイクル事業から出発して、2013年に木質バイオマス発電事業に参入した会社だ。15年に青森県平川市、17年に岩手県花巻市、19年に秋田県大仙市、神奈川県横須賀市で営業運転を開始している。
 田村市での冨塚宥暻(とみつかゆうけい)前市長との間で16年に交わされた当初の協定では、白チップ(樹皮を含まず)のみを扱い、チップ製造工場は設置しない内容だった。ところが、17年の市長選挙で、本田仁一(じんいち)氏が当選したのを期に、タケエイは協定変更を申し出た。樹皮(バークと表現)も含めた燃料を扱い、チップ工場も隣接して建設する計画に変更したのである。
 燃料チップの放射能量は100ベクレル/kg以下と制限する。市議会での質疑のなかで、樹皮は放射能汚染が強く、福島原発側の樹皮は10万Bq/kgを超えるものがある等の指摘が出ていた(17年12月議会、猪瀬明議員)。また、他の議員も同様に数万Bq/kgとの複数の測定結果を示して、市長の姿勢を糺していた。これに対して本田市長は燃料チップの状態で100Bq/kgが基準であると応答している。しかし、その検証はサンプリング調査のみだという。これでは、サンプリングでたまたま基準を超えたものが見つかっても、他の木材と混合して薄めれば済むことになる。
 市民側の不安に応えたからか、田村BEはバグフィルターの後段に高性能フィルター(HEPA)を追加して安全性を高めたという。市民側は、HEPAフィルターの性能などについて公開質問状を提出したが、企業のノウハウに関わると白紙回答だった。
 HEPAフィルターは一般に99.97%捕獲する性能があるとされるが、その性能を維持するにはフィルターの交換頻度を多くする必要があり、不適切に対応すれば漏洩量が増えることになる。そして交換頻度は燃やす燃料の量に依存している。
 住民の間には根強い不安がある。住民たちは「大越町の環境を守る会」を結成(17年9月)して反対運動に取り組んでいる。そして19年9月には訴訟を起こした。訴えの内容は田村市がHEPAフィルターの追加設置のために田村BEに支出した補助金11億6,300万円の返還請求である。原告側は係争中のこの裁判で、HEPAフィルターの効果を争点としている。田村BEは発電所からの排ガス基準を、一般のごみ焼却炉の基準と同じ30Bq/m3としている。HEPAフィルターの効果を期待していないことになる。また、通路が0.8~1メートル程度しかない狭いダクト内でのフィルター交換作業になり、容易にはできそうもない。そのような設備に多額の補助金支出は市の錯誤だというわけである。

飯舘村の計画
 飯舘村は早くも2012年に木質バイオマス発電の事業の可能性を調査するとして復興交付金を申請している。申請の事業概要によれば、「農林業復興のためには広範囲に汚染されてしまった山林を計画的に伐採し、森林の更新を図るとともに、そこから発生する放射性物質を含んだ森林資源から有用資源を取り出し活用を進める」ため、木質バイオマス発電について「事業の実施前にイニシャルコスト及びランニングコスト等を含めた総合的な事業効率の検討を行なう」としている。
 そして飯舘村は、20年6月に事業実施主体を募集し、7月に飯館バイオパートナー(株)(以下、飯舘BP)が選定された。応募した4社の中から選ばれたのだが、実はこの会社は、東京電力ホールディングス、東京電力パワーテクノロジー、神鋼環境ソリューション等の株式会社によって20年6月に設立されたばかりの会社だ。田村市と異なり村は出資者にはなっていない。飯舘BPによれば、発電所の電気出力は7,500kW。建設地は村内蕨平地区で、震災瓦礫等の「蕨平仮設焼却施設」の跡地(同施設は21年3月に運用の期限を迎える)を利用する。燃料は樹皮(バーク)を主体に地元間伐材などを調達し、年間9.5万トンを使用するとしている。
 飯舘村の説明では、除染計画のない森林の除染に役立つと強調されている。しかし、糸長浩司氏(IISORA(注)共同代表)は、森林の汚染の8割は土壌にあり伐採してもさほどの除染にならないと指摘されている。逆に伐採により土壌が雨により流出する恐れが高くなり、除染した場所に再び汚染を広げる結果になる恐れもある。
 また、焼却により捕獲しきれなかった放射性セシウムが大気中に放出されることになり、この点からも放射性物質の拡散につながる。
 どちらの計画も焼却灰の扱い・処分についての疑問もある。樹皮を燃料にすることから焼却灰は数万Bq/kgあるいはそれ以上に達する恐れもあるが、現行法では、事業者が汚染廃棄物として申請しなければ、ただの灰の扱いになってしまう。法の抜け穴といえる。
 木質バイオマス発電は再生可能エネルギーとして注目され、設置数も大きく拡大しつつあるが、このような放射能で汚染された燃料を使う環境負荷の高い発電は実施すべきではない。

(注) IISORA(飯舘村放射能エコロジー研究会)    

(伴英幸)