タニムラボレター No.005 特別報告 茶葉の放射能汚染

『原子力資料情報室通信』第461号(2012/11/1)より

 夏のある日、原子力資料情報室のスタッフが放射能検査済みという表示つきの埼玉県産の茶葉を購入しました。検査済みのお茶なら安心して飲めるだろうと考えての購入でしたが、実際に放射能測定をしてみると約300Bq/kgの放射性セシウムが含まれていたのです。お茶の放射能基準値は飲料水の状態で10Bq/kg以下ですが、流通する茶葉からこのような高い値が検出された事に驚きました。
 お茶の入れ方や濃さはひとそれぞれです。抹茶では茶葉をそのまま摂取します。はたして流通している茶葉や抹茶は摂取する状態で本当に放射能基準値を満たしているのか? 今回は特別に茶葉を対象に調査を行いました。

産地別 抹茶の放射能測定結果

茶葉の産地別放射能測定結果(各県1銘柄のみ)
測定器:NaIシンチレーション式スペクトロメータ(EMF211)、測定時間:120min、測定容器:350mlポリ容器


 抹茶(粉状態)の放射能測定結果を図にまとめます。日本地図に星印で示された産地(および産地表示なし)の抹茶を各1銘柄購入し放射能を測定しました。このうち、埼玉(セシウム合計120Bq/kg)、鹿児島(80Bq/kg)、静岡(40Bq/kg)の3種類から放射性セシウムが検出されました(検出限界14Bq/kg)。

茶葉から飲料水の茶へのセシウム移行
 検査基準*1に基づいて、放射能測定済み表示付き茶葉を抽出して二番茶まで放射能測定を行いました。この方法は私が普段飲むお茶よりもかなり濃い入れ方だったので安全側にたった検査方法という印象をうけました。茶葉の状態でセシウム合計が290Bq/kgあったところ、飲料水の状態では一番茶で4.3Bq/kg、二番茶で2.6Bq/kgの結果でした(検出限界約1Bq/kg)。移行係数は一番茶でおよそ1.5%(0.7~2.4%)、二番茶で0.9%(0.4%~1.6%)でした。

埼玉県の回答 ~基準値と流通の関係~
 抹茶は茶葉そのものを摂取するので一般食品の基準を適用します*2。当室の測定で基準値の100Bq/kg以上の放射能が検出されたため(137Cs:71.2±6.0、134Cs:43.5±6.0Bq/kg)県の担当部署へ連絡しました。
 県の追跡調査結果によると、この抹茶は2011年度産だが今年8月に抹茶に加工され袋詰めされた製品でした。同じロットを認定検査機関が放射能測定をしており、その結果は87Bq/kgだったので現行の放射能基準値を満たすものとしています。
 FAXで送られてきた検査成績書には、137Cs:57.1、134Cs:29.8Bq/kg(不確かさ表示なし)と記されていました。この一つのロットは10kg以上の量で構成されているようです。通常の放射能検査ではU-8容器という100mlの容器が使われています。大量の製品のたった一部を取り出して検査することで全体が基準値以下であることを保証することはできるのでしょうか? ロット内の放射能のバラつきがどの程度あるのか? 流通するすべて製品を基準値以下にするためには、現状の検査システムは不十分だと考えます。

 抽出試験では、茶葉を飲料水へ加工すると単位質量あたりのセシウム量が約2%に減少しました。このことから飲料水のお茶を10Bq/kg以下にするための茶葉の最大放射能は500Bq/kgとなります。現状は(茶葉の種類にもよりますが)、500Bq/kgの茶葉が流通可能な状況だと言えます。
 鹿児島産の抹茶から放射能が検出されましたが京都産からは不検出です。本当に鹿児島産の抹茶が放射能に汚染されているかは疑問です。何故なら茶の産地表示はその比率が50%以上なら可能だからです。

 今回の調査結果から現状の放射能検査システムの課題が見えてきました。大切なのは基準を守っているかどうかではなく、だれもが無用な被ばくをしないでよい社会の仕組みを作ることです。

 

*1:厚生労働省の資料(食品中の放射性物質の試験法について)によると、飲用に供する茶は、荒茶又は製茶10g以上を30倍量の重量の熱水(90℃)で60秒間浸出し、40メッシュ(目は0.5mm程度)相当のふるい等でろ過した浸出液を測定試料とする。

*2:厚生労働省「食品中の放射性物質に係る基準値の設定に関するQ&A について

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