次の衆院選後の国会で脱原発法の制定を実現しよう

『原子力資料情報室通信』第462号(2012/12/1)掲載予定原稿

海渡雄一(脱原発法制定全国ネットワーク事務局長)

「脱原発法制定全国ネットワーク」結成

ネットワーク結成時の記者会見

 2011年8月22日、脱原発弁護団全国連絡会などの呼びかけによって、脱原発法制定を求める「脱原発法制定全国ネットワーク」が結成された。代表世話人には、河合弘之(脱原発弁護団全国連絡会)、飯田哲也(環境エネルギー政策研究所)、上原公子(元国立市長)、内橋克人(経済評論家)、宇都宮健児(前日弁連会長)、小野寺利孝(福島原発被害弁護団共同代表)、大江健三郎(作家)、鎌田慧(ルポライター)、坂本龍一(音楽家)、桜井勝延(南相馬市長)、瀬戸内寂聴(作家)、伴英幸(原子力資料情報室)、三上元(湖西市長)、武藤類子(喫茶店経営)、村上達也(東海村村長)、村田光平(元スイス大使)、吉原毅(城南信用金庫理事長)氏らが名を連ねている。後述するように9月7日には脱原発基本法案が衆議院に提出された。

総選挙と都知事選で脱原発を最大の争点に!
 10月25日、石原都知事が辞職し、12月16日に都知事選挙が実施されることとなった。11月9日、脱原発統一候補として本ネットワークの代表世話人である宇都宮健児氏が出馬することが決まった。福島で生み出された電気の最大の消費地である東京から、都知事選を通じて、原発事故の被害者を支援し、脱原発、がれき処理や食品安全についての都民の不安に答える具体的な政策を実現することが求められている。
 11月16日には突然衆議院が解散され、12月16日に都知事選挙と衆院選が同日に実施されることとなった。私たちが進めてきた「脱原発法制定運動」は、国政選挙において有権者の判断材料を提供し、脱原発の世論を国会の構成につなげることを目的としてきたが、運動は正念場を迎えている。

脱原発法制定に再挑戦
 脱原発法を求める市民運動は今回が最初ではない。原子力資料情報室の会員の皆さんの多くが覚えておられるであろうが、1988年4月の「原発とめよう!1万人行動」には2万人が集まり、高木仁三郎氏らから「脱原発法制定運動」が提案された。脱原発法制定にむけて署名運動が提起され、1989年12月「脱原発法全国ネットワーク」が結成され、350万筆の署名が国会に提出され、社会党の小沢克介、五島正規議員らの脱原発法私案なども公表された。私は高木氏のもとで、法案の策定や市民運動への説明などの活動に従事した。しかし、法案の国会審議にも至らず、会期切れで廃案となって脱原発法制定は果たされなかった。このような経過が市民の失望感につながったことは否めず、高木氏の心労は傍らで見ていても痛々しいほどだった。
 
脱原発法案の基本理念
 今回提出した法案の基本理念は「脱原発は、遅くとも2020年から2025年までのできる限り早い3月11日までに実現されなければならない。/脱原発を実現するに当たっては、電気の安定的な供給に支障が生ずることとならないよう、かつ、二酸化炭素の排出量の増加ができる限り抑制されるよう、省エネルギー(エネルギーの使用の合理化をいう)が一層推進されるとともに、再生可能エネルギー電気及び天然ガスを熱源として得られる電気の利用の拡大が図られるものとする。/脱原発を実現するに当たって生ずる原子力発電所が立地している地域及びその周辺地域の経済への影響については、その発生が国の政策の転換に伴うものであることを踏まえ、適切な対策が講じられるものとする。/脱原発を実現するに際し、発電の用に供する原子炉は、その運転を廃止するまでの間においても、最新の科学的知見に基づいて定められる原子炉等による災害の防止のための基準に適合していると認められた後でなければ、運転(運転の再開を含む)をしてはならない」ものとされている。
 
脱原発基本計画とは
 法案の第8条が核となる規定である。「政府は、脱原発を計画的に推進するため、脱原発のための施策に関する基本的な計画(以下「脱原発基本計画」という)を定めなければならない。」としている。そして、2項では、「脱原発基本計画は、次に掲げる事項について定めるものとする。一 発電の用に供する原子炉の運転の廃止に関する事項」と定め、各原発の廃炉の順序、時期などは基本計画の中で決めていくこととしている。なお8条3項では、「内閣総理大臣は、脱原発基本計画の案を作成し、閣議の決定を求めなければならない」とし、安易に計画が変更されることのないよう縛りをかけている。
 電力の安定的な供給、発送電分離・電力系統強化等の電力システムの改革や再生可能エネルギーとの拡大・天然ガスを熱源として得られる電気の利用の拡大・エネルギー源の効率的な利用に取り組むとされている。天然ガスの利用はある程度のCO2の排出を伴うが、天然ガスコンバインドサイクル発電は、化石燃料の中でも電力量あたりの排出量は比較的少なく、脱原発政策の実現可能性を確実なものとするため、法案に明記することとした。
 使用済燃料の保存及び管理の進め方に関する事項についても基本計画において定めることとしている。ネットワークは当初再処理は停止し、直接処分を進めることとし、この点を盛り込んだ法案を国会議員に提案したが、提出会派内に様々な議論があったため、残念ながら再処理の停止を明記することは見送られている。しかし、「使用済燃料の保存及び管理の進め方に関する事項」を基本計画に盛り込むこととされており、再処理を行うことは書かれていない。再処理は継続しないことが法の目指す方向性であることは明らかとなっている。
 廃炉について電力会社に補償をするだけでなく、地域雇用機会の創出と地域経済の健全な発展なども明記し、原発立地に協力してきた地域の今後の経済にも配慮することを規定している。

国会に法案を提出することに成功
 8月22日のネットワークの設立時の提案に当たって、通常国会中の法案提出を目指すことを明言、8月29日の院内集会には与野党含めて41名、9月4日には35名の国会議員が参加した。そして、9月7日には102名の国会議員の賛成・賛同を得て、脱原発法が衆議院事務総長に提出され、継続審議となった。法案提出までにはネットワークと国会議員の間で濃密な討論がなされ、当初の提案にさまざまな修正がなされ、提出に至ったのである。
 正式には、法案は13名の提出者(国民の生活が第一、社民党、新党きづな、減税日本、新党改革、新党大地・真民主の六会派)によって、23名の提出会派と無所属議員(土肥隆一氏)を含む賛成者を得て提出された。ネットワークは、この法案提出と同時に民主党議員(55名)、みんなの党、みどりの風、無所属議員など66名の賛同議員名簿を公表した。
 法案提出時に、衆院第2議員会館で記者会見した大江健三郎さんは「議員が個人の意思を発揮して法案提出されたことに改めて希望を持った」「国民、市民が(原発に)反対の意思をはっきり示すしかない」と強調した。河合弘之弁護士は「提出の次はこの法案を武器に次の選挙の大きな争点とし、賛同議員を大幅に増やして法案成立を求めた活動を強めたい」と報告した。宇都宮健児弁護士は「市民と議員の協力で国会に法案を提出できたことは画期的だ。次は国民運動を巻き起こして、この法案を現実に成立させなければならない」と述べた。鎌田慧さんは「さようなら原発1000万人署名をしながら、どうやってさようなら原発を現実のものにしようかと考えてきた。法案提出でゴールが見えてきた」と述べた。

衆院選前に選択を示す必要があった
 ネットワークは8月22日の立ち上げ以降、今国会中の法案提出を目的に大車輪で活動してきたが、共産党の議員などからは拙速ではないかという批判も受けた。このような方針をとった理由は、秋以降の早い時期に衆院解散が実施され、総選挙では今後の原子力政策が大きな争点となるにもかかわらず、各政党、候補者の政策は明確でなく、明確な争点を提示する必要があると考えたからである。
 また、このような法案を提出する作業そのものが原発推進勢力との闘いであった。脱原発志向の政党にも原発を推進する国会議員が多数所属しており、中央官庁、電力会社や経済界などが全力でこれを妨害しようとしてきた。時間をかけて討論するということは、妨害のチャンスを増やすことにもつながる。ときには政治は勢いであり、今回はスピードが必要な場合だったと考えている。
 また、法案提出への賛否を聞くことで、有権者・市民が年限の明らかでないまやかしの「脱原発依存」政策と、脱原発時期を明記した法案に賛成を表明している政党・候補者を見分けられることとなった。

法案をツールに各地で脱原発議員を作ろう
 全国の仲間からは、二つの声が寄せられている。一つの声は、「国策としての原発推進を転換させるため、このような活動を期待していた。各地でどのように活動したらよいのか、方法を教えてほしい」という積極的な声である。ネットワークとしては、脱原発法に賛同した議員に提供するステッカー、脱原発法政策契約、運動マニュアルなど、各地の脱原発運動がこの法律をツールとして活動する時の「パッケージ・ツール」を作り、広めている。
 選挙が始まった今、候補者に法案への賛否を明らかにするよう求め、その結果を有権者に知らせることが重要な活動となる。選挙公示後は、公職選挙法の枠内となるが、脱原発法を支持する候補が当選するよう、法定ビラの配布や電話かけなどさまざまな活動に取り組むことができる。国会内の脱原発勢力が飛躍的に増えるよう全力を傾けよう。

脱原発法の制定と再稼働反対は両立する
 もう一つの声は、「法案は2020年から2025年まで原発の稼働を認めているようにみえる。この法案は再稼働を認めることとならないか」という危惧の声である。しかし、脱原発法は原発再稼働を容認するものではない。法案には個別の原発の再稼働は、最新の科学的知見に基づいて原子力規制委員会が定める技術上の基準に合格することが最低限の条件であることを明記した。規制委員会が誤った判断をした時は原発周辺の住民は裁判に訴えてでも、再稼働阻止を求めることができる。
 そして、今必要なことは、一つ一つの原発の再稼働を止めるだけでなく、これまで57基もの原発の設置を許可し、運転を認めてきた国の政策を、法律によって明確に方向転換することだ。日本が国として脱原発政策を選択し、廃炉や立地地域の産業復興などに国を挙げて取り組むためには、再稼働を止めるだけでは不十分であり、国会の多数による法律という形での決定を避けてとおることはできない。原発をやめるべきだという私たち一人一人の倫理的な判断を政治的な現実に転化していくためには、国会における法律がどうしても必要だ。再稼働反対に取り組むことと、脱原発法制定に取り組むことは同じ目標のためのひとつながりの活動であり、互いに矛盾するものではない。

 

▼関連リンク▼

脱原発法制定ネットワーク

脱原発法基本法案