発電コストワーキンググループが新試算 ついに

『原子力資料情報室通信』第566号(2021/8/1)より

7月12日、経済産業省の諮問機関である総合資源エネルギー調査会の発電コスト検証ワーキンググループ(以下、WG)は新しい発電コスト試算の概要を発表しました。なお、当室は同WGの第6回会合(7月7日)で原発の発電コストについて情報提供を行いました。そこで、この新しいコスト試算の内容とその限界について解説します。

1.新しい発電コスト試算の概要

まず、今回の発電コスト試算を確認しよう。試算されているのは、2030年に電源を新設し、一定の年数(原発の場合40年)、一定の設備利用率(原発の場合70%)で運転すると仮定して算出した総コストを総発電電力量で割ったkWh当りの発電コストだ。
本試算で特徴的なのは、これまで経済産業省などが実施してきた試算で、初めて原発の発電コストが最安価格から脱落したことだ。
これまで、経済産業省が行った試算では、原発の発電コストが他電源よりも高くなりそうになると、試算方法を変えるなどして、計算上安いことにしてきた。例えば、2011年に実施した発電コスト試算では、日本では未だ本格的に導入されていない排出権取引が導入されていることを前提にしたCO2対策費が盛り込まれた。また2015年の試算では、事故リスク対応費用の計算方法を変更したことや、当時資源価格が高騰していたことで、原発は最安電源という地位を維持していた。しかし、今回の試算では、もはや原発が安い電源ではないという現実を受け入れざるを得なくなった。
なお、過去、本誌で報告してきた通り、2015年のWG試算に基づいて発電コストを試算すると、石油・石炭・LNG・原発の4つの電源の中では、LNGが最安、ついで原発、石炭、石油となっていた。この点、今回の試算は概ね想定通りだった(522号、543号、550号参照)。今回の試算では最安の電源は事業用太陽光の8円台前半~11円台後半、ついでガスコジェネ(熱電併給)の9円台後半~10円台後半、家庭用太陽光の9円台後半~14円台前半、陸上風力の9円台後半~17円台前半、中水力の10円台後半、そして原子力の11円台後半~へと続く。

図 1 2030年の電源別発電コスト試算

ところで、一部委員から、原発の稼働年数を60年にするべき、とか、設備利用率をもっと高く見積もるべきだといった意見が出された。これは稼働年数や設備利用率を高く見積もれば、総発電電力量が多くなるためだ。燃料費の比較的低い原発は、稼働期間や設備利用率が増えても、総コストにはそれほど影響しない。結果、kWh当りの発電コストは低く見えることになる。
当室は第6回WGで、過去日本の原発の平均設備利用率が80%を超えたのは数年しかないこと、全体平均では東京電力福島第一原発事故の起こる前である2010年までの平均でさえ、69%であること、海外でも80%を安定的に超えている国は多くないことなどを示して、設備利用率は高くともせめて70%で考えるべきだと主張した。また、原発の稼働年数についても世界で稼働中原発の最高齢はスイスのベツナウ原発1号機の52年であり、60年稼働した原発は存在しないこと、60年稼働するとした原発でも60年に満たずに廃炉となったものもあること、世界の原発の平均廃炉年数は26.6年だったことなどをしめした。
結局、原発の設備利用率は60%、80%、稼働年数は60年でも計算されるものの、基本シナリオは70%、40年が維持されることとなった。

2.新しい発電コスト試算の課題
はじめて原発が最安電源ではないことを認めた点で、本試算は一定の評価ができる。しかし依然として多くの点で問題を抱えている。
①資本費
原発の資本費について、この試算では前回を踏襲して、直近に運転開始した4基の原発(サンプルプラント)のデータをもとに物価等で補正して40万円/kW(2015年試算37万円/kW)と試算した。しかし、本当にこのコストで建設できるのかは疑問だ。
WG委員からは原発の改良標準化によって、資本費は変動しなくなったと報告されていたが、本当にそう言えるのかだろうか。1980年以降のkWあたり建設費を図2に示したが、上昇傾向にあるように見える。これを炉型別に見ると、PWRは上昇傾向があまり見られないのに対して、BWRは上昇傾向が観察できる。改良標準化とは違う要因が考えられるのではないか。また、欧米で建設費が高騰した理由は、安全対策による構造の複雑化、工事期間の長期化などが挙げられるが、これは日本でも同じことが言える。追加的安全対策費として、新規制基準に対応するための費用を別途見積もっているが、これは既存の原発に追加的に発生している費用から、新設の場合不要となる部分を差し引いて計算しているが、これは根拠ある数字と言えるのか不明確だ。
当室はWGへの情報提供で建設費は上昇傾向にあると主張したが、採用されなかった。

図 2 kW当り建設費単価(1980-2009)

②運転維持費
試算では、運転維持費についてもサンプルプラントのデータをもとに表1の通りとしている。今回の試算ではまだkWh当りの運転維持費は発表されていないが、概ね前回試算と変わりない数字になると見られる。なお、運転維持費は運転期間だけかかるものとして計算されている。
一方、各電力会社は有価証券報告書で、保有する原発全体の運転維持費を発表している。これに基づくと、運転維持費は原発の廃炉前後でそれほど大きく変わっていない。つまり、廃炉後も維持費がかかっていることがわかる。
原発の廃炉には30~40年間を要する点で他の電源と異なっている。こうした長期に渡るコストを勘案しなければ、原発の発電コストは不当に安く見積もられることになる。
当室はWGへの情報提供で有価証券報告書に基づいて試算すべきと主張したが、採用されなかった。

表 1 運転維持費内訳

③統合コスト
第5回WGで「システム統合を反映した限界費用の試算」が報告された。このなかでは、原発を含むシステム統合を反映したコスト試算が報告されている(図3)。これは、各電源を一定量増やした場合に電力システム全体として発生する費用を「統合コスト」とみなして、そのコストを、増加させた電源にかかった費用だとみなして一定のモデルのもとに試算したものだ。
柔軟性の低い電源はコスト増加要因となり、柔軟性の高いLNGはコスト減少要因となることが示されている。ここで興味深いのは原子力もコスト増加要因として示されていることだ。
2020年12月から1月に電力市場価格が高騰した。この要因については、本誌565号や、調査レポート「原発の定期点検長期化が卸電力市場価格高騰の原因か ―巨大電源の隠れたリスク―」(https://cnic.jp/
39079)で詳説したが、関西電力の原発の定期点検長期化との因果関係が疑われる。
原発の停止長期化はこのときに限った話ではない。たとえば、柏崎刈羽原発は2007年の新潟県中越沖地震で被害を受けた。7基ある内3基はそれ以来稼働していない。2002年に過去、原発で発生したトラブルを隠蔽していたことが発覚した。これを受けて多くの原発が停止を余儀なくされ、翌年夏には東京電力管内で電力危機に陥った。東日本大震災による原発の停止で電力危機に陥り、計画停電が行われたことも記憶に新しい。
原発は1基あたりの出力が大きく、出力調整ができない。停止に備えて、バックアップ電源を確保しておく必要もある。瞬間的な停止であればまだしも、停止が長期化した場合、その影響は極めて大きくなる。加えて、原発は本質的に持つ危険性から、一つの原発で見つかった問題が水平展開されて、複数の原発が止まることもある。そうした場合、より電力系統に与える影響は大きくなる。
原発の統合コスト以外で気になるのは再エネの曇天無風期間への対応だ。大量の蓄電池を新規に導入するとなると、巨額のコストが必要となるだろう。しかし、今後増加すると考えられる電気自動車の蓄電池を活用できれば、大幅にコストは削減できる。
こうした費用は今回試算では考慮されず、2030年電源構成が発表された後、改めて試算されることとなっているが、要注目だ。

図 3 電源立地や系統制約を考慮した、モデルによる分析・試算

3.感想
WG試算結果について、WG委員は異口同音に「数字が独り歩きしないように」と発言した。しかし、過去のWG試算結果、特に原発が最安の電源だと利用してきたのは経済産業省だった。今更、独り歩きを懸念しても、という気がする。
今回の試算結果で、多くの課題があるものの、ようやく日本でも原発や石炭火力が太陽光や風力に比べても、LNGに比べても安くない電源だという国際標準の認識に至った。この結果は、当然、今後のエネルギー政策に大きな影響を与えるだろう。
一方、単体の発電コスト以外に、統合コストという新しいコストが考慮されるようになった点も注意が必要だ。これを使って太陽光や風力といった変動電源のコストを高く見積もるという動きに繋がりかねないからだ。
今号短信にあるように、関西電力・中部電力はこれまで自社電源同様としてきた北陸電力志賀原発2号機との契約を、契約期間満了を口実に2021年3月で終了した。これまで原子力ムラを維持してきた構造は、電力自由化、電力需要の低下、原発が10年再稼働できないという現実に耐えかねているように見える。

(松久保 肇)

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