【原子力資料情報室声明】原発発電コストはLNG火力発電コストを上回る ―2015年発電コスト検証ワーキンググループの計算に基づく―
【原子力資料情報室声明】原発発電コストはLNG火力発電コストを上回る ―2015年発電コスト検証ワーキンググループの計算に基づく―
原子力資料情報室が、経済産業省総合資源エネルギー調査会の2014年発電コスト試算に基づき、2016年における原子力発電、石炭火力発電およびLNG火力発電の発電コストを計算したところ、2014年試算では原子力10.1円/kWh~、石炭火力12.34円/kWh、LNG火力13.72円/kWhでしたが、2016年時点では原子力10.54円~、石炭火力11.35円/kWh、LNG火力8.58円/kWhとなりました。
また原子力の発電コストについては、東京電力福島第一原発事故の事故処理費用等の更なる増額があった場合には11.98円/kWh以上、米国並みの原発建設コストを見込んだ場合には13.58円/kWh以上、事故発生頻度を過去実績に即して計算した場合には12.26~15.14円/kWh以上となりました。
当室の計算から、経済産業省の試算に基づいて計算した場合でも、2016年時点ではLNG火力が最も安価であり、原子力に価格優位性がないことが明らかになりました。2014年発電コスト試算は、当時高騰していた資源価格を用いたため、LNG火力や石炭火力などの発電コストを過剰に見込んでいます。一方、原子力の発電コストは賠償費用等を過小に見込んだため、低すぎる見積もりになっています。
現在、総合資源エネルギー調査会基本政策分科会では新しいエネルギー基本計画の検討を行っています。経済産業省は基礎的な資料として将来の発電コスト見通しを提示するべきです。
詳細は下記をご覧ください。
資源エネルギー庁はウェブサイトに「原発のコストを考える」というコラムを掲載している1)。このコラムで資源エネルギー庁は、 2015年の発電コスト検証ワーキンググループ(以下、検証WG)の報告書2)を元に、原発の発電コストを「火力や再エネ発電より高くなることはなく、発電コストの面で原発に優位性があることに変わりない」と説明している。
検証WGの試算は2014年に発電プラントを新設した場合の総費用を、建設したプラントが発電する総電力量で割る、モデルプラ ント方式と呼ばれる方法で求められた。この時は表1の通り原発が最も安価な電源であるとされた。
ところで、検証WGでは例えば原発の追加安全対策費2倍の場合、発電コストはkWh当り0.6円上昇するなどといった感度分析が示されていた。そこで感度分析を用いて2016年時点の原発、石炭・天然ガス(LNG)火力の発電コストを試算した。
●石炭火力・LNG火力の発電コスト
まず、2016年の石炭火力とLNG火力の発電コストを試算する。2014年の試算における石炭火力とLNG火力の発電コストを分解すると表2の通りとなる。また、感度分析から発電コストは、10%の資源価格の変動で石炭は±0.4円、LNGは±0.9円変わるとされている。
検証WG試算では資源価格は、2014年平均の日本通関CIF(Cost, Insurance and Freight、コスト・保険料・運賃込み) 価格が用いられ、石炭は97.64$/トン、LNGは842.43$/トンだった(105.24円/ドル換算)。一方2016年平均のCIF価格は、石炭は73.59$/トン、LNGは 361.52$/トンだった(108.92円/ドル換算)。それぞれ24.6%、57.1%価格が下落している。そのため、2014年時点の試算からは、それぞれ0.99円/kWh減、5.14円/kWh減となる。結果、2016年モデルプラントの発電コストは、石炭火力が11.35円/kWh、LNG火力が8.58円/kWhとなる。
●原子力の発電コスト
検証WG試算の原子力発電コスト内訳は表3のとおりだった。また感度分析では、追加的安全対策費が2倍になると0.6円/kWh増、事故廃炉・賠償費用が1兆円増で+0.04円/kWh増になるとされた。
検証WG試算では、追加的安全対策費は当時見積もられていた1,000億円/基のうち、新設時の必要分は6割の601億円/基とされた。また事故廃炉・賠償費用は見積額12.2兆円を、出力規模や人口などで補正した9.1兆円としている。
一方、2016年6月時点では、追加的安全対策費は新規制基準に申請した26基で計約3.3兆円3)と見積もられているため、1基あたり1,269億円となる。うち6割が新設時の必要額とすると、762億円/基が追加的安全対策費となる。2014年時点からは27%増のため、発電コストは0.16円の増加となる。
また経済産業省が2016年12月に示した福島第一原発事故による損害費用の見積もりは総額21.5兆円だった。これを2014年試算と同様の比率で補正した場合、16兆円になる。そのため、2016年での事故廃炉・賠償費用は2014年時点との差額である6.9兆円分、つまり0.28円の増加となる。
しかし、わずか2年で福島第一原発事故による損害見積額が9兆円増加したことからもわかる通り、損害額は過小評価の恐れがある。なお、日本経済研究センターが2017年3月に発表した試算4)によれば、事故廃炉・賠償費用は、汚染水を海洋に希釈放出した場合で49.3兆円、汚染水を処理した場合は70兆円とされている。この場合、それぞれ1.1円、1.72円の増加要因になる。結果、2016年モデルプラントの原発発電コストは経済産業省が試算した損害費用21.5兆円の場合で10.54円/kWh以上、損害費用が70兆円の場合は11.98円/kWh以上と見積もることができる。
●検証WG試算に含まれていない費用
検証WG試算には多くの問題点がある。たとえば、資本費の大半を占める建設費は原発の場合、4,000億円/基と見積もられており、欧米の実績である1兆円/基と大きな差がある。事故発生頻度についても追加安全対策が進んだため、4,000炉年5)に一度とするが、過去実績は世界の過酷事故頻度が約2,900 炉年に一度、国内では約500炉年に一度であり、大幅に事故発生頻度を低く見積もっている恐れがある。
そこで、米国のEIA(エネルギー情報局)が2017年4月に発表した各種電源による発電コスト比較6)から、原子力の資本費を引用し、また事故発生頻度についても2011年のコスト検証委員会で用いられた2,000炉年として、事故廃炉・賠償費用21.5兆円と70兆円のケースを算出した。ただし、EIA試算と検証WG試算では炉型や含まれる費用など想定が異なる点が多い。またEIA試算は2022年に稼働し、30年間稼働率90%であった場合、原発の資本費は70.8$/MWhとする。検証WG試算は40年間、稼働率70%が前提のためこれに揃え、2016年時点の為替レートで換算した。結果、原発発電コストは12.26~15.14円/kWh以上となる。
また、検証WG試算には東京電力福島第一原発事故の事故処理・賠償費用は含まれていない。しかし、2017年に経済産業省は、原子力損害賠償支援機構の一般負担金の「過去分」2.4兆円を2020年から40年間、託送料金に上乗せして、全ての電力消費者から徴収することとした。少なくともこの過去分費用は将来の原発の発電コストとして加算されるべきものだろう。2.4兆円を40年で回収するため、年間の回収費用は600億円となる。仮に40基の原発がそれぞれ年間70億kWh発電すると想定した場合、kWh 当り0.21円/の増加要因となる。結果、原発発電コストは12.47~15.35円/kWh以上となる。
●まとめ
検証WG試算を用いて2016年時点の発電コストを計算したところ、検証WG試算に準拠した場合でも、LNG火力が最も安価になることがわかった。
2014年時点の資源価格で行った試算はLNG火力や石炭火力のコストを過剰に見込んだ可能性が高い。一方で、原子力の追加安全対策費や事故廃炉・賠償費用は増加の一途をたどっている。欧米の原発建設コスト高騰をかんがみても、検証WG試算での原発コストは過小見積もりであったことは明らかだ。加えて、原発事故がもたらす被害の多くは金銭に換算できないことを忘れてはならない。
現在、経済産業省はエネルギー政策の基本的な枠組みを定める「エネルギー基本計画」の改定作業に取り掛かっている。世耕弘成経済産業相は2014年策定のエネルギー基本計画を踏襲する方針を示しているが、エネルギー基本計画の改定を行う前提条件として、少なくとも現時点での発電コストの見積もりを実施するべきだ。
1) www.enecho.meti.go.jp/about/special/tokushu/nuclear/nuclearcost.html
2) www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/mitoshi/cost_wg/pdf/cost_wg_01.pdf
3) 2017年7月8日付朝日新聞,「原発安全対策費、電力11社3.8兆円」
4) www.jcer.or.jp/policy/pdf/20170307_policy.pdf
5) 炉年とは、各原発の稼働年数を合計したもの。仮に50基が1年稼働した場合は50炉年となる。
6) www.eia.gov/outlooks/aeo/pdf/electricity_generation.pdf