原発から廃棄される熱に関するメモ

『原子力資料情報室通信』第568号(2021/10/1)より

 原子力発電所や火力発電所は発電に利用できない余分な熱を環境に廃棄している。これらが海沿いに建てられているのは海水を介して熱を海に捨てるためである。なお、火力発電所では日本では唯一の空冷式大型発電所の真岡発電所が2019年に運転を開始している。
 原発の発電効率は低く、核燃料でお湯を沸かして発生させた熱エネルギーの1/3しか電気に変えることができない。出力100万キロワットの原発は、発電しながらその倍の200万キロワットもの熱を捨てている。取水した海水を放水する際の温度上昇の上限は7℃と定められていて、放水量は、1秒あたり68トンにものぼる計算となる。
 発電所から捨てられる水に含まれるのは熱だけではない。設備への海洋生物付着防止のための塩素も添加されているし、原発からの排水には液体放射性廃棄物も含まれている。取放水時の機械的・化学的・熱的な刺激が特に小さな生き物へダメージを与え、海洋環境を悪化させている(1)

業界別の排熱量
 発電施設だけでなく、化学・鉄鋼・食品業界なども熱を利用した製造・加工をして余った熱を環境に廃棄している。それらと比較すると発電設備からの熱量はどれくらいのインパクトがあるのだろうか。
 産業分野別の排熱実態調査報告書の全国推計値(2)によれば、年あたりの総排ガス熱量は全国で約74万テラジュール(約2,000億キロワット時)であるのに対し、電力業界が26万テラジュール(35%)、鉄鋼と化学業界が各10万テラジュール(14%)、清掃業界が約6万テラジュール(8%)という順となっている(図1)。これは一定の前提を置いた推計値だが、電力業界の排熱量が飛びぬけて大きいことは明白だ。

 その特徴は低温の未利用熱の割合が大きいことだ。150℃以下の排熱の割合は、電力業界で90%、鉄鋼業界で30%、化学業界は23%だ。同報告書の「温度帯別の未利用熱活用ニーズ」によれば150℃以下のニーズが圧倒的に多いとされ、電力業界の未利用熱活用のポテンシャルが高そうにも読める。しかし、原発由来の熱に関しては、放射性物質を取り扱うために安全性や心理面でのハードルが高く、原発はもともと都市から離れた場所に立地されるので近隣にニーズが少ないことから、今後も有効活用されそうにない。

図1.業種別の排ガス熱量の全国推定値(2015年) 文献(1)より作成。 なお、2015年の電源構成は火力85%、原子力1%、水力8%、新エネ等6%だった。

 

電源ごとの排熱量の比較
 電力業界からの排熱のもとは火力発電や原発であるが、東京電力福島第一原発事故前の2010年度と2019年度の発電電力量と電源構成のデータ(3)をもとに、電源別にどれくらいの排熱があったのかを計算した(表1)。発電効率は原子力33%、石炭42%、LNG52%、石油39%とし(4)、新エネと水力は対象外とした。その結果、電力業界から廃棄される熱のうち原発由来の割合は、原発の発電電力量が25%だった2010年度で約4割だったのに対して、それが6%の2019年度では約1割と減少している。

発電所ごとの排熱規模
 発電所立地地域における排熱影響の大小を検討するために、火力及び原子力発電所のうち設備容量(電気出力)が大きい順に50位までまとめた(図2)。グラフの黒色が原子力、灰色が火力である。
 最も出力の大きい発電所は東京電力柏崎刈羽原子力発電所(新潟県)であり、原発特有の低い発電効率のため、排熱量はほかの火力発電所とは比較にならないほど大きくなる。もし柏崎刈羽原発が全基稼働した場合、ヒートアイランド現象が深刻な東京23区における夏季の環境への人工排熱量(2003年時点)の約3割にも相当する(5)。なお、原発は蒸気温度や圧力の条件に制約を受けるため発電効率の向上は望めない。大規模発電所からの熱が地域の環境や気候に与える影響が懸念される。
 環境影響の少ない再エネ発電の拡大が目指されているが、電力需給の調整力として短期的には火力発電の利用は避けられない。その際、効率の悪い古い発電設備から運転実績のあるより高効率な発電設備への置き換えが求められる(6)。なお、環境負荷の高さから世界で「脱石炭」の動きが高まっているにもかかわらず、現在、国内で石炭火力の新規建設がおこなわれていることが問題視されている。

図2.出力規模の大きい火力および原子力発電所(電力会社ホームページの情報などから筆者作成)

 

核燃料の崩壊熱
 火力発電は発電を停止して火を消せばすぐに発熱が止まるが、原発の核燃料は運転停止したあとも崩壊熱を発生し続けるところが根本的に異なる。2年間運転したウラン燃料の場合、発熱量が運転時の1%まで減少するのに数時間、0.1%になるのに4か月、0.01%になるのに3年かかるといわれる(7)。脱原発を達成したあとも原発の熱は環境を温めつづける。

(谷村暢子)

 

(1) 例えば、「創立25周年記念研究成果報告会研究報告 微小生物の冷却水路系通過に伴う影響」、海生研ニュース73(2002)や、『原発に侵される海 温廃水と漁業、そして海の生きものたち』水口憲哉 (著)、南方新社(2015)

(2) 「産業分野の排熱実績調査報告書」未利用エネルギー革新的活用技術研究組合技術開発センター、2019年3月、  http://www.thermat.jp/HainetsuChousa/HainetsuReport.pdf

(3) 令和元年度(2019年度)における エネルギー需給実績(確報)  資源エネルギー庁政務課戦略企画室、令和3年4月
  https://www.enecho.meti.go.jp/statistics/total_energy/pdf/honbun2019fyr2.pdf

(4) 総合資源エネルギー調査会 発電コスト検証ワーキンググループ、2015年コスト検証サンプルプラントより https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/mitoshi/cost_wg/2021/data/03_04.pdf

(5) 平成15年度都市における人工排熱抑制によるヒートアイランド対策調査報告書、国土交通省・環境省、平成16年3月  http://www.env.go.jp/air/report/h16-05/chpt01.pdf

(6) 「最新鋭の発電技術の商用化及び開発状況(BAT:Best Available Technologyの参考表)」、令和2年1月時点  https://www.meti.go.jp/policy/safety_security/industrial_safety/sangyo/electric/detail/bat_20140501.html

(7) 「軽水炉燃料崩壊熱のふるまい 福島第一発電所の崩壊熱挙動理解のために」吉田正、日本原子力学会誌, Vol. 53, No. 8(2011)  https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaesjb/53/8/53_555/_pdf

 

 

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