タニムラボレター No.006 ヒマワリが土壌のセシウムを除去する?

『原子力資料情報室通信』第462号(2012/12/1)より

 

 

 

 

収穫時のひまわりの様子

 土壌の有害物質を生物の働きで減らすファイトレメディエーションという方法があります。ファイトレメディエーションは、放射能で汚染された土壌にそれを吸収しやすい植物を植え、植物が生長と共に汚染を吸収するので、収穫して取り除いたあとの土壌汚染が減少するという考え方です。チェルノブイリ被災地では菜の花を使った土壌回復の取り組み「ナロジチ再生・菜の花プロジェクト」が行われています。(本誌447号参照)。福島原発事故後、ヒマワリを利用して土壌中の放射能を浄化しようという取り組みも各地で行われたそうです。
 ファイトレメディエーションに利用できる植物は、単純に植物内の放射性セシウムの量が多いだけでなく、畑の面積に対してたくさんの植物を植えることができ、大きく育つものが適しています。根の形状も植物によってさまざまですが、根がちょうど土壌の汚染の濃い部分に複雑に広がるものの方が効率的な汚染の吸収ができると考えられています*1。
 土壌の放射能を植物に吸収させても、放射能が消えてなくなるわけではありません。放射能は土壌から植物へ場所を移動するだけなので、あわせて放射能を含んだ植物をどうするかも重要な課題です。
 
 当室ではヒマワリが土壌から吸収する放射能の量を調査しました。栃木県北部の試験農場は事故後に耕起した畑です。土壌の放射能は表面から深さ10cm程度まで均一化されており、Cs-137:0.8~1.0×103Bq/kg、Cs-134:0.4~0.5×103Bq/kgでした。それより深いところは不検出(100Bq/kg以下)でした。
 試験農場で今夏に3か月間ヒマワリを栽培して9月に収穫しました。ヒマワリは高さ約1.5~1.8mに成長し、花が下を向き葉がしぼんだ時期に収穫をしました(写真)。種は花から取り出して天日干しした状態で、茎と葉は洗浄後90℃で一日加熱乾燥し細かく砕いた状態で放射能測定を行いました。乾燥状態の放射能測定結果から生状態の放射能量に換算したところ、セシウム137と134の合計量は、種が約2Bq/kg、葉が40~70Bq/kgでした(表)。

表:ヒマワリの放射線測定結果(生換算)
測定器:NaIシンチレーション式スペクトロメーター(EMF211), 検出限界3σ, 茎と葉は乾燥状態で測定した結果を生質量に換算して表示, 産地:栃木県北部試験農場, 収穫:2012年9月, 土壌の違いは肥料の種類の違い。

 

 

 

 

 

 

 

 ヒマワリの栽培によって、土壌のセシウムの何割が除去されたかを計算します。実際の農場のバラつきは大きいのですが下図のように1m2あたりの概略で考えます。この範囲におよそ25本のヒマワリが育ちました。ヒマワリ25本では、種1000g、茎1000g、葉500gが収穫できました。土壌の放射能は10cmの深さでセシウム合計1.2~1.5×103Bq/kgでした。1m×1m×10cmの体積を占める土壌の質量は、空隙も含んだ土壌の密度を1.3g/cm3とすると130kgです。この範囲の土壌に含まれるセシウムは15.6~19.5×104 Bqで、ヒマワリ25本によって吸収したセシウムは合計20~40Bqでした。よって、土壌のセシウムの0.01~0.03%がヒマワリに吸収されたという結果でした。

 試験結果からは、ひまわりによる放射能の除去はごく微量だということが言えます。今回の結果は、昨年に農林水産省が行った除染実証結果*2の単位面積当たりの吸収量は、作付け時の土壌の放射性セシウムの約1/2000(0.05%)であり、効果は小さいという結果も支持します。

 しかし、希望が持てるはなしもあります。放射能を吸収しやすい植物を作ったあとの畑では、次の作物が放射能を吸収しにくくなるという報告(本誌447号)があります。セシウムは土壌の分子に捕えられると、水中に溶けだしにくくなることが知られていますが、土との相互作用の違いによって水溶性セシウム、交換態セシウム、固定態セシウムの3つに分類することができます。水溶性>交換態>固定態の順に植物に吸収されやすいのです。水溶性セシウムの量は全体のごくわずか(0.2~5%)ですが植物への移行を支配する重要な成分です*3。この水溶性セシウムがヒマワリなどによって除去された結果、裏作の植物が吸収するセシウムが低く抑えられるのではないかと言われています。今後も長期的に作物への放射能移行の観察を続けていくことが必要だと考えます。

*1 jssspn.jp/info/nuclear/cs-1.html
*2 www.s.affrc.go.jp/docs/press/110914.htm
*3 農技研報B 36, 57-113 (1984)

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