タニムラボレターNo.011 肥料を通して広がる放射性セシウム

『原子力資料情報室通信』第468号(2013/6/1)より

 

 

 

 

稲わらと牛と堆肥のつながり

 原発事故後、放射性物質で汚染された稲わらが全国に流通した結果、広範囲の牛肉から当時の暫定基準値を超える放射性セシウムが検出されました。汚染された稲わらを食べた牛は筋肉だけでなく糞も汚染されて、堆肥にも影響を及ぼしました。国は肥料等に含まれる放射性セシウムの最大値を400Bq/kgに制限していますが、基準以下であっても汚染肥料が流通を経て全国に広がれば、使われた土壌の作物に放射性物質を供給します。農水省の検査結果をみると肥料によって放射性物質が拡散していることがわかります*。

 

堆肥と灰から水に溶けだすセシウム量

セシウム抽出試験結果
測定器: NaIシンチレーション式スペクトロメーター(EMF211)
検出限界3σ, 測定時間:24時間、サンプル量:堆肥および灰500ml、抽出液1800mL、
括弧内は測定誤差(±)
*10倍質量の水と1時間混合、ろ過後の液体を放射能測定。 セシウム-137のみに着目し移行率を計算した。

 汚染された堆肥を土壌に施肥した場合、土壌にどれだけの影響があるのかを知るには、セシウム全体の量だけでなく植物に吸収されやすい形態のセシウム量を把握する必要があります。前号と同様の手順で水に溶けだすセシウムの量を調査しました。サンプルは栃木県の試験農場で飼育した豚の糞と野菜くずから作った堆肥(セシウム合計500Bq/kg)および、山形県のリンゴ農家から提供していただいた草木灰(同2,000Bq/kg)です。リンゴ農家の方は、以前はこの灰を土壌改良資材として活用していたが、原発事故後は放射能汚染の懸念から畑にまいて良いかわからないため、灰をずっと溜めているそうです。通常この試験では、孔径0.45μmのフィルターを通過したものだけを水溶性としていますが、堆肥と水の混合物はこのフィルターを通らなかったので孔径5μmのものを用いました。このため0.45~5μmの粒子も水溶性成分に検出されてしまうので、堆肥の測定は過大評価になっています。これは堆肥中の有機物や微生物が集合して大きい団粒構造になっているせいと考えられます。

 測定した結果、水溶性セシウムの比率は豚糞堆肥で8%、灰で38%でした。前号で報告した土壌(水溶性セシウムは検出限界以下)と比べても、草木灰は水溶性セシウム量が飛びぬけて高いことがわかりました。土壌にまくと作物が吸収するセシウム量を増加させる働きがあると予想されます。灰は放射性物質を濃縮しやすく思わぬ高い汚染となっている場合もあるため、畑に用いる場合は慎重に判断する必要があると思います。

*肥料中の放射性物質の検査結果は農水省のHPで確認できる。

www.maff.go.jp/j/syouan/soumu/saigai/hiryo_kekka.html
www.maff.go.jp/j/syouan/soumu/saigai/shizai.html
www.maff.go.jp/j/syouan/soumu/kome/k_hiryo/caesium/

(谷村暢子)