タニムラボレターNo.012 NaIシンチレーション検出器の精度は

『原子力資料情報室通信』第469号(2013/7/1)より

 

 

 

 

 

NaIシンチレーション検出器の精度は

原子力資料情報室のスタッフも関わっている福島環境放射線測定チームから、飯舘村土壌の測定依頼を受けました。試料は、直径5cm深さ30cmの筒を地面に垂直に挿して土壌を採取したものです。垂直方向の汚染分布を調べるため、土壌表面側から一定の深さごとに土壌を採取しNaIシンチレーション検出器(NaI検出器)で放射能測定を行いました。
 すると、予想外の結果を得ました。すべての地点で土壌のセシウム濃度が高いほどカリウム-40の濃度も高い傾向にあったのです。福島原発事故による環境汚染で土壌中のカリウム-40が増えることは考えにくかったのと、カリウム-40から放出されるガンマ線エネルギーは1461キロ電子ボルト(keV)のはずですが、得られたグラフをよく見るとガンマ線ピークが低エネルギー側にずれていたことから、測定上の問題ではないかと判断しました。そこで、測定精度の高いゲルマニウム半導体検出器(Ge検出器)を用いて再測定を行いました

土壌のガンマ線スペクトル

灰色線(幅広いピーク)
測定器:NaIシンチレーション検出器(EMF211)
測定時間:60分、試料:100ml
黒色線(鋭いピーク)
測定器:ゲルマニウム半導体検出器(BSI社製GCD-60200)
測定時間:15分、試料:70ml、新宿代々木市民測定所のご協力による

 

 2種類の測定器で得られたグラフを比較すると、Ge検出器はピークが鋭く、NaI検出器は幅をもったエネルギー分布しか得られないことが明らかです。カリウム-40のピーク付近を拡大してみると、NaI検出器は幅広い1つのガンマ線ピークになっていますが、Ge検出器は1461 keVの他に、1364 keVと1401keVにピークがありました。1364 keVはセシウム-134からでるガンマ線ですし、1401keVもセシウム-134からでるガンマ線2本分(605keVと796keV)が足し合わされたピークです。NaI検出器による測定では、セシウム-134のピークの一部をカリウム-40のピークと分離できないので、実際よりも高い濃度に定量していたことが分かりました。ターゲット核種に近いガンマ線エネルギーを放出する核種は他にもあります。常に慎重に解析しようと心を新たにしました。 

(谷村暢子)