タニムラボレター No.004 ジャガイモ植物体全体の調査結果

『原子力資料情報室通信』第460号(2012/10/1)より

 

 

 

ジャガイモ植物体全体の調査結果

 この放射能測定プロジェクトでは可食部だけでなく(前号参照)、植物体全体を視野に入れて、どの部分にセシウムが多く含まれているのかも調査しています。
 プロジェクトに御協力いただいている農家は有機農業を行っています。有機農業は地域の自然を活かした堆肥を使い、農薬や化学肥料を使用せずに作物を栽培する方法です*。堆肥は落ち葉や稲ワラ、家畜の糞尿、野菜くずなどを原料とし、微生物の働きによって原料に含まれる栄養素を植物が吸収しやすい形に変換したものです。
 試験農場では地域で得た原料から堆肥をつくる持続可能な循環型システムで農業を行っています。福島原発事故後の環境では、堆肥の原料に放射性セシウムがどの程度含まれているのかを把握することが、今後の食品の放射能汚染を考えるために役立つと考えられます。
 微量の放射能を測定するためには十分な体積の試料が必要です。ジャガイモ植物体全体を45リットル袋いっぱいに採取して持ち帰り、手作業で部位ごと(葉、茎、根、可食部、皮)に分離しました。土壌のセシウムの影響を排除するために丁寧に洗浄する必要がありますが、残念なことに根は表面積が大きく土壌と複雑に絡み合っていて、完全に洗浄することはできませんでした。
 流水洗浄後は室温で2日間乾燥させました。同じ乾燥条件でも部位によって含水状態が異なりました。そのため単位重量あたりの測定値(Bq/kg)から、単純に部位ごとのセシウム量を比較することはできません。
 測定結果を表に示します。セシウムは可食部より、葉や茎に1桁程多く含まれていました。可食部の134Csは不検出でしたが葉や茎からは137Csと134Csが共に検出されました。根からは最も高い数値が得られましたが、汚染土壌付着の影響で正確な測定ができなかった可能性があります。    

 

 

 

 

測定器:NaIシンチレーション式スペクトロメーター(EMF211)、測定時間:120分、検出限界3σ
産地:栃木県北部試験農場(液肥土壌)、植えつけ:2012年4月、収穫:2012年7月

*有機農業ハンドブック, 日本有機農業研究会編, 農山漁村文化協会, (1999)による

(谷村暢子)


過去のラボレターはこちらから御覧ください。

原子力資料情報室通信とNuke Info Tokyo 原子力資料情報室は、原子力に依存しない社会の実現をめざしてつくられた非営利の調査研究機関です。産業界とは独立した立場から、原子力に関する各種資料の収集や調査研究などを行なっています。
毎年の総会で議決に加わっていただく正会員の方々や、活動の支援をしてくださる賛助会員の方々の会費などに支えられて私たちは活動しています。
どちらの方にも、原子力資料情報室通信(月刊)とパンフレットを発行のつどお届けしています。