視点 無茶苦茶原子力規制委員会の誕生

『原子力資料情報室通信』第460号(2012/10/1)掲載

視点 無茶苦茶原子力規制委員会の誕生(2012/09/20改稿)

 4月1日に発足するはずだった原子力規制庁が、原子力規制委員会+委員会事務局としての原子力規制庁に姿を変えて9月1日にスタートするとされながら、19日にまでずれ込んだ。それも、本来は両議院の同意を得て内閣総理大臣が任命する委員長及び委員を、同意のないまま任命するという異例の形だ。
 確かに原子力規制委員会設置法の附則に定められた手続きで違法ではないようだとはいえ、それならむしろもっと早く任命することだってできたはずだ。細野豪志環境相は、この附則の規定を用いることはないので同意してほしいと参議院の環境委員会で答弁していた。同意が得られないから附則を持ち出すというのは、異例というより無茶苦茶だろう。そんな無茶苦茶から原子力規制委員会+原子力規制庁は始まった。
 任命された原子力規制委員会委員長は田中俊一・元原子力委員会委員長代理。日本原子力研究開発機構の前身の一つ、日本原子力研究所の東海研究所長を勤めた人物だ。委員は、更田豊志・前日本原子力研究開発機構原子力基礎工学研究部門副部門長、中村佳代子・前日本アイソトープ協会プロジェクトチーム主査、島崎邦彦・前地震予知連絡会会長、大島賢三・元国連大使の4人。「前」とあるのは委員就任直前までの前職である。規制対象である日本原子力研究開発機構や日本アイソトープ協会から、堂々と委員に選ばれている。辞職するからとか、営利企業でないからとかは、法に定める欠格要件を免れる理由たりえない。無茶苦茶かついんちき・ぺてんの幕開きである。国会は人事のやり直しを求めるべきだろう。
 そして、原子力規制庁だ。就任したばかりの規制委員長が、直ちに長官を任命し、規制庁も委員会と同時に立ち上がった。長官は「警備のエース」と呼ばれた池田克彦・前警視総監、次長は環境庁から環境省へとほぼ一貫して環境行政に携わり、内閣官房原子力安全規制組織等改革準備室長として規制委員会+規制庁を生み出す任についていた森本英香・元環境省審議官である。
 「事務局のトップに原発と関係のない省庁出身者を充てることで、『原子力ムラ』のイメージを払う狙いもある」とメディアは報じたが、警察は常に原子力分野での権限拡大を図ってきた。「我が国の安全保障に資する」と加えられた役割からの人選でもあるのだろう。情報公開にブレーキのかかることに、まずは要警戒である。
 また、環境省に置かれる3条委員会だからとして、同省が準備をすすめ、環境相が、規制委員長、委員、規制庁長官、次長らの人事を事実上決めてきたことに、規制委員会の独立性が大いに危ぶまれる。
 規制庁の職員約460人のうち、約350人が原子力安全・保安院の原子力規制部門からのほぼ丸ごとの移動だという。従来と異なった規制行政ができるかは、さらに危ぶまれる。

          
(西尾漠)

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