福島第一原発収束作業 被曝隠し、違法派遣や偽装請負など 問題噴出の現場

『原子力資料情報室通信』第460号(2012/10/1)より

 

 福島第一原発事故収束作業の現場では、さまざまな問題が噴出している。未成年者の被ばく労働、暴力団の介在、違法派遣や偽装請負。下請け業者のなかには労働者に労働条件を明示しない、健康保険に加入させずに就労させる、さらには本来は会社が負担すべき健康診断費や、放射線管理手帳の作成費を作業員の給料から天引きしていたことまでもが明らかになった。
 10月9日(火)に労働者と住民の健康と安全を守り、生じた健康被害を補償することを求める要請書に基づく第5回政府交渉、次いで11日(木)、福島第一原発被ばく労働問題政府交渉を開催する(詳細は脚注を参照ください)。昨年5月から2つのチャンネルで省庁交渉を重ねているが、質問に対するはかばかしい回答がないことが多い。しかし、労働条件の確保などさまざまな問題の解決のためには行政機関の役割はきわめて重要なので、地道に続ける。
 また、この4月に発足した「被ばく労働を考えるネットワーク」では、原発労働者の拠点となっている福島県いわき市での講演会と健康相談会(11月25日開催予定)の準備を始めている。
(渡辺美紀子)

 APD(警報付ポケット線量計)に鉛のカバーをつけ線量をごまかした事例の報道をきっかけに、作業時の線量計不携帯8件(2件が東京電力社員、6件が下請け作業者)、線量計の紛失20件などの例が相次いで出てきた。東京電力によれば、20件の紛失は昨年6月22日から今年8月16日までに起きたもので、休憩所などで防護服を脱いだり、下着を着替えたりしたときにAPDをはずし、そのまま紛失したケースが多いという。東電はこれらの問題を把握しながら、国に報告もしていなかった。
 私たちは原子力発電所における被ばく管理そのものがずさんであることは3.11事故以前から指摘してきたが、そのずさんさは想像をはるかに超えている。
 昨年の政府交渉で、私たちは海江田前経済産業大臣の「現場の人たちは線量計をつけて入ると(線量が)上がって法律では働けなくなるから、線量計を置いて入った人がたくさんいる」という発言を問題にして、どこからの情報を元にそのような発言があったのかを追及した。この情報の究明を怠り、うやむやにしてしまった経産省の責任はきわめて重い。 事故から1年半以上も経過した今になって、被ばく隠しに関する東電の再発防止策が「十分ではない」と指示をしても説得力はない。

きびしい現場での大きな被曝量
 福島第一原発の収束作業では、APDの警報設定線量が3ミリシーベルトとされるきびしい作業を強いられる現場がある。
 福島事故以前、原発の通常の定期点検作業で年間20ミリシーベルト以上被ばくした労

働者数は、個人の年間被ばく線量の統計が公表されるようになった2003年度から2009年度までの7年間で21人であった。
 一方、東電が8月31日発表した「福島第一原子力発電所作業者の被ばく線量の評価状況について」によると、2011年3月11日から12年7月31日までの外部被ばくと内部被ばく線量の合算値では、4,398人の作業者が20ミリシーベルトを超える被ばくをしている。しかも、この間明らかになったずさんな線量管理で、本来カウントすべき線量がもれていることは明らかだ。
 また、以前から内部被ばくの被ばく評価がどのように行われているのかは不明のままである。東電社員で高線量被ばくした人については丁寧な精密測定・評価が行われたが、協力会社や下請け会社の作業員からは十分な評価がされていないという不安や不満の声が多い。東電が毎月末に発表しているデータでも、作業者の内部被ばく線量の分布が月別に示されているのは、2011年10月までである。事故発生時、地震と津波で福島原発内のWBC(ホール<CODE NUM=00A5>ボディ<CODE NUM=00A5>カウンター、内部被ばく測定器)が使えなくなり、しばらくは作業者の内部被ばくは測定できないままの状態だったが、WBC測定が復活してからは月ごとに行われていた内部被ばく測定が、昨年12月の「事故収束宣言」以降3ヵ月ごとになったという。
 作業現場は除染して空間線量は低くなっているといっても、原発構内にはなお大量の放射性物質が存在する。また、東電では内部被ばくについて2ミリシーベルトが「記録レベル」とされている。それ以下は記録しなくてもよいという認識なのかを東電と厚労省に問わなくて はならない。

福島事故被曝労働者に健康管理のための「手帳」の交付を!

 厚生労働省は、50ミリシーベルト以上の被ばくをした作業者に「特定緊急作業従事者等被ばく線量等記録手帳」(以下、「手帳」)を交付し、離職後も健康診断を行うとしている。厚労省が作成している「作業者の長期健康管理データベース」も、東電が行っている被ばく線量評価にもとづいている。厚労省は東電のずさんな線量管理の問題をどうデータベースに反映させるのか?
 この「手帳」は、50ミリシーベルト以上の被ばくをした作業者だけではなく、「長期健康管理データベース」対象者全員に交付するべきである。また、「事故収束宣言」後に作業者となった「長期健康管理のためのデータベース」対象外の福島事故被ばく労働者の健康管理についてはどう考えるのか? もちろん、原発構内作業者だけでなく、除染作業や警備などさまざまな仕事に従事しているすべての作業者を対象としなければならない。

放射線による晩発性障害の認定基準作成

 これから先、廃炉作業に至るまで、数十年にわたって被ばく労働は続く。被ばくによる健康被害が多数出ることは必至だ。また、十数年、数十年後に病気は発症し、しかも病気は他の原因でも発生するので疾病と放射線被ばくとの因果関係を立証することは困難をきわめる。
 これまで私たちは、原発労働者においてはじめての「多発性骨髄腫」と「悪性リンパ腫」の労災申請を支援してきた。署名集め、厚労省交渉を重ね、さらに「電離放射線障害の業務上外に関する検討会」に最新の疫学論文や意見書を提出し、ようやく認定を勝ち取った。そして、労働基準法施行規則(労規則)第35条専門検討会での検討を経て、2010年5月、「多発性骨髄腫」と「悪性リンパ腫(非ホジキンリンパ腫に限る)」は労災認定の対象疾患として労規則別表第1の2の「第七号10」に加えられた。支援を開始して、約6年間もかかった。
 桁違いの被害が予想される福島事故ではこんな時間はかけられない。被害補償の対象疾病については、すべての「がん」を対象とするなど現行の労規則第35条別表の抜本的拡大が必要である。いますぐに作業にとりかからなければ間に合わない。

1年半で5件の死亡事故

 昨年5月、作業中に心筋梗塞で死亡した大角勝信さんの遺族に対し、横浜南労働基準局は今年2月24日、「過労が原因の心筋梗塞」として労災を認定した。医務室の医師が不在で、大角さんが体調不良を訴えてから病院に着くまで2時間以上かかった。
 昨年8月、休憩所を出入りする作業員の被ばく管理をしていた男性が白血病で死亡。累積被ばく線量は0.5ミリシーベルト。
 昨年10月、タンク設置工事に従事していた50代の男性作業員が作業中に倒れ死亡、死因は後腹膜の腹膜膿瘍による敗血症ショック。累積被ばく線量は2.02ミリシーベルト。
 今年1月、放射性物質を含む汚泥の貯蔵施設の建設作業に従事していた60代の男性作業員が急性心筋梗塞で死亡。昨年5月から作業に従事しており、累積被ばく線量は6ミリシーベルト。
 今年8月、日立GEニュークリア・エナジーの4次下請けの作業員が急性心筋梗塞で死亡した。昨年8月から汚染水貯蔵タンクの増設工事に従事、累積被ばく線量は25.42ミリシーベルト。
 事故後約1年半の事故処理作業で5件の死亡事故が生じている。これらの作業は被ばく労働であるだけではなく、心身に大きな負荷がかかる過酷な労働現場で、しかも病院に搬送されるまで時間がかかりすぎるなど、十分な対応がされていないことによるものである。
 厚労省は東電にどのような対応を求めてきたか、また今後どのような対応を求めるのか。死亡者の労災申請、認定状況はどうなっているのかを問う必要がある。

被曝限度を超えた場合の生活保障

 被ばく限度を超えた労働者の実態をどのように把握しているかを問いたい。また、線量限度を超えた労働者に対しては、被ばく労働以外の仕事の保障、または生活の保障を行うべきである。

 9月22日午前11時すぎ、3号機原子炉建屋の上にあるがれきを大型クレーンを使って撤去作業中、長さ約7メートル、重さ約740キロの鉄骨が使用済み燃料プール内に落下したというニュースが飛び込んできた。3号機のプールには566本の燃料集合体が保管されている。東京電力の発表では、設置してある線量計の値などに変化はなく、冷却も問題なくできている、作業していた17人作業にけがはなかったとされた。懸念は尽きない。

*下記2件の交渉を実施します。詳細はリンク先を参照ください。

10/9開催 労働者と住民の健康と安全を守り、生じた健康被害を補償することを求める要請書に基づく第5回政府交渉
  10/11開催 福島第一原発事故に伴う被ばく労働に関する関係省庁交渉

原子力資料情報室通信とNuke Info Tokyo 原子力資料情報室は、原子力に依存しない社会の実現をめざしてつくられた非営利の調査研究機関です。産業界とは独立した立場から、原子力に関する各種資料の収集や調査研究などを行なっています。
毎年の総会で議決に加わっていただく正会員の方々や、活動の支援をしてくださる賛助会員の方々の会費などに支えられて私たちは活動しています。
どちらの方にも、原子力資料情報室通信(月刊)とパンフレットを発行のつどお届けしています。