原子力資料情報室声明 JAEA大洗事故―原子力利用が潜在的に持つ普遍的な問題

2017年6月13日、NPO法人原子力資料情報室は日本原子力研究開発機構大洗研究開発センター燃料研究棟で発生した事故について、下記声明を発表いたしました。


JAEA大洗事故―原子力利用が潜在的に持つ普遍的な問題

 

2017年6月13日

NPO法人原子力資料情報室

 

2017年6月6日、日本原子力研究開発機構(JAEA)大洗研究開発センター燃料研究棟(PFRF: Plutonium Fuel Research Facility)にて、プルトニウム・濃縮ウラン貯蔵容器の点検中に汚染事故が発生、当時作業していた5人(内職員2名、派遣1名、請負2名)全員から放射性物質が検出された。当初発表によれば、内1名からは肺モニタによりプルトニウム239で22,000Bq、アメリシウム241で220Bqの汚染が確認された。ただ、その後、再測定したところプルトニウム239は検出されなかったと発表された。鼻スミアで3名から放射性物質が検出されていることから予断を許さないが、大量吸引がなかったとすれば、それ自体は喜ばしい。

燃料研究棟はウラン・プルトニウム混合炭化物や窒化物燃料や高速炉用の燃料製造・研究開発をおこなう施設で、1974年に竣工、プルトニウムを使用した試験は1977年から開始されていた。しかし、2012年以来、高速増殖原型炉もんじゅやJ-PARCハドロン実験施設といった原子力関連施設における保守管理上の不備や事故が相次いで発覚・発生したことから組織体制・業務の抜本的な改善が迫られたJAEAは、2013年9月、「日本原子力研究開発機構の改革計画自己改革―「新生」へのみち―」を発表した。その中で事業の合理化を図る観点から燃料研究棟を含む6施設の廃止を決定していた。

今回の汚染事故が発生した際におこなわれていた作業は、核燃料物質を収納したプルトニウム・濃縮ウラン貯蔵容器の点検作業だった。円筒形(直径15cm、高さ22cm)のステンレス製貯蔵容器には試験済燃料の残渣約300gがポリ容器に入れられ、さらに密閉性のあるビニルバックに2重に入れて収められていた。この核燃料物質が収められたのは1991年からでその後開けられた記録は無い。このステンレス製貯蔵容器の開封作業中に、中のビニルバックが膨らんで破裂したという。

内容物はウラン・プルトニウムの混合化合物(金属重量換算でプルトニウムが約27%)で、化合形態は酸化物や窒化物であるという。ビニルバックが膨らんだ原因は複数考えうるが、ウランやプルトニウムの同位体の多くはα崩壊することから、ヘリウムガスが発生する。さらに、内容物が収められたポリ容器は強烈な放射線に晒され続けて劣化した上、水素ガスなどの可燃性ガスを発生させていたことだろう。1991年から開けたことがなかったとすれば、その間、ヘリウムガスや水素ガスなどにより容器の内圧は高まっていたと推測される。加えて作業は、グローブボックスと呼ばれる外気と遮断した設備ではなく、フードと呼ばれる前面開口部から作業する設備で実施されていた。この事故の発生は必然だったといえる。1999年の東海村JCO臨界事故でも放射性物質のずさんな取り扱いが事故原因となったが、これが繰り返された格好だ。

燃料研究棟には同様の容器が80個あり、そのうち、破裂したものと同様のものは20個あるという。容器の内部が今回と同様の状態になっている、もしくはすでに漏れている可能性も否定できない。点検自体は中止することはできないが、今後の点検作業には入念な準備の上に実施すべきだ。

さらに、今回、26年間開封しなかった容器の中にプルトニウムが収められていたことも問題である。日本は、「利用目的のないプルトニウムは持たない」との国際約束を掲げてきたからだ。26年間開封せずに放置されてきたプルトニウムの利用目的は一体何だったのか。利用目的のないプルトニウムを持たないことを判断する行政機関であるところの原子力委員会には、このプルトニウムは一体何なのかの確認を求めたい。

 

問題はJAEAにとどまらない。今年2月15日に原子力規制庁は、日本原燃㈱、JAEA、ニュークリア・デベロップメント㈱、公益財団法人核物質管理センターの4者にたいして、保安規定上の貯蔵施設または廃棄施設に適切に貯蔵・廃棄するべきところ、使用施設(セル、グローブボックス、フード等)で長期間保管していたとして、改善するよう通知している。JAEAのみならず他社においても核物質の取り扱いに問題があったことを示している。

 

人間は慣れる生き物であり、様々な対策をとったとしてもヒューマンエラーを完全に回避することはできない。今回の事故においてどのような検討過程を経て、この作業を実施したのかは不明だが、問題は原子力利用においてはヒューマンエラーが極めて深刻な問題を広範にかつ長期間に渡って引き起こしうるということではないだろうか。

また、人間は忘れる生き物でもある。ウラン235の半減期は 約7.04億年、ウラン238の半減期は約44.68億年、プルトニウム239の半減期は約2.41万年である。対して使用された当時は入念に取り扱われたであろう核物質はわずか26年で存在を忘れ去られ、そして、これほど簡単に取り扱われ、事故を引き起こした。放射性物質の時間と人間の時間が全く異なるものであることを、この事故は改めて私たちに示した。

今回の事故では幸い外部への放射性物質の大量放出は起こらず、作業員の被ばくも現状比較的低く抑えられていると見られる。しかし、私たちは2011年東京電力福島第一原発事故でどれだけの被害がもたらされたのかを知っている。

原子力事故はどこかで必ず起こる。脱原発は必然だ。

以上