【声明】環境省:除去土壌の再生利用 二重基準隠しに抗議

環境省:除去土壌の再生利用 二重基準隠しに抗議 8,000Bq/kg以下の除染土壌を再生利用すべきではない!

 

2016年6月30日

NPO法人 原子力資料情報室

 

 6月27日付毎日新聞の報道によると、環境省の検討会が除染による除去土壌を再生利用する方針を決めた際、非公開会合で二重基準隠しの「理論武装」を行っていたことが分かったという。

 この非公開会合は、環境省「中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略検討会」(座長=細見正明・東京農工大学大学院教授)の下に設置された、「平成27年度除去土壌等の再生利用に係る放射線影響に関する安全性評価検討ワーキンググループ」(放射線影響安全性評価検討WG)」(委員長=佐藤努・北海道大学大学院工学研究院 環境循環システム部門資源循環工学分野教授)である。放射線防護等の専門家で構成され、2016年1月から5月にかけて、8人の委員により6回の非公開会合が行われた。

 検討会では、福島県内の除染に伴い発生した最大約2,200万m3(2015年1月時点)と推計される除染土壌を含む除染廃棄物を①県外最終処分に向けてできるだけ減らす、②土壌を資源として使用する、という2つの観点から除染土壌の再利用を行う方針を明らかにした。必要な規模の最終処分場の確保の観点から、環境省は除染土壌をできる限り再生利用にまわし、最終処分量を低減したい考えだ。放射性物質汚染対処特措法に基づいて、再生利用の対象とする除去土壌のセシウム濃度(134、137の合計、以下同様)を8,000Bq/kg以下にするとしている。

 環境省は放射性廃棄物のセシウム濃度について、放射性物質汚染対処特措法に基づく8,000Bq/kgが「廃棄物を安全に処理するための基準」、原子炉等規制法に基づく100Bq/kgが「廃棄物を安全に再利用するための基準(クリアランスレベル)」と説明している。放射性物質汚染対処特措法に基づく8,000 Bq/kg以下の除去土壌の再生利用は、原子炉等規制法による100Bq/kg以下のクリアランスレベルの80倍である。このままでは、原子炉等規制法の基準と放射性物質汚染対処特措法の基準が併用されるダブルスタンダード(二重基準)の状態となる。

 毎日新聞によると、非公開で行われてきた「放射線影響安全性評価検討WG」 の佐藤努委員長(北海道大学教授)は、除去土壌を再生利用するにあたって二重基準だと言われないようにするための理論武装だと考えている、という発言をしている。二重基準と指摘される恐れがありながら、非公開会合で議論を進めたことになる。

 さらに、今年4月13日の参議院 東日本大震災復興・原子力問題特別委員会で、丸川珠代環境大臣はWGの存在を認めたが、議事録などは「公にすれば誤解や混乱を生む可能性がある」と公開を拒否したという。

 また、再生利用の用途は公共事業等に限定し、道路・鉄路の盛土材、海岸防災林、防潮堤、廃棄物処分場(最終処分場)の土堰堤、土地造成・水面埋め立てなどとされている。しかし、非公開会合ではJAEAの担当者から、盛り土の耐用年数は70年という指標があり、5,000Bq/kgの除去土壌を再利用すれば100Bq/kgまで減衰するのに170年かかるため、供用中と供用後で合わせて170年管理することになる、との試算が提示されていながら、道路の供用終了後100年間の管理については長期管理の可否判断を先送りしたという。

 検討会の「戦略」では、今後セシウム濃度が8,000Bq/kg以下の除去土壌を用いて、南相馬市小高区の仮置場で実証試験を実施するとしている。現在、南相馬市と実施に向けて相談中で、市長には了承と同意をもらったが、地権者や住民の合意は得られていない。

 実証試験について、非公開の議論を元に自治体と話を進めることは、情報公開の原則に反する※1。実証試験場所となる南相馬市の周辺住民から、環境省に対する一層の不信感が噴出することは必至である。

 すでに、環境省指定廃棄物対策担当参事官室は、「福島県内における公共工事における建設副産物の再利用等に関する当面の取扱いに関する基本的考え方」に基づき、福島県の避難指示区域内で発生した3,000Bq/kg以下の災害がれき(コンクリートがら)23万トンを避難指示区域の沿岸部で、海岸防災林の盛土材に使用したと回答した。

 しかも、原子力資料情報室が環境省に問い合わせたところ、放射性物質濃度測定を行い、セシウムが3,000Bq/kg以下であることを確認した上で業者に引き渡したというが、「業者がどの場所でどのくらいの量を使用したかは業者に任せているためわからない。全量を完全に使い切ったかどうかわからない」と説明。業者に対しては30cm以上の覆土を行うように求めているが、「実際に確認したわけではないため、業者が本当にその施工を守っているかどうかわからない」というずさんな管理の実態が明らかになった。

 環境省は、「適切な管理の下で、用途を限定して使用する」ことを前提としている。ところが実際には事業者に任せて報告などは受けず確認もしない。手抜き工事など悪意を持った不正の可能性についても考慮していない。このような、環境省のずさんな管理に対する不信感はさらに増すであろう。

 環境省が会合を非公開にする理由は全くない。今からでも遅くはない。環境省は非公開姿勢を公開姿勢へと改めるべきだ。

 さもなければ、実証試験で地権者や住民の合意は得られないだろうし、現在進められている「中間貯蔵施設」の建設にも支障を来すだろう。ましてや30年後の「県外最終処分場」の計画に理解を得ることなど到底不可能だろう。住民・市民の根強い不信感を環境省はしっかりと知るべきである。

 

※1 「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」(平成13年 4月1日施行)

 

※本件については、2016年4月27日にプレスリリースを出し、原子力資料情報室通信7月号で詳細について取り上げましたので、ご参照ください。