原子力資料情報室声明 8,000Bq/kg以下の汚染土の再生利用の撤回を求める
8,000Bq/kg以下の汚染土の再生利用の撤回を求める
2016年4月27日
NPO法人原子力資料情報室
3月30日、環境省は「中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略検討会」(座長=細見正明・東京農工大学大学院教授)の第3回会合を都内で開いた。そこで、「減容処理後の浄化物※の安全な再生利用に係る基本的考え方骨子(案)」が提示された。再生利用の対象とする除去土壌のセシウム134、137の濃度を8,000Bq/kg以下にするという。
検討会では、除去土壌等は最大約2,200万m3と推計され、必要な規模の最終処分場の確保の観点からできる限り再生利用にまわし、最終処分量を低減することが必要だと考えられたのだ。再生利用の用途は公共事業等に限定し、道路・鉄路の盛土材、海岸防災林、防潮堤、廃棄物処分場(最終処分場)の土堰堤、土地造成・水面埋め立てなどとされている。そして、再生利用による住民の追加被ばく線量は0.01mSv/年に制限するとしている。
環境省はこれまで放射性廃棄物の再生利用に関して、原子炉等規制法に基づくクリアランス(規制解除)レベルの100Bq/kg(セシウム134、137について。以下同様)が「廃棄物を安全に再利用するための基準」であり、放射性物質汚染対処特措法に基づく8,000Bq/kgが「廃棄物を安全に処理するための基準」と説明してきた。原子炉等規制法では、それ以下の濃度なら放射性廃棄物を一般社会で使われる製品(例えば建築資材のコンクリート、ベンチの金属など)に再生利用できるクリアランスレベルを100Bq/kgと定めている。しかし、安全性について疑問視されており、限られた場所で、それも試験的にのみ再生利用されているのが現状である。
今回、放射性物質汚染対処特措法に基づいて、再生利用の基準が8,000Bq/kgに設定されれば、用途こそ限られているが、比較的早期に一般社会で使用されることになりかねない。このようなダブルスタンダードの運用では、法規制の整合性すら取れない。また、整合させるためにクリアランスレベルのほうが緩められることが危惧される。
再生利用土壌に覆土をして遮蔽すれば放射線量が下がり問題ないというが、降雨、浸食などによる環境中への流出も懸念される。地下水を汚染して農地や生活圏に流れ出る可能性も高い。道路の陥没、崩壊などが起きれば汚染土がむき出しになる。海岸防災林、防潮堤というが、津波で破壊されると内陸や海への流出は避けられない。クリアランスで路盤材等に使うとされているコンクリートに比べても、容易に起こりうることである。工事の作業員、遊び場とする子どもたちなどの被ばくも避けられない。しかも、事故が起こった場合は追加被ばく線量は0.01mSv/年を超えてもよく、1mSv/年で制限すればよいとしている。結果として放射性物質が全国にばら撒かれることになる。広く放射性物質を社会に拡散するような取扱いはするべきではない。
放射性物質を含んだ除染土を公共事業で利用する方針の撤回を求める。
以上
※浄化物とは、様々な方法で土壌を処理して放射性セシウムを一定程度除去した物を言うが、化学処理にせよ熱処理にせよ、実用には多くの課題がある。