常磐道拡幅工事での除染土再生利用問題 ―地元住民の反対で再検討の方向―
常磐道拡幅工事での除染土再生利用問題 ―地元住民の反対で再検討の方向―
昨年、福島県二本松市原セ地区の除染土壌再生利用実証事業が住民の反対で中断となり、事実上頓挫した(本『通信』530号)。南相馬市と飯舘村長泥地区の実証事業については532号、栃木県那須町の埋設処分問題は533号で報告されている。なお、那須町の埋立事業はすでに実施されてしまった。今回は、南相馬市小高区で、常磐道の拡幅工事に除染土壌を再生利用する問題について報告する。
8,000Bq/kg以下除染土の再生利用問題
福島県内の除染に伴い発生した土壌や廃棄物等について環境省は、①中間貯蔵施設への輸送の負担の軽減、②最終処分場の確保の観点から、最終処分量を低減するため、除染土壌の再生利用をおこなう方針だ※1。放射性物質汚染対処特措法に基づき、8,000Bq/kg以下(セシウム134・137の合計)の除染土を再生利用の対象としている。環境省は、除染土を含む除染廃棄物を大熊町と双葉町に建設中の中間貯蔵施設で集中的に貯蔵し、「中間貯蔵開始後 30 年以内に福島県外で最終処分を完了するために必要な措置を講ずる」との方針だが、最終処分場は未定だ。
一方、原子炉等規制法では、セシウムで100Bq/kgがクリアランスレベルとされ、これ以下の放射性廃棄物が一般社会で使う製品に再生利用できることになっている。放射性物質汚染対処特措法に基づく8,000Bq/kg以下の除去土壌の再生利用は、原子炉等規制法のクリアランスレベルの80倍となる。2つの基準が存在するダブルスタンダードの状態だ。
環境省は除染土壌に覆土をして遮蔽し、追加被ばく線量を10μSv/年に抑えれば問題ないというが、道路の陥没や崩壊などが起これば除染土がむき出しになり、環境中へ流出する懸念がある。工事の作業員の被ばくも避けられない。
南相馬市小高区東部仮置場における実証事業
2017年5月から、南相馬市小高区の東部仮置場内で、再生資材化実証試験および試験盛土によるモニタリングが実施されている。再生資材化※2した除染土壌を積み上げ、その周りを汚染されていない土で覆土する。盛土全体の土量は約4,000トン、うち再生資材化した除染土壌の土量は約700トン。再生資材には3,000Bq/kg以下の除染土壌のみを用いており、平均放射能濃度は771Bq/kg。浸出水や放射線量などのモニタリングをおこない、終了後に盛土構造物は撤去される。
2017年9月~2019年1月末までのモニタリングによる結果として、以下がまとめられた。
・実証事業施工後の空間線量率は施工前、施工中と比較して大きな変動がない(空間線量率は0.04~0.09μSv/h程度)。
・盛土の中を雨水が浸透して出てきた水をサンプリングした盛土浸透水の放射能濃度の分析結果は、すべて検出下限値未満(検出下限値 Cs-134:0.2~0.293Bq/L、Cs-137:0.2~0.331Bq/L)。
・盛土周辺の大気中放射能濃度は、ダストサンプラーで吸引・捕集したダストを、Ge半導体検出器で放射能濃度を測定。除染土壌搬入開始前から盛土完成以降、大きく変動していない。
常磐道の拡幅工事と小高IC計画
南相馬市での実証事業を受けて、環境省は新たな再生利用計画を持ち出してきた。常磐道では、現在の2車線(片側1車線)から4車線(片側2車線)への拡幅工事がおこなわれている。その盛土に除染土を使うという計画だ。2018年12月14日の南相馬市議会全員協議会で環境省が説明した。実証事業案の候補地に挙がった南相馬市小高区羽倉(はのくら)地区で、実証事業と同じ濃度に調製した平均約771Bq/kgの除染土約1,000m3(フレコンバッグ約1,000袋分)を盛土に使うという。
現地は、南相馬市馬事公苑の下を通る常磐道原町トンネルのすぐ南側。常磐道の脇に建つ羽倉公会堂の前には、反対ののぼりが立ち並ぶ。この付近では常磐道の両側は、高さが約5~10mほど低くなっており、車線の拡幅工事では盛土をする必要がある。すでに拡幅工事用の用地が確保され、いつでも盛土の搬入がおこなえる状態になっていた(写真)。
この計画の背景には、小高インターチェンジ(IC)新設計画があることが報道※3により明らかになった。南相馬市は2017年、国土交通省に対して常磐道小高ICの新設を要望した。約60億円の予算がかかるため、国土交通省・道路局長から、環境省の中間貯蔵施設への除染土搬入の予算を使う案が示された。環境省は、南相馬市からの要望を踏まえて、小高ICと高速道路での除染土の再生利用について南相馬市と意見交換した。
桜井勝延・前南相馬市長は、「これを使えば予算を確保できるのではないか。協力していきましょうとの前向きな回答だった。やむを得ずやるべきだ。これまでに、南相馬市沿岸部の防潮堤、海岸防災林に3,000Bq/kg以下の汚染がれき(コンクリート廃材やアスファルト廃材)を使用した。なぜ除染土は再生利用できないのか。除染土の仮置場が徐々になくなっていくことによって、農業の復旧が進む」と番組※3で発言した。
環境省は、再生利用を受け入れないと小高ICの建設予算は出さないとしており、ICを作ることと除染土の再生利用がバーターにされたようだ。
小高区羽倉地区では、住民からいっせいに反対の声が上がり、2月3日の役員会で全会一致で反対を決定。2月27日には市民の会が、約3,000人の反対署名を門馬和夫市長に提出した。3月7日に環境省が開いた説明会には、小高区西部の行政区長10人が出席。常磐道拡幅工事と小高IC新設工事で、除染土を使う計画の撤回を求めた。「風評が心配」「安全性に疑問がある」などの反対意見も続出した。
4月に筆者が環境省に問い合わせたところ、「南相馬市と相談の上で実証事業を計画したが、地元の了解がなければ進められない。現状では再検討せざるを得ない。南相馬市以外での実施は考えていない」との回答だった。
再生利用技術開発戦略
3月19日、環境省の中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略検討会(第10回)が開かれた。「戦略目標の達成に向けた見直し(案)」※4では、取組状況等を踏まえて、見直しを実施した。
福島県内の除染土壌等について、これまでは2,200万m3と推計していたが、2018年10月時点で約1,330万m3と見直された。避難指示が解除された市町村の除染が終了し、現在仮置場にある輸送対象物量を試算したものだ。ただし、帰還困難区域の除染等で今後発生が見込まれる除染土壌は含まれていない。約1,330万m3の内訳は、焼却灰が約30万m3、8,000Bq/kg以下の除染土壌が約1,070万m3、8,000 Bq/kg超の除染土壌が約230万m3と、いずれも訂正された。中間貯蔵開始から30年後には、放射性セシウムの放射能濃度は事故当初の4分の1以下に減衰し、総発生見込み量のうち約8割超は8,000Bq/kg以下になると見込んでいる。さらに、すべての減容処理技術を適用した場合、最終処分量を9割以上削減できる可能性があるとしている。
◇ ◇ ◇
環境省は、除染土を公共事業で利用する方針を続ける意向で、唯一実施中の飯館村長泥地区以外にも、除染土の再生利用先を虎視眈々と狙っているようだ。除染土を全国に拡散させて再生利用すること自体が間違っており、反対の声を上げ続けなければならない。
(片岡遼平)
※1 環境省「中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略検討会」
※3 TBS報道特集「除染土と復興~東日本大震災から8年」(2019/3/9 放送)
www.tbs.co.jp/houtoku/onair/20190309_1_1.html#
※4 「中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略 戦略目標の達成に向けた見直し(案)」
josen.env.go.jp/chukanchozou/facility/effort/investigative_commission/pdf/proceedings_190319_04_02.pdf