8,000Bq/kg以下の除染土壌を再生利用すべきではない

『原子力資料情報室通信』第505号(2016/7/1)より

 

8,000Bq/kg以下の除染土壌を再生利用すべきではない

 

 福島県内の除染に伴い発生した土壌や廃棄物等は最大約2,200万m3(2015年1月時点)と推計されている。環境省は、除染土壌を含む除染廃棄物を大熊町と双葉町に建設予定の中間貯蔵施設で集中的に貯蔵するとしており、2045年3月までに福島県外に運び出す計画だが、最終処分場は決まっていない。中間貯蔵施設の地権者は2,365人で、今年4月末時点で契約までこぎつけたのは113人。取得面積は全体(約1,600ヘクタール)の2%程度(計約35ヘクタール)にとどまる。必要な規模の最終処分場の確保の観点から、環境省は除染土壌をできる限り再生利用にまわし、最終処分量を低減したい考えだ。

 

 除染土壌の再生利用

 6月7日、環境省は「中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略検討会」(座長=細見正明・東京農工大学大学院教授)の第4回会合を都内で開いた。「減容処理後の浄化物※1の安全な再生利用に係る基本的考え方骨子」では、①県外最終処分に向けて除染土壌をできるだけ減らす、②土壌を資源として使用する、という2つの観点から除染土壌の再利用を行う方針だ。放射性物質汚染対処特措法に基づいて、再生利用の対象とする除去土壌のセシウム濃度(134、137の合計、以下同様)は8,000Bq/kg以下にするとしている。
 また、環境省除染・中間貯蔵企画調整チームでは、「再生利用に使用する除染土壌は福島県内の除染土壌に限定されるが、使用先は全国の公共事業が対象になる」としている。再生利用の用途は、道路、海岸防災林、防潮堤、土堰堤、土地造成などとされている(図1)。

 環境省の検討会では、工事中の作業員・住民の追加被ばく線量を1mSv/年、工事終了後は覆土などにより、住民の追加被ばく線量※2を0.01mSv/年に抑えるとしている。

 

図1.再生利用の用途先および部材の例
(環境省「中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略検討会」資料より)

 

ダブルスタンダードの矛盾

 環境省はこれまで放射性廃棄物のセシウム濃度について、原子炉等規制法に基づく100Bq/kgが、「廃棄物を安全に再利用するための基準(クリアランスレベル)」であり、放射性物質汚染対処特措法に基づく8,000Bq/kgは、「廃棄物を安全に処理するための基準」と説明してきた。 原子炉等規制法では、100Bq/kg超の廃棄物は、放射性廃棄物として厳重な取扱いが必要であると規定しており、100Bq/kg以下はクリアランスレベルとして、放射性廃棄物を一般社会で使われる製品に再生利用できる。しかし、市民の反対から、限られた場所(例えば建築資材のコンクリート、ベンチの金属など)で、それも試験的にのみ再生利用されているのが現状である。
 放射性物質汚染対処特措法に基づく8,000Bq/kg以下の除去土壌の再生利用は、原子炉等規制法の100Bq/kg以下のクリアランスレベルの80倍となる。原子炉等規制法の基準と放射性物質汚染対処特措法の基準が併用されるダブルスタンダードの状態になる。

 

再生利用とクリアランスの比較
(環境省「中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略検討会」資料より)

 

環境への放射性物質の拡散

 再生利用土壌に覆土をして遮蔽すれば放射線量が下がり問題ないというが、道路の陥没や崩壊などが起きれば汚染土がむき出しになり、環境中へ流出する懸念がある(図2)。地下水を汚染して農地や生活圏に流れ出る可能性も高い。熊本・大分の大地震でも、各所で道路の崩落やひび割れが発生した。海岸防災林、防潮堤というが、津波で破壊されると内陸や海へ流出する。

 除染土壌の再生利用では、工事の作業員、使用された場所を遊び場とする子どもたちや住民の被ばくも避けられない。しかも、事故が起こった場合は追加被ばく線量は0.01mSv/年を超えてもよく、1mSv/年で制限すればよいとしている。

 

図2.放射線防護のための管理のイメージ
(環境省「中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略検討会」資料より)

 

すでに実施された災害がれきの再利用

 6月8日、環境省との2回目の政府交渉(主催:FoE Japan)が行われた。これまでに行われた実際の再生利用実績について、環境省指定廃棄物対策担当参事官室は、「福島県内における公共工事における建設副産物の再利用等に関する当面の取扱いに関する基本的考え方」※3に基づき、福島県の避難指示区域内で発生した3,000Bq/kg以下の災害がれき(コンクリートがら)23万トンを避難指示区域の沿岸部で、海岸防災林の盛土材に使用したと回答した。環境省は放射性物質濃度測定を行い、セシウムが3,000Bq/kg以下であることを確認した上で業者に引き渡したというが、「業者がどの場所でどのくらいの量を使用したかは業者に任せているためわからない。全量を完全に使い切ったかどうかわからない」と説明。業者に対しては30cm以上の覆土を行うように求めているが、「実際に確認したわけではないため、業者が本当にその施工を守っているかどうかわからない」というずさんな管理の実態が明らかになった。
 環境省は、「適切な管理の下で、用途を限定して使用する」ことを前提としている。ところが実際には事業者に任せて報告などは受けず確認もしない。手抜き工事など悪意を持った不正の可能性についても考慮していない。ずさんな管理で放射性物質を社会に拡散するような取扱いはするべきではない。

 

南相馬の仮置場で実証試験

 検討会の「戦略」では、今後セシウム濃度が8,000Bq/kg以下の除去土壌を用いて、南相馬市小高区の仮置場で実証試験を実施するとしている。現在、南相馬市と実施に向けて相談中で、市長には了承と同意をもらったが、地権者や住民の合意は得られていない。
 実証試験は、フレコンバック約1,000袋(1,000m3、約1,800トン)分の除去土壌を用いて仮置場内で減容処理し、盛土を造成して再生資材のモデル的活用試験を行う。試験施工の際には、遮水シートによる放射性物質の地下への浸透防止、飛散・流出の防止、汚染されていない土壌による適切な遮蔽などを行い、安全性に関する理解醸成活動を実施する。実証試験後は施設を撤去し、土壌はフレコンバックに詰め直して保管するとしている。

◇   ◇   ◇

 放射性物質汚染対処特措法に基づいて、再生利用の基準が8,000Bq/kgに設定されれば、用途こそ限られているが、一般社会で使用されることになりかねない。放射性廃棄物を生活圏の中で再生利用すること自体が間違っている。環境省は、放射性物質を含んだ除染土壌を公共事業で利用する方針を撤回すべきだ。             

 (片岡遼平)

 

【環境省:中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略検討会】
josen.env.go.jp/chukanchozou/facility/effort/investigative_commission/

 

※1 減容処理後の浄化物:様々な方法で土壌を処理して放射性セシウムを一定程度除去した物を言うが、化学処理にせよ熱処理にせよ、実用には多くの課題がある。
※2 自然被ばく線量を除く被ばく線量
※3 「福島県内における公共工事における建設副産物の再利用等に関する当面の取扱いに関する基本的考え方」(2013年10月25日内閣府原子力災害対策本部 原子力被災者生活支援チーム)

 

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