南アフリカの2つの小さなNPOが政府の原発計画を提訴した

 『原子力資料情報室通信』第505号(2016/7/1)より

ショーン・ブラウン
(南アフリカ宗教者団体環境研究所(SAFCEI)業務責任者)

 

 南アフリカでは国営電力会社ESKOMが所有するクバーグ原発に2基の仏フラマトム(現アレバNP)製加圧水型原子炉が稼働中だ。さらに2030年までに960万kW(6~8基)の原子炉を導入する計画が進められ、フランス・ロシア・中国・韓国・米国が積極的に売り込みをかけていると報じられている。なお、2007年にESKOMは400万kWの第二サイトを手始めに、2025年までに2000万kW分の原発を建設すると発表し、5箇所の建設候補地を発表した。東芝の子会社米ウェスティングハウスのAP1000や仏アレバのEPRが入札に応募したものの、第二サイトの建設コストが高く(1.3兆円)、計画を中断していた。
 日本も、2010年9月から原発輸出の前提となる原子力協力協定の締結交渉を進めており、ウェスティングハウスも依然、クバーグ原発のメンテナンスなどを手がかりに、南アフリカ市場を狙っている。
 今号では、南アフリカで反原発運動に取り組んでいるSAFCEIのショーン・ブラウンさんに南アフリカの新規原発建設の問題点を報告していただいた。


 

 南アフリカ宗教者団体環境研究所(SAFCEI)は、アースライフ・アフリカ・ヨハネスブルク(ELA)と共同して、南アフリカ政府の960万kW分の原発購入決定プロセスにかんしてケープタウン高等法院に提訴した。SAFCEIとELAが訴訟を提起したのは、2015年9月に政府がロシアと原子力発電所建設にかんする国際的な合意に至ったからだった。

 この国では電力供給の選択は、政治の決定に委ねられている。環境問題に係わる組織であるSAFCEIは政策決定過程に監視と参画、さらに倫理的な政策決定を盛り込むことを求めている。SAFCEIは2010年に策定された、政府の2030年までの電力計画(IRP2010)に反対している。IPR
2010は2011年3月、福島第一原発事故が示す問題が明らかになる前に急いで閣議決定にかけられたものだ。この電力計画には960万kWの原子力発電所導入計画が押し込まれていた。
 SAFCEIは多くの宗教団体の代表者たちが係わる組織として、善き統治の根底には正しい倫理と価値感が必要だと考えている。善き統治には2つの側面がある。それは政府の観点からは良い意思決定、そして市民社会の観点からは意思決定プロセスへの参画、である。善き統治の実践は南アフリカの全ての人びと、そして、やがて生まれる多くの世代の利益を意思決定に反映させることを保証する。

 SAFCEIとELAは政府が1兆ランド(1ランド=7円換算で7兆円)もの計画を決定する前に、徹底した議論や討論の過程が必要だと考える。そして、その為には人々が事実や数字に容易にアクセスでき、購入能力にかんする研究や、経済的な影響調査が必要だとも考える。南アフリカ憲法231条2項は、国際条約は例外を除き、国会の承認が必要だと定め、231条3項は、その例外は行政協定などの技術的なものであると定めている。しかし、南アフリカのティナ・ジェマット=ペターソン・エネルギー大臣は国家法律アドバイザーの助言に従って、ロシアとの協定を231条2項に該当するものとせず、231条3項の行政協定に該当するものとして国会に諮らなかった。

 南アフリカ・ロシア間の一般枠組み合意は、一般と言いつつも、実際にはとても厳密に原子炉関連や原発が建設されるサイト関連の事項が記述されている。もし何らかの問題が発生した場合、それは南アフリカの問題であり、ロシアはいかなる損害賠償からも免責される、つまり原発事故が発生した場合、ロシアからの損害賠償はない、とする条項も存在する。

 裁判によって、この原子力にまつわる意思決定が必要な行政手続を経ず、秘密裏に行なわれてきたことが明らかになった。省内の原子力発電所購入にかんする意思決定は、休暇時期である2015年12月に行なわれたことになっていた。しかし裁判によって明らかとなった政府記録によれば、実は内部の意思決定は早くも2013年には行なわれ、約2年にわたって、秘密にされていた。

 SAFCEIとELAは、悪い統治、そして南アフリカの人びとの教育や医療やその他の公共サービスに使えるはずだった巨額のお金を騙しとっているかのようなこの取引を止めるために、訴訟を提起した。
 今日、再生可能エネルギーは、簡単に利用できるようになった。太陽光に恵まれたこの国では低価格で利用可能だ。これまで、南アフリカ政府は裁判所の要求への返答を遅らせてきた。延期を要求したのも一再にとどまらない。そして、ようやく2016年6月になって宣誓供述書が提出された。

 私たち南アフリカの2つの小さなNGOは、この訴訟において、政府に透明性の向上を強いたことで、もうすでにかなりの成果を得たと考えている。そして、必要であれば憲法裁判所まで、訴訟を継続する。みなさんのご支援をお願いしたい。

 さらなる情報は以下から入手いただける。
nuclearcostssa.org/、 safcei.org/category/nuclear/
 南アフリカの原発建設計画阻止のためのご寄付はこちらから。www.givengain.com/cause/6357/campaigns/15676/

(翻訳:松久保肇)

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