沿岸海底下の地層処分 調査空白域が大きな問題
唐突感がぬぐえない沿岸海底下処分
科学的有望地が16年中に提示されることになっている。全国を適性の低い地域、適性のある地域と、より適性の高い地域に区分して図示すとしている。地名や地域名は示さない。最終処分関係閣僚会議はより適性の高い地域を科学的有望地と定義づけている(第2回資料)。
科学的有望地に関して、地層処分技術ワーキンググループが、輸送上の制約から沿岸より陸側へおよそ20km以内が「より適性の高い地域」とした。ガラス固化体と輸送容器を含めると100トンにおよぶからだ。
これを受けて、資源エネルギー庁(以下、エネ庁)は「沿岸海底下等における地層処分の技術的課題に関する研究会」(主査:大西有三)を16年1月26日に発足させ、これまでに3回の研究会を開催して取りまとめ骨子を提案している(4月19日)。今後、委員からの意見を反映させた取りまとめを行う予定だ。16年中に科学的有望地の提示を行うとしているので、それまでにはとりまとめが行われるはずだ。
これまでエネ庁のパンフレットには処分場概念として陸上の地下のみだったので、海底下の処分は唐突感が否めない。
これまでの沿岸海低下処分に関する調査研究
とはいえ、沿岸海底下での処分に関する技術的課題などについては、エネ庁が95年に組織した地層処分基盤研究調整会議において調査研究が行われてきた。同調整会議の構成組織は、核燃料サイクル開発機構(現、日本原子力研究開発機構)、原子力環境整備促進・資金管理センター、電力中央研究所、海洋研究開発機構、放射線医学総合研究所、産業技術総合研究所である。これまでの調査研究内容は、塩淡境界面形状把握調査(02~06年)、沿岸域塩淡境界・断層評価技術高度化開発(07~12年)、海域地質環境調査技術高度化開発・確証技術開発(11~15年)などである。
タイトルだけをみても沿岸海底下の地層処分技術に課題が多そうだと分かる。そして長い研究開発にもかかわらず、後述するように、まだ不十分と言わざるを得ない。
沿岸海底下での処分のイメージ
提案されている海底下処分場は、沿岸から沖合への距離は概ね15km以内としている。海洋投棄を規制したロンドン条約による制約から、陸地から掘り進むことが前提となっている。また、島嶼(とうしょ)部も沿岸海底下処分の対象となっている。
従来の処分場が地上から地下へらせん状に降りていくのに対して、沿岸海底下の場合の特徴は一直線に処分スペースにアクセスする点である。15kmとしたのは、処分容器の運搬上の理由による。直径40センチ高さ1.4メートルほどのガラス固化体とこれをすっぽり包む厚さ19センチのオーバーパックを地下処分場へ運搬するのだが、アクセス坑道の傾斜が急だと車両による搬送が困難になるからだ。傾斜角を約7度として計算して、海底下300mの深さに達するには14km必要との計算からきている。これは代表例で、状況によっては地上施設かららせん状に地下まで進み、その後横方向にアクセス坑道を掘ることも考えられる。
とりまとめ骨子案と諸課題
骨子案の結論は、「沿岸海底下を想定した地下施設の設計・建設、化学場・水理場の影響を考慮した安全評価のいずれについても、必要な基本的な技術は概ね整備されていると考えられる。このため、沿岸海底下においても地層処分は技術的に実現の可能性があると考えられる」。
その上で、同案には「信頼性向上のための課題」として、以下の7つの課題をあげている。
①沿岸部海域や海成段丘の発達していない陸域における隆起・侵食に係る調査・評価技術の高度化
②マグマ・深部流体等の有無を確認するための調査・評価技術の高度化
③海陸境界付近における活断層分布などを確認するための調査・評価技術の高度化
④塩分濃度や溶存成分等が異なる地下水条件下における人工バリア構成材料の特性や核種移行データの拡充
⑤沿岸部における地質環境調査・評価、工学的対策、安全評価に係る一連の調査・評価技術の体系的な整備
⑥地上・地下施設の総合的な設計の検討
⑦シナリオ構築手法や核種移行評価モデルの高度化
過去の長い研究開発をもってしても、なお、これだけの課題をあげている点に留意しておきたい。
海底下処分に対する筆者のいくつかの疑問
沿岸域では淡水と塩水の境界ができている(きっちりとした境界ではなく混在している部分もある)。これを塩淡境界というが、寒冷化・温暖化により海水面が上下変動を起こすと、塩淡境界が周期的に移動を繰り返すことになる。地下水が塩水になれば、例えばオーバーパックの腐食が早くなることやそれを包む粘土(ベントナイト)の閉じ込め機能が劣化するなどが想定され、技術的な対策が求められる。
あるいは、坑道に海水が漏出してくることも考えられる。この場合には止まることなく漏出が続くことになり、ベントナイトに触れればその劣化が激しくなるし、オーバーパックの腐食も一層激しいものになる。これらは地層処分の長期安定性に影響を与えることになる。
また、寒冷化が進み、海岸線が沖合へ移動すると処分場が陸域となる場合があるが、その過程で波による浸食や河川による浸食が起きる。処分場の長期安定性に影響を与える恐れがある。
有望値提示、段階的選定過程上の問題
研究会で特に議論となっていたのは③と⑤だった。海陸接続部においては物理探査による調査がほとんど行われていないので、基盤地質や活断層の有無が分からない。幌延では沿岸プロジェクトで接続部の調査が行われ、また、同様の調査は中越沖地震の後に柏崎刈羽原発で行われたので、技術的には調査可能であるだろう。とはいえ、産業総合研究所のこうしたほんの一部の事例を除いて海岸線から数キロ(場合によっては10km以上)沖まで調査空白地域がぐるりと日本列島を取り巻いている。
筆者がここで問題と考えることは、有望地提示段階で全国的に使用できる資料はなく、また次の文献調査段階に入っても文献資料がないことだ。結局、沿岸海底下を検討するための資料は概要調査段階以降でないと整えられないことだ。科学的有望地として沿岸海底下を含めて考えることはとてもできない。
(伴英幸)