福島県沖の地震(2月13日、マグニチュード7.3)が起きた福島第一原発はどうなっているのか

『原子力資料情報室通信』第562号(2021/4/1)に要約を掲載

■福島県沖の地震

2021年2月13日23時8分ごろ福島県沖でマグニチュード7.3(震源の深さは55km)の大きな地震が発生した。2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震(マグニチュード9.0、深さ24km)の余震とみられており、福島県沖地震の震源は、東北地方太平洋沖地震の震源より西南西に向かって150kmほど陸側に近くなっている。

宮城県の蔵王町、福島県の相馬市などで震度6強という大きな揺れをもたらした。防災科学研究所(防災科研)の観測網(K-net・KiK-net)では、最も大きな地震の揺れが記録されたのは宮城県亘理(わたり)郡山元町の観測地点で、最大加速度は1432ガル(地表面、水平方向)と、かなり大きかった。

この地震の震源断層面(破壊された地下の断層面)は、震源から陸に向かって西北西に傾き上がるように広がっていると防災科研によって推定されている(地震の発生メカニズムは逆断層型で、圧縮の軸は西北西—東南東)。

図1 福島県沖の地震の震央位置(気象庁の資料をもとに筆者作成)

■福島第一原発での地震直後の被害状況

この地震で福島第一原発でも大きな揺れがおきた。

5号炉の原子炉建屋地下1階の建屋基礎版上(T.P.-0.49m:T.P.は東京湾平均海面を基準にした高さ)に設置された地震計で観測された最大加速度は、水平方向213ガル、上下方向181ガルであった。6号炉の原子炉建屋地下2階の建屋基礎版上(T.P.-0.43m)に設置された地震計で観測された最大加速度は、水平方向235ガル、上下方向117ガルであった。水平方向の揺れの大きさは5号炉と6号炉では大きな差はみられないが、上下方向の揺れでみると5号炉のほうが6号炉より5割以上大きい。これは、5号炉に設置されている地震計の位置が6号炉のものより建屋の周辺部に近いことを考えに入れてもそれだけでは説明できず、5号炉の建屋の方が上下の揺れの影響を受けやすいことを示している。

原子炉が自動停止する設定値は、5・6号炉とも、建屋基礎版上で水平方向135ガル、上下方向100ガルと設定されていたので、もし原子炉が運転状態であったら、2つの原子炉とも緊急自動停止の信号が発せられるレベルの大きな揺れがおきていたことになる。

東京電力が公表した被害の状況報告によると、地震直後の原子炉の水温・水位などのデータや放射線・ダストモニタの値に異常はみられなかったが、施設のパトロール中に、5・6号炉の使用済み燃料プールと共用プール近くで水溜まりが何か所かみつかっており、地震の揺れによって水があふれ出た(スロッシング)ものだ。

使用済み燃料プール冷却設備や原子炉注水設備は運転を継続されたが、窒素ガス分離設備は一部に不具合がみられたため、系統を切り替えて運転が継続された。水処理設備は手動で停止され、滞留水移送設備やサブドレンは2月15日までに復旧された。第3セシウム吸着装置(サリーII)は、通信の異常で停止し、2月15日に運転再開した。

現場パトロールによって多数の不具合・故障箇所がみつかっている。5・6号炉付近のFタンクエリアでは、タンクのフランジ部からの少量ではあるが漏えいが確認され、系統の接続停止やタンクの水位を低下するなどの措置がとられた。淡水化装置(RO-3)ではフィルタからの漏えいがみつかったため、漏えい水約15リットルを回収し、この部分の前後の弁を閉止して隔離する措置がとられた。瓦礫保管エリア一時保管施設では、瓦礫コンテナが転倒したり傾いたりしているのがそれぞれ数箇所みつかっている。また、増設ALPSおよび高性能ALPSのサンプルタンクの位置ズレがおきているのがみつかったり、処理水タンクでも同様のズレがみつかっている。2月25日の段階で全体で53基のタンクで位置ズレが確認され、最大のズレ量は19cmに達している。とくにRO淡水、ストロンチウム処理水のタンクのズレが大きかった。

福島第一原発以外では、女川原発3号炉のタービン建屋のブローアウトパネルが開放したり、女川2・3号炉でサンプリング用の取水ポンプが停止したため放水モニタが欠測したりしたことが東北電力によって報告されている。

■1・3号炉の原子炉格納容器で水位が低下

福島第一での今回の地震の影響でもっとも気になるのが、1号炉と3号炉の原子炉格納容器内の水位の低下である。地震発生直後は原子炉や格納容器まわりの温度や水位などのパラメーターに変化はみられないとのことであったが、2月18日に1号炉の格納容器水位計の指示値に低下傾向がみつかった。格納容器内に設置されている水位計は水位を連続の値として読みとれるものではなく、とびとびの位置に取り付けられてるセンサーが感知する方式のものである(接点式)。それまで「L3」が水没している(「L4」は干上がっている)ことを指示していた水位計が、2月18日の11時ごろの定時計測で、「L3」が干上がり、水没しているのが「L2」までの状態にかわっていることがわかった(「L4」,「L3」,「L2」の設置間隔は60cm)。

東京電力が他のパラメーターをさかのぼって確認したところ、1号炉では2月15日ごろから、3号炉では2月17日ごろから、それぞれの格納容器温度計の一部の値が低くなってきていることがわかったため、1号炉と3号炉では、格納容器内の水位が地震の少し後から低下してきている、と判断している。格納容器内の水位低下の原因として、東京電力は「地震による原子炉格納容器損傷部の状況変化」が考えられるとしている。

これまでの調査で1号炉と3号炉の格納容器には損傷箇所があることがわかっている。1号炉では、真空破壊ラインのベローズとサンドクッションドレン配管の破断箇所からの漏水が確認されている。真空破壊ラインのベローズの方は漏えい箇所が確認されており、また、サンドクッションドレン配管の方は水がたまっている格納容器のどこかに漏えい箇所があり、この配管に流れ込んでいることを示している。3号炉では、格納容器の貫通部(ペネトレーション)のすぐ外側にある主蒸気配管の伸縮継手部からの漏えいが確認されている。これらの損傷箇所はいずれも、現在の格納容器の水位の高さに近い位置にある。それゆえ、2月13日の福島県沖の地震によってこれらの損傷箇所が拡大した可能性がある。さらに格納容器の水位が下がり続けるようであれば、新たな損傷箇所が発生したことを意味する。

1号炉と3号炉では、熔け落ちた炉心燃料の大半が原子炉圧力容器を貫通し、格納容器のコンクリート床部分に落ち、さらにコンクリートを侵食している状態であると考えられている。熔融燃料のかたまり(デブリ)の冷却と放射線遮へいのため注水されているのだが、水が干上がってしまえば、ただちに放射能の環境中への放出につながる。


図2 福島第一1・3号炉の格納容器水位と損傷箇所のイメージ(東京電力の資料より抜粋)

■今後心配されること

東京電力は2月22日の特定原子力施設監視・評価検討会で、3号炉の原子炉建屋に設置していた2台の地震計を故障したまま放置していたため、2月13日の地震の記録が取得できていないことをあきらかにした。3号炉の原子炉建屋の耐震強度の評価のため、2020年4月に運用開始したばかりであったが、7月に大雨により1階の地震計が水没し、10月にはオペフロに設置した地震計が放射線によるノイズの問題で使用不可となっていた。

東京電力や原子力規制委員会の建屋内部の調査映像をみると、原子炉建屋の内部の損傷や劣化はすさまじく、とくに、天井部分の梁が大きく屈曲していたり、床が崩れていたり、鉄筋がコンクリートと分離したりしている様子がわかり、かろうじて崩壊をまぬがれている、といった状態にみえる。

余震もつづいている。何度か今回のレベルの地震に襲われれば崩壊してしまうおそれもある(3月20日の宮城県沖の地震(M6.9)の震央位置は、女川原発からわずか17km東の位置であった)。

(上澤千尋)

■参考資料
東京電力(廃炉・汚染水対策チーム会合/事務局会議(第87回))
www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/decommissioning/committee/osensuitaisakuteam/2021/02/index.html

原子力規制委員会(第89回特定原子力施設監視・評価検討会)
www.nsr.go.jp/disclosure/committee/yuushikisya/tokutei_kanshi/140000124.html

気象庁、令和3年2月13日23時08分頃の福島県沖の地震について
-「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震」について(第89報)-
www.jma.go.jp/jma/press/2102/14a/202102140110.html

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